中国 武漢 コロナ感染者発症から1年 WHOよる現地調査実現せず

中国の湖北省武漢で最初に確認された新型コロナウイルスの感染者が発症したとされる日から8日で1年となります。今もWHO=世界保健機関の国際的な調査チームによる詳しい現地調査は実現しておらず、ウイルスの発生源やヒトへの感染経路の解明が課題となっています。

中国の衛生当局は、湖北省武漢で最初に確認された新型コロナウイルスの感染者が1年前の8日、肺炎を発症したとしています。

中国政府の専門家は、ことし2月、ウイルスの発生源について、中国に生息するコウモリに由来し、体がうろこで覆われている珍しい哺乳類の「センザンコウ」が媒介した可能性があるとしていました。

一方、最近では、中国が輸入した食品からウイルスが検出されたケースがあり、海外から持ち込まれた可能性も否定できないとするなど、ウイルスの発生源やヒトへの感染の経緯の解明には至っていません。

WHOはことし7月、発生源を特定するための国際的な調査チームの先遣隊を北京に派遣しましたが、その後、武漢での詳しい現地調査は実現していません。

国際社会からは、中国が調査に非協力的なのではないかという懸念の声も出ており、ウイルスの発生源や感染経路の解明につなげるため、中国政府がWHOの調査チームによる武漢での詳しい調査を受け入れるかどうかが課題となっています。

実現しないWHOの現地調査

新型コロナウイルスの発生源をめぐっては、ことし4月、アメリカのトランプ大統領が武漢の研究所から広がった可能性があるという認識を示し、これに対して中国は、証拠がないと反論して両国の間で非難の応酬となりました。

こうした中、WHO=世界保健機関は5月の定例の記者会見で、感染拡大の初期に何が起きたのか調べるため、中国に専門家を派遣できないか調整していることを明らかにしました。

そして7月には、国際的な調査チームの先遣隊として、職員2人を北京に派遣しました。

ただ、その後、およそ5か月たった今も武漢での現地調査は実現していないうえ、調査チームがいつ武漢入りできるのかも明らかにされておらず、WHOの関係者の間では、中国側が受け入れに向けて十分に協力していないのではないかという見方も広がり始めています。

WHO=世界保健機関のテドロス事務局長は7日、スイスのジュネーブで開いた定例の記者会見で、中国の武漢に派遣するとしている国際的な調査チームについて「今、計画しているところで、できるだけ早く、武漢の地を踏ませたいと望んでいる」と述べるにとどめ、具体的な派遣の時期は明らかにしませんでした。

専門家「中国で発生と考えるのは妥当」

WHO=世界保健機関の専門家はNHKのインタビューに対し、新型コロナウイルスは7年前、中国の雲南省で見つかったウイルスに酷似していることから、論理的には中国で発生したと考えるのが妥当だという考えを示しました。

発生源の調査を進めているWHOの動物由来の感染症の専門家、ピーター・ベンエンバレク氏がNHKのインタビューに応じました。

この中でベンエンバレク氏は、「新型コロナウイルスに最も近いのは、2013年に中国・雲南省のコウモリが生息する洞窟で見つかったウイルスだ。全く同じウイルスではないが、私たちが知るかぎり最も近く、論理的には新型ウイルスが中国国内で発生したと考えられる」と述べ、今のところ、発生源は中国国内とみるのが妥当だという考えを示しました。

また、WHOが派遣するとしている国際的な専門家で作る調査チームについて、「まずは武漢とその周辺の調査から始め、最初の症例について詳細な調査を行うとともに、武漢以外の地域でも症状がなかったか、聞き取りが必要だ」としたうえで、「中国はかなり高度な公衆衛生システムを持ち、去年のサンプルもたくさん残っているはずで、それらを調べればウイルスの痕跡が見つけられる」と述べました。

そのうえで、国際的な調査チームの中国への派遣について「おそらく数週間後か、数か月後になると思うが、まだ非常に不確かな状況だ。6か月後まで待つことはないだろう」と述べ、ウイルスの由来やヒトへの感染経路の解明に意欲を示しました。

武漢 海鮮市場は閉鎖も中心部はにぎわう

中国政府は、ことし1月から4月まで武漢の駅や空港などを閉鎖するなど都市の封鎖を行い、ウイルスを封じ込めたとしています。

この結果、ことしの5月19日以降、武漢に住む人からは新たな感染者は出ていないとしていて、7日も中心部は多くの人でにぎわっていました。

一方、当初、多くの患者が出た海鮮市場は、ことし1月1日に閉鎖されていて、入り口の看板ははがされていたほか、周りを囲うように高さ2メートル余りの壁が設けられていました。

一方、湖北省の各地の博物館では、ウイルスとの闘いを記録する展覧会が開かれています。

このうち、当時、患者を受け入れるための臨時の医療施設となっていた武漢の展示場の外には、「習近平同志を党中央の核心とした団結のもと、偉大な勝利を得た」と書かれた看板が設置されていました。

会場の中には、当時、最前線で治療にあたった医療関係者や仮設の病院の建設にあたった軍の奮闘ぶりなどを伝える展示品が並ぶ一方、新型コロナウイルスで亡くなった人たちに関する展示はありませんでした。

展示を見に来たという50代の男性は「感動しました。ウイルスに立ち向かった英雄たちに感謝し敬意を表します」と話していました。

また、20代の大学生の女性は「新型コロナウイルスは、去年12月には、すでにアメリカで存在していたと聞いた。新型コロナウイルスを武漢ウイルスと呼ぶのは中国に対する外国の偏見だ」と話していました。

武漢 徹底した情報統制で拘束されるケースも

武漢では、新型コロナウイルスに関して徹底した情報統制が敷かれ、現地の情報を伝えようとした人が拘束されるケースも出ています。

武漢に住む張毅さんは、ことし1月以降、SNS上で友人たちと連絡を取り合い武漢の厳しい状況を伝えてきましたが、3人の友人が相次いで当局に拘束されたといいます。

このうち、陳秋実さんは封鎖措置がとられる前の武漢に入り、市民ジャーナリストとして、医療体制が崩壊状態に陥った現地の状況を撮影した動画をSNS上に投稿してきましたが、2月上旬に連絡がつかなくなりました。

長期間にわたり連絡がつかない状態が続いたあと、家族がいる山東省青島に戻ったことが確認されましたが、今も当局に厳しく監視されているということです。

また、上海の張展さんも当時、武漢に入ってSNS上で現地の情報を伝えていましたが、当局に拘束され騒動を挑発したなどとして起訴されたということです。

このほか、武漢の病院内の様子を撮影し、新型コロナウイルスの感染者とみられる人が相次いで亡くなっている状況をSNS上で伝えていた方斌さんも当局に拘束され、今も連絡がつかない状態が続いているとしています。

張さんは、当局による情報統制や感染状況の隠蔽が感染の拡大を招いたと指摘したうえで、今も拘束されている友人たちを解放するよう訴えています。

張さんは、「中国のような権威主義的な社会では、当局は統治に有利ならばどんな手段でも使う。拘束されている人たちのことを多くの人に注視してほしい」と話していました。