夫婦や親子が一緒に命を絶つケース相次ぐ 10月以降だけで36人

夫婦や親子などが一緒に命を絶つケースが相次いでいます。先月の末、東京都内で3日間に6人が亡くなるなど10月以降だけで全国で合わせて36人が亡くなっていたことが分かりました。家族の無理心中や複数での自殺について、専門家は「これまでの悩みや苦しみが新型コロナウイルスの感染拡大の影響で悪化し死にまで追い込まれているのではないか」と指摘しています。

東京都内では先月27日から29日の3日間に6人の親子や夫婦が亡くなりました。

このうち町田市の住宅では先月27日、75歳の夫と73歳の妻が寝室のベッドに並んだ状態で亡くなっているのが見つかりました。

捜査関係者によりますと死因はいずれも窒息死で、現場の状況などから夫が妻の首を絞めた後、みずから命を絶ったとみられるということです。

夫が認知症の妻を1人で介護していて「とてもつらい6年間でした」などと書かれたメモが残されていたということです。
NHKが警察などに取材して調べたところ、ことし10月以降に夫婦や親子などが命を絶った無理心中や複数での自殺は全国で少なくとも17件あり、36人が亡くなっていたことが分かりました。

去年の同じ時期に比べて件数はおよそ2倍に増えています。

生活の苦しさや生きていく中での悩みを周囲に話していた人も多く、高齢の夫婦や中高年の親子が亡くなるケースが目立っています。

自殺の問題などに詳しい南山大学の森山花鈴准教授は「新型コロナウイルスの影響で生活環境が変わったことですべての人がこれまでよりもストレスを抱えている。みんなはじめのころは何とか頑張ってきたが、息切れしてきていると感じていている。さまざまな悩みや苦しみが新型コロナによってさらに悪化し、死を選ばざるをえないところまで追い詰められているのではないか」と指摘しています。

東京 町田の夫婦 老老介護が背景か

東京 町田市の住宅で先月27日、亡くなっているのが見つかった75歳の夫と73歳の妻。

捜査関係者によりますと、夫は頭から袋をかぶった状態でした。

死因はいずれも窒息死で、現場の状況などから夫が妻の首を絞めた後、みずから命を絶ったとみられるということです。

関係者によりますと、夫はかつて地元の工務店に勤める職人で、8月に開かれる地元の祭りでは毎年、やぐらを組み立てる作業を手伝うなど、周囲に頼られる存在でした。

しかし、6年前に息子ががんで亡くなってから妻の認知症などの症状が悪化し、夫は工務店を退職して妻を1人で介護するようになったということです。

妻は病院には通っていたものの、介護サービスなどは利用しておらず、捜査関係者によりますと、自宅に残された遺書のようなメモには「とてもつらい6年間でした」などと書かれていたということです。

夫婦はふだん、近所づきあいがほとんどなかったといいます。

地元では老人会の活動が盛んで、およそ120人が参加していますが、夫婦が顔を出すことはなかったということです。

老人会では1人暮らしのお年寄りの見守り活動を行っていて、毎月、自宅を訪問して安否を確認していますが、夫婦2人暮らしは対象になっていませんでした。

老人会の会長を務める男性は「老人会に入ってくれていれば悩みの相談にも乗ることができたと思うと残念です」と話していました。

また、高齢者の相談に応じている町田市の地域包括支援センターでは、数年前に相談員が自宅を訪れ、利用できるサービスを紹介するチラシを夫に手渡していました。

しかし、連絡がないことから支援が必要な家庭という認識がなく、その後、訪問することはなかったということです。

さらに、地元の民生委員も「支援の依頼を一度も受けたことがなく、接点は全くなかった」としています。
こうした状況について、近くに住む弟はNHKの取材に対し「絶対に弱音を吐かない頑固な職人気質で、誰かの世話になることを嫌う性格だったので、1人ですべてを背負っていたのではないか」と話しています。

何事も我慢してしまう性格を気遣い、弟は数か月に一度のペースで夫婦のもとを訪ねていましたが、新型コロナウイルスの感染が拡大したあと、しばらくは訪問を控えていたということです。

