東京都モニタリング会議「医療提供体制 ひっ迫し始めている」

東京都内の新型コロナウイルスの感染状況などを分析・評価する「モニタリング会議」が開かれ、新たな感染の確認や入院患者が増加していることをうけて、専門家は「通常医療との両立が困難な状況となっている。医療提供体制がひっ迫し始めている」と指摘し、強い危機感を示しました。

会議の中で専門家は、都内では新たな感染の確認や、重症化するリスクが高い65歳以上の感染が高い水準で推移していると報告しました。

そして、「高齢者への感染の機会をあらゆる場面で減らすことや、深刻な医療提供体制の機能不全を避けるための感染拡大防止策が必要だ」と述べました。

そのうえで、都内の感染状況について、先週に引き続き「感染が拡大していると思われる」という最も高い警戒レベルにしました。

一方、医療提供体制は、「体制強化が必要であると思われる」という上から2番目の警戒レベルを維持しました。

ただ、専門家は、入院患者の増加傾向が続き、前回からおよそ200人増えて1800人を超える非常に高い水準まで増加していると説明して、「通常医療との両立が困難な状況となっている。医療提供体制がひっ迫し始めている」と指摘し強い危機感を示しました。

そして、「新規陽性者と重症患者の増加を防ぐことが最も重要だ」と呼びかけました。

医療体制で“3つのひっ迫”

会議で都内の医療提供体制を分析・評価した東京都医師会の猪口正孝副会長は、3つの「ひっ迫」があると説明しました。

1つ目は、「病床全体のひっ迫」です。
医療機関は通常の医療を行っている病床を新型コロナウイルスの患者用に転用していて、入院患者の急増で通常の医療との両立が困難な状況だとしています。

2つ目は「重症患者用の病床のひっ迫」です。
人工呼吸器を装着している患者が複数入院している医療機関の負担が増しているとしています。重症患者は新規陽性者の増加から少し遅れて増えてくることなどを踏まえて、病床の確保を進める必要があるとしています。

そして、3つ目は、「入院の調整のひっ迫」です。
保健所から都に対して入院の調整が依頼される件数は新規陽性者の急増に伴い高い水準で推移し、翌日以降の調整に繰り越す例が連日、多数発生しているとしています。
また、緊急性の高い新型コロナウイルスの重症患者のほか、認知症や透析患者、精神疾患がある患者などの手続きが難航しているとしています。

猪口副会長は医療提供体制の警戒レベルについて、「上から2番目を維持したが、非常に苦しい状況だ。たくさんの『ひっ迫』があるがこれは『ひっ迫し始めている』という状態で、完全にマヒしているわけではない。いかにここで食い止めるかだ」と話しています。

都内全体の病床数は360床増加し3000床に

会議では、東京都は重症患者向けも含めた全体のベッド数を、360床増やして3000床確保したことを明らかにしました。

会議のあと東京都医師会の猪口正孝副会長は「やることはやったので早く患者が減ってくることを待っている。まだ大きな破綻をきたした事象がないのでこの体制を維持してしっかり守っていきたい」と述べました。

そのうえで、今後の見通しについて「ピークアウトしたのか、このままもう少し増えてしまうのかはわからない。このため、『GoToトラベル』の自粛の呼びかけなどいろいろやっていることが効いてきているのか、まだ効ききっていないのか、続けないといけないのか、よくわからない。判断しづらい局面だ」と述べました。

専門家の分析は

10日のモニタリング会議の中で示された都内の感染状況と医療提供体制についての分析結果です。

感染状況

新たな感染の確認は、9日までの7日間の平均が424.6人で、前の週(=443.3人)からおよそ19人減りました。

ただ、専門家は、「依然として高い数値の状態が続いている。規模は小さいもののクラスターが頻発し感染拡大が続いている」と分析しています。

そのうえで「通常の医療が圧迫される深刻な状況となりつつある」と指摘し、新規の陽性者の増加を防ぐことが最も重要だとしています。
今月7日までの1週間で確認された2917人の新規陽性者の年代別の割合をみると、
▼20代が最も多く24.2%
▼30代が18.8%
▼40代が16.1%
▼50代が12.5%
▼60代が7%
▼70代が6%
▼10代が5.5%
▼80代が5.3%
▼10歳未満が2.7%
▼90代以上が1.9%でした。

