ビジネス書 コロナ禍で注目のワケとは?

ビジネス書 コロナ禍で注目のワケとは?
新型コロナの影響で、ビジネス書が売れています。リモート勤務や外出自粛などで増えた時間を「学び」に充てる人が増えているようです。経済の状況が厳しい今、自分自身を見つめ直したり、スキルを磨いてキャリアアップを目指す人も多いのかもしれません。ビジネス書を、より多くの人に活用してもらおうという要約アプリの利用も広がっています。この年末年始に、たくさん本を読むぞと意気込んでいる私。コロナ禍でのビジネス書人気の最新事情を取材してきました。(経済部記者 茂木里美)

“出版不況”を吹き飛ばす?

出版物取り次ぎ大手の日販=日本出版販売が発表した、この1年間のベストセラー。総合部門では人気漫画「鬼滅の刃」の関連書籍が上位を占めて話題となりましたが、ことしはビジネス書の健闘も光りました。
特徴は、コミュニケーションに関する本が上位に入ったことです。

1位の『人は話し方が9割』は、人から好かれる話し方などを紹介しています。この本は文芸書なども含めた総合順位でも12位に入りました。

また、3位の『「繊細さん」の本』も、コミュニケーションに関する内容。他人の話し方や態度に振り回されてしまう「とても敏感な人」へのメッセージがつづられています。

日販は「テレワークが広がり、人とじかに接触する機会が減ったことで、人との話し方、コミュニケーションのとりかたといった内容の本がよく読まれたのではないか」と分析しています。
ビジネス書全体の店頭売り上げもコロナ禍の中、伸びています。

緊急事態宣言が出た4月には書店の休業などもあり、前年同月比で10%落ち込みましたが、5月以降は急速に回復。8月は+9.7%、9月は+10.9%、10月は+14.5%と毎月二ケタ前後の伸びを続けています。

非接触型の立ち読みを

ビジネス書を、もっと手軽に手にとってもらおうという試みも広がっています。
取材したのは川崎市にある書店。店内のビジネス書売り場にあるQRコードをスマホで読み取ると、特定の本の要約版を読むことができるのです。

新型コロナを警戒して、不特定多数の人が触れる店頭の書籍を手に取ることを敬遠する人もいる中、「触らない立ち読み」を促して販売拡大につなげるキャンペーンです。日販が10月から全国300の書店で展開しています。
加藤係長
「感染防止という点に加えて、表紙や帯で興味を持っていただいた本について要約版に目を通していただくだけで内容の理解が深まる点が、このサービスの大きなメリットだと感じていて、今後も継続して展開できるよう検討していきたいと考えています」

要約サービスも需要増

「触らない立ち読み」は無料のキャンペーンですが、これを可能にしているビジネス書の要約サービスはアプリでも提供されていて、コロナ禍で利用が伸びています。

開発したのは都内のITベンチャー「フライヤー」。大変な読書好きだという大賀康史CEOが、7年前、1冊でも多くの本に触れたいという思いから起業しました。
通常は専用のアプリで契約者に有料でビジネス書の要約を提供しています。1冊につき、文字数は4000字、10分程度で読めることを目安にしています。
関連する分野の専門家が対象とする本を選び、書籍の編集経験がある社員などが要約作業を担当します。毎日1冊、新しい本を提供していて、これまでに提供したビジネス書の数は2000冊を超えています。

コロナ禍で特に伸びているのが、アプリの法人会員です。新型コロナの感染拡大で急きょ、テレワークを始めた企業のなかには、遠隔での人材育成をどう行えばいいのか悩む会社も多くありました。

特に4月に入社した新入社員に対して、これまで当たり前だった集合研修ができない企業からの引き合いが増えたと言います。在宅で過ごす間に、アプリでさまざまなビジネス書に触れることで、ビジネスの知識を深めてもらおうというニーズにマッチしているようです。
大賀CEO
「コロナを受けて、企業からの問い合わせの数は3倍くらいに増えたと思います。このような環境下でも企業は、毎日社員に学ぶきっかけを提供したいという思いがあり、社員としても、どうしたら会社の業績に貢献できるのか、自分のスキルをどう示していけばいいのか、そういった悩みに対して、ビジネス書に触れることで個人のスキルアップにもつながるのではと考えています」

新しい知見に期待

6月から社員の研修用にこのサービスを取り入れたのが、金融大手のみずほフィナンシャルグループ。導入のねらいを人材育成の担当者はこう話しています。
片岡調査役
「感染拡大で、今まで行っていた集合研修が、ほとんで実施できなくなってしまいました。しかし人事としては社員の学びを止めることはできず、研修によらない学びの機会としてビジネス書を選択したのです。時間を有効活用して知識をインプットしてもらい、今まで触れてこなかった分野に触れてもらうことで、新しい気付きとか発想が生みだされることに期待しています」
超低金利が続き、融資の利ざやから稼ぐ従来の銀行ビジネスからの脱皮を迫られている銀行業界。新しいビジネスモデルを模索する中、一人一人の社員にビジネス書を通じてさまざまな分野への知見を広げてもらうことで、新しい発想を獲得してほしいと考えているそうです。
このサービスを使えば、担当部署も、どういった関連の本が読まれているのかといった社員の関心分野を把握でき、今後の人材育成のメニュー開発にも生かすことができます。

本の要約サービスは、このほかにも情報サービス会社「情報工場」が展開する「セレンディップ」など、複数あります。新しい発想を効率的に得たい、学びに役立てたいというビジネスパーソンのニーズを背景に市場が拡大しているようです。

読書の秋は過ぎたけれど

新型コロナウイルスで、働き方、生活のスタイルが変わったという人も少なくないと思います。自宅で過ごす時間が増えることに不安もあるかもしれません。企業の側にも戸惑いが生じているケースもあるかと思います。

でも、そこで立ち止まっているだけでは、もったいないかも。「読書の秋」は過ぎてしまいましたが、せっかくできた時間ですから、紙、スマホ、タブレットなど、どんな形式でも、本を手にとってみるのもいいかもしれません。
経済部記者
茂木 里美
フリーペーパーの編集者を経てNHKに入局。
さいたま局、盛岡局を経て平成29年から経済部