イギリス 新型コロナウイルスのワクチン接種始まる

イギリスでは、アメリカの製薬大手ファイザーとドイツの企業ビオンテックが開発した新型コロナウイルスのワクチンの接種が、8日、各地で始まりました。

イギリスでは、ファイザーとドイツの企業ビオンテックが開発した新型コロナウイルスのワクチンの接種が8日朝、日本時間の8日午後から各地で始まりました。

このうち、イングランドのコベントリーの病院では、90歳の女性がワクチンの接種を受けました。

女性は、接種について担当者から意思確認を受けたあとワクチンの接種を受け、見守っていた関係者からは拍手が起こっていました。

イギリスメディアは、この女性がワクチン接種を受けた最初の人だと紹介していて女性は「接種を受けることができて、とても光栄です。新年を家族や友人と一緒に過ごすことができるようになると思うと少し早い誕生日プレゼントをもらった気分です。接種を受けられると言われたら受けることを勧めます。90歳の私が接種したのだから大丈夫です」などとコメントしています。

このワクチンは、一定期間以上、保存するためにはマイナス70度前後の低温での管理が必要でロンドンのあるイングランドでは接種は当面、設備の整った50の病院で行われ、80歳以上の高齢者や高齢者施設の介護職員、一部の医療従事者が優先的に接種を受けることになっています。

またワクチンは、2回の接種が必要で、1回目の接種の3週間後に2回目の接種を受けることになっています。

イギリス政府によりますと今週中に、80万回分が供給される見通しだということです。

英 ジョンソン首相「ともにウイルスに打ち勝っていこう」

イギリスのジョンソン首相は、ツイッターに「イギリスで初となる新型コロナウイルスのワクチンの接種がきょう、始まった」と投稿したうえで接種を受けた90歳の女性を紹介しました。

そして、医療従事者やワクチンの開発に携わった科学者らに感謝の意を示し、ともにウイルスに打ち勝っていこうと呼びかけました。

また、ジョンソン首相は、ワクチンの接種が始まったロンドンの病院を訪れ、接種を受けた人や病院関係者と面会しました。

このあと、ジョンソン首相は、ワクチンの接種が始まったことについて、「これから大きな変化が徐々に、出てくることになる。徐々に、という点を強調したい。なぜならウイルスを打ち負かすことはできていないからだ。まだ一部の地域では感染は拡大している」と述べました。

そして「ワクチンは安全で接種は正しいことだ。心配しないでほしい」と述べ、ワクチンの接種を呼びかけました。

その一方で、接種が始まったのは素晴らしいことだが、感染対策を緩和することはできないと強調し、市民に協力を求めました。

接種を望む人は6割近く

ファイザーなどが開発したワクチンについて、イギリスの大手調査会社「YouGov」が先月16日から19日にかけて、ロンドンで成人1048人を対象に、ワクチンが使えるようになった場合、接種したいか聞いたところ、
▽「接種したい」が35%、
▽「どちらかといえば接種したい」が23%で、6割近くが接種を望むと回答しました。

一方で、
▽「接種したくない」は15%、
▽「どちらかといえば接種したくない」は10%で、接種を望まない人は全体の4分の1でした。

さらに7日、今回のワクチンを信頼するか成人4303人に聞いた調査では、
▽「非常に信頼」が28%、
▽「ある程度信頼」が40%で、7割近くが信頼していると答えました。

一方、
▽「全く信頼しない」が9%、
▽「余り信頼しない」が14%で、信頼しないと答えた人はおよそ2割でした。

ワクチンの接種は80歳以上の高齢者らが優先で、現地メディアは94歳のエリザベス女王も近く接種するとの見方を伝えています。

EUよりも先のワクチン承認 英国内では「離脱の成果」の声も

イギリスはことし1月にEU=ヨーロッパ連合を離脱しましたが、年内は急激な変化を避ける移行期間でEUのルールに従っています。

しかし、今回イギリスは、独自にワクチンの安全性を確認する手続きをとり、EUより先に承認する結果となりました。

これはパンデミックを含む公衆衛生上の緊急事態に医薬品を迅速に認可できる措置によるもので、ルール上はEUのほかの国も同様の対応をとることができるものの、離脱派の議員などからはEU離脱の成果だとの主張も出ています。

一方で、移行期間が終わる年明けからはEU離脱の影響がワクチンの輸送に及ぶ可能性が出ています。

イギリスで接種が始まったアメリカのファイザーとドイツのビオンテックが開発したワクチンはEU加盟国のベルギーで主に製造されていて、最初のワクチンはイギリスまで陸路で運ばれました。

しかし、年明けからは同じ方法でスムーズに輸送できるのかは不透明です。

イギリスとEUが現在進めている交渉の結果、自由貿易協定の締結などが実現しても、移行期間が終わる来年からは通関手続きが新たに必要になり、イギリスとEUの国境周辺で渋滞など交通の混乱が見込まれているからです。

このため、イギリス政府は軍用機などによる輸送も検討しているとみられていて、接種が本格化する年明け以降、低温での管理が必要な大量のワクチンをどのように計画どおりイギリス国内に運ぶのかが課題になりそうです。