最後に会ったのは夫婦が亡くなる10日ほど前でしたが、その時は世間話をしただけで、特に変わった様子はなかったといいます。

弟は「兄は責任感が強い性格だったので、以前から『死ぬときは2人一緒だ』と冗談のように話していましたが、突然死なれてしまい、残された家族や親族はとてもつらい思いをしています。周囲が悩みに気付いてあげられたら少しは楽になったかもしれないので、なぜもっと相談してくれなかったのかと言いたいです」と話していました。

東京 文京区の夫婦 後継者不在で悩みか

東京 文京区では先月29日、いずれも82歳の夫婦が自宅で亡くなっているのが見つかりました。

妻は寝室の布団の上で首にネクタイが巻かれた状態で、夫は台所の前でそれぞれ倒れていたということです。

遺書が見つかったことなどから、警視庁は夫が無理心中を図ったとみて調べています。

夫婦は10階建てのビルのオーナーで、自宅はこのビルの上層階にありました。

関係者によりますと、夫婦はビルの清掃などの管理業務をみずから行っていましたが、最近は高齢のため、夫は管理を続けることが難しいと感じていたといいます。

このため、夫は後継者を探していましたが見つからず、最近は精神的に不安定になり悩んでいる様子だったということです。

一方、夫婦は近所づきあいが少なく、地元の祭りや新年会などの行事にはほとんど顔を出していませんでした。

夫が唯一参加していた年末年始の防犯パトロールにもおととしからは姿を見せなくなったほか、新型コロナウイルスの感染拡大後は外出する姿も見かけなくなったということです。

夫婦のビルの向かいに住む女性によりますと、妻は今後の生活を考えて夫婦で高齢者施設に入所することを希望していたといいます。

夫は「生まれ育った場所を離れたくない」と反対していたということですが、最近になって妻が「夫がようやく承諾してくれた」と話していたということです。

2人が亡くなったのは、そのやさきのことでした。

向かいに住む82歳の女性は「奥さんとはよく話をしていたので、まさかこんなことになるとは思いませんでした。高齢の夫婦だけでビルを管理しなければならないことが負担で、疲れ切ってしまったのかなと思います」と話していました。

神奈川 座間の親子 生活困窮か

東京 町田市では、先月28日にも87歳の母親と52歳の娘が小田急線の駅の線路に飛び込んで亡くなりました。

警視庁によりますと、駅の防犯カメラには2人が深夜にホームに到着したあと、およそ1時間にわたって何度も線路に飛び込もうとしてはためらう様子が写っていたということです。

2人は神奈川県座間市に住む親子で、遺書は見つかっていませんが、現場の状況などから心中を図ったとみられています。

警視庁などによりますと、2人は数年前から生活に困っていて、特に新型コロナウイルスの感染が拡大したあとのことしの夏以降、近所の人などに借金を申し込むことが増えていたということです。

専門家 新型コロナで環境変化が影響か

夫婦や親子が一緒に命を絶つケースが相次いでいることについて、自殺の問題などに詳しい南山大学社会倫理研究所の森山花鈴准教授は、新型コロナウイルスの感染拡大による生活環境の変化が影響した可能性があると指摘しています。

森山准教授は「悩みを抱えながらもずっと耐え続けてきた人にとって、生活環境の変化によって生じる新たなストレスは非常に大きな負担となる。その一方で、感染予防対策の徹底が求められる中、人と人とのつながりが希薄になり、周囲の人が悩みのサインに気付きにくい状況が生まれている。その結果、さまざまな悩みや苦しみがさらに悪化し、死を選ぶところまで追い詰められているケースが増えているのではないか」としています。

そのうえで「家族がいればなんとかなると思いがちだが、限られた空間の中では本来解決できる悩みでも先に進めなくなってしまうことがある。新型コロナウイルスの影響で直接会う機会が減っているが、気になる人が身近にいる場合は積極的に電話をかけるなど連絡を取るようにしてほしい。地域や行政の中でそうした行動をとれる人が増えていけば、追い詰められた人たちの悩みに寄り添い、解決することにつながっていく」と話していました。