65歳以上の高齢者は前の週より22人増えて468人となり、割合も前の週より0.2ポイント増えて16%となりました。

さらに75歳以上でみると、前の週から65人増えて295人となり、割合も前の週より2ポイント増えて10.1%となりました。

専門家は「重症化のリスクのある65歳以上の高齢者が高い水準で推移している。家庭、施設をはじめ高齢者への感染の機会をあらゆる場面で減らすとともに、基本的な感染防止策を徹底する必要がある。家族が軽症や無症状であっても高齢者にうつすリスクがあることに留意してほしい」と指摘しました。
一方、感染経路がわかっている人のうち▼家庭内での感染は45.2%で、感染経路別では19週連続で最も多くなりました。

また、年代別にみると80代以上を除くすべての年代で家庭内感染が最も多くなりました。

80代以上では、施設内での感染が72.4%と最も多くなっています。

このほか、
▼病院や高齢者施設などの施設内は19.9%で
▼職場内は10.3%
▼会食が6.1%
▼夜間営業する接待を伴う飲食店は2.5%でした。

専門家は、「日常生活の中で感染するリスクが高まっており深刻な医療提供体制の機能不全を避けるための感染防止策が必要である」と分析しています。

さらに、「院内感染が拡大するとその医療機関の体制が低下するだけでなく、もともと病気で入院している人が感染することで重症患者や死亡者が増え都内の医療機能や連携システムに影響が生じる。例えば、地域の基幹となる救命救急センターで院内感染が発生して救急患者の受け入れが停止すると、周辺の救急病院への負担が増し通常の医療を制限せざるを得なくなって病床の確保が一層厳しくなるという連鎖が起きてしまう」と指摘しました。

また、「感染の広がりを反映する指標」としている感染経路の分からない人は7日間平均で232.1人で、前の週よりおよそ17人減りましたが、(前週=249.3人)今月3日にはこれまでで最大となるおよそ250人となりました。

年代別にみると20代から40代では60%、50代と60代でも50%をそれぞれ超えています。

このほか、この1週間で確認された新規陽性者のうち23.2%が無症状でした。

都は、都外に住む人がPCR検査のためだ液を都内の医療機関に送り、その後、都内の保健所に陽性の届けが出たケースを除いて分析・評価していますが、今週はこうしたケースが147人いました。

医療提供体制

検査の「陽性率」は、9日時点では6.1%で、前回の6.5%から横ばいでした。

一方、入院患者は、9日時点で1820人で、1週間前、今月2日の時点より191人増えています。

専門家は「入院患者が1800人を超える非常に高い水準まで増加しており、医療提供体制、ベッド数がひっ迫し始めている」と指摘しました。

さらに、「受け入れ可能な病床数が少ない状況が続き、緊急性の高い重症患者、認知症、透析患者や精神疾患を持つ患者の入院、高齢者施設からの転院に加え中等症以上の新規入院患者の入院調整が難航している」と指摘しました。

このほか、9日の時点で自宅で療養している人が1073人、都が開設したホテルなどで療養している人は804人となっていて、専門家は「自宅療養者の増加に伴って健康観察を行う保健所の負担が増加していることを踏まえた年末年始の療養体制の確保が急務である」と指摘しました。

また、都の基準で集計した重症患者は9日時点で59人で、前回、1週間前と同じでした。
59人を年代別にみると、
▼30代が1人
▼40代が3人
▼50代が4人
▼60代が17人
▼70代が20人
▼80代が14人

性別では、
▼男性が44人
▼女性は15人でした。

専門家は「基礎疾患のある人、肥満、喫煙歴のある人は若い人であっても重症化リスクが高いことを普及啓発する必要がある」と指摘しました。

さらに、「例年、冬は脳卒中や心筋梗塞などの入院患者が増える時期であり年末年始に休日対応となる医療機関で重症患者のための病床の確保との両立がより一層困難になることが予想される」と述べ、強い危機感を示しました。

今月7日までの1週間で都に報告された亡くなった人は28人で、前の週の10人から倍以上に増えています。28人のうち21人が70代以上でした。

小池知事「高齢者や基礎疾患ある人外出控えて」

東京都の小池知事はモニタリング会議のあと「全国的に非常に厳しい感染状況となっている。東京については、医療提供体制がひっ迫し始めているなどのご指摘をいただいた。感染拡大を食い止めるためには、厳重な警戒が引き続き必要だ」と述べました。

そして「年代が上がるほど亡くなる割合は高くなっている。亡くなった人の多くは何らかの持病を持っている。高齢者と基礎疾患のある方は外出はできるだけ控えてほしい」と呼びかけました。

また、酒を提供する飲食店などに営業時間を短縮するよう要請していることについて「これまで何度か短縮のお願いをしてきた。ウィズコロナの新年よりは、ウィズアウトコロナの新年を迎えたい。そういう意味でここは改めて引き締めていただく」と述べ対策の徹底を呼びかけました。