接種始まった新たなワクチンは「mRNA」ワクチン

イギリスで接種が始まったワクチンと同じく「mRNA」を使った医薬品の開発を進める研究者は、「新型コロナウイルスを解決することが先だが、新しい医薬品の形としてさまざまな開発が進むことに期待したい」と話しています。

mRNAは、たんぱく質が作り出される際に働く物質で医薬品に活用するアイデアは、1990年にアメリカのウィスコンシン大学の研究グループが報告しました。

mRNAを使った医薬品の研究を行っている東京医科歯科大学生体材料工学研究所の位高啓史教授によりますと、mRNAは遺伝子治療の一環として研究が始まったということですが体の中で壊れやすいことなどからまだ、実用化には至っていないということです。

一方で、位高教授によりますと、mRNAはたんぱく質を作る設計図として使われたあとは自然に壊れてしまうことや投与しても細胞の「核」には入らず、ヒトの遺伝子と混ざってしまうことがないため安全性は高いということです。

また、ワクチンとして活用する場合、抗体を作る仕組み自体は従来のワクチンと変わらず、同等の効果が期待できるということです。

位高教授は、「mRNAを使った医薬品の研究開発はこの10年ほどで急速に進んでいて、新型コロナウイルスが流行する前から、遅くとも1、2年のうちに最初のmRNAワクチンが実用化されるだろうと考えられていた。ただ、大規模にヒトに投与するのは初めてのことなので、くれぐれも細心の注意を払って進めてほしい」と話していました。

さらに、位高教授によりますと、mRNAを使った医薬品は、目的に合わせてmRNAの遺伝情報を変えることで、さまざまな感染症に対応できるワクチンが開発できる可能性があるほか、感染症以外の病気の治療でも効果が期待できるとして最近注目を集めてきたということです。

mRNAワクチンが、実用化されることについて位高教授は「研究者としても非常にうれしいことだ。新型コロナウイルスを解決することが先だが、その後も、新しい医薬品の形としてさまざまな開発が進み、新たなアイデアが出てくることを強く期待している」と話していました。

専門家「重大な副作用起きないかなど慎重に確認必要」

イギリスで新型コロナウイルスのワクチンの接種が始まったことについて、専門家は、引き続き重大な副作用が起きないかなど、慎重に確認していく必要があると指摘しています。

接種が始まったワクチンはアメリカの製薬大手、ファイザーなどが開発したもので会社は、臨床試験で報告された副作用について公表しています。

それによりますと4万3000人余りが参加した最終段階の臨床試験で、2回の接種を受けたあとに報告された副作用は、疲労を訴えた人が3.8%、頭痛を訴えた人が2.0%で、多くはすぐに症状がおさまったということです。

また、195人が参加した途中段階の臨床試験では、38度以上の発熱や寒気、それに注射をした部分の痛みなども報告されたということです。

会社では、いずれの試験でも「重大な安全性の懸念は報告されなかった」としています。

一方で、ワクチンの副作用については、実際に接種が始まってから明らかになるケースもあるということです。

ワクチン開発に詳しい北里大学の中山哲夫特任教授によりますと、1990年代後半にアメリカで開発された「ロタウイルス」のワクチンは、臨床試験の際には問題はありませんでしたが、市販後に「腸重積」という副作用が出る疑いがあることが分かり、発売が中断されたということです。

また、同じコロナウイルスのSARSやMERSなどのワクチン開発では、接種したあとに感染すると症状が悪化するケースが報告されていて、新型コロナウイルスについてもこうしたことが起こらないか慎重に見ていく必要があるということです。

中山特任教授は「数万人規模の臨床試験では深刻な副作用が確認されなくても、10万、100万人と接種の範囲を広げると新たに報告されるケースは起こり得る。今回のワクチンについても長期的な安全性が証明されたとはまだ言えない段階なので、日本で導入する際には、国内での臨床試験の結果やイギリスなど先行する国の状況を参考にしながら、慎重に判断すべきだ」と話していました。

接種計画と当面の課題

イギリスでのワクチン接種は、公的な医療制度であるNHS=国民保健サービスが実施します。

接種は無料で、ジョンソン首相は接種は義務にはしない方針を明らかにしています。

ロンドンのあるイングランドではNHSの運営する病院、地域の診療所や施設、それに集団接種を行うために設置されるワクチンセンターで実施されます。

ファイザーのワクチンは一定期間以上の保存には、マイナス70度前後という低温での管理が必要で、接種は、当面、設備が整っている50の病院での実施となります。

また、集団接種のためのワクチンセンターについて、イギリスメディアは、イギリス軍の支援も受けて競馬場や競技場などおよそ10か所に設置されると伝えています。

接種は、80歳以上の高齢者や、高齢者施設の介護職員、それに医療従事者が優先となります。

重症化のリスクが高い高齢者施設の入居者も優先されることになっていますが施設での接種は遅れる見通しとなっています。

背景にあるのが、温度管理の問題です。

ワクチンは、ドライアイスで温度管理された専用の箱に975回分がまとめて納められています。

高齢者施設の多くは、入居者の数からして、温度管理された箱からワクチンを小分けして、輸送されることになるとみられますが、規制当局は温度管理などが適切に行えるかどうかを確認する必要があるとしていて、施設での接種が具体的にいつから開始するかはまだ決まっていません。

政府は、ワクチンの接種が本格化するのは、年明け以降になるとしていて、高齢者など優先される人たちが接種を終えるのは、来年春ごろになるとみられています。