社会

新型コロナ対応に必要な医療用手袋が不足 現場から不安の声

新型コロナウイルスの感染がことし春に拡大した際、医療機関で感染を防ぐために必要なマスクやガウンなどの防護具の不足が問題となりましたが、医療用の使い捨て手袋は現在でも不足していることが明らかになりました。全国の医療機関で感染対策にあたる看護師を対象に調査したところ、不足しているか不足しつつあるという回答がおよそ60%となり、医療現場からは不安の声が上がっています。
調査は、東京医療保健大学大学院の菅原えりさ教授が全国各地の医療機関で感染予防対策に当たる看護師およそ220人を対象に今月初めに行い、およそ40%に当たる87人が回答しました。

新型コロナウイルスの対応に当たる医療者は、感染を防ぐために合成ゴムなどでできた使い捨ての医療用手袋を使っていますが、足りているか聞いたところ、「不足している」が12.6%、「不足しつつある」が44.8%と、合わせて60%近くに上り、確保が課題になっていることが分かりました。

さらに、手袋の確保の現状については、93%の人が「危機感がある」か「不安がある」と回答しました。

調査では、価格が2倍以上になり、入手が困難になっているとか、医療用ではない別の素材の手袋を使わざるをえないといった声が寄せられたほか、医療現場以外で必要ではない手袋の使用を控えてほしいという意見も出されていました。

菅原教授は「手袋不足は院内感染にもつながる問題で、戦う武器がなくなると言っても過言ではない。まずは医療従事者の必要分を確保することが大切で医療以外で使われている手袋が本当に必要かどうか一度見直してもらいたい」と話しています。

不足の医院「恐怖感が強くなっている」

使い捨て手袋の不足に悩む医療現場からは、品薄が続く状況に不安の声が上がっています。

千葉県船橋市にある内科の診療所では、新型コロナウイルスの感染が拡大した4月以降、手に隙間なくぴったりとして処置がしやすい、合成ゴム、ニトリルの手袋が手に入りにくくなり、7月以降はおよそ1か月に1度しか納入されないようになるなど、不足がより深刻になっているとしています。

診療所では在宅医療の際に、患者が感染していないか調べるPCR検査を行っていますが、その際にも手袋が必要になるなど、以前よりも使用量が増え、200枚入りの1箱を3日ほどで使い切るようになっているということです。

診療所では、看護師が患者に接触しない作業の際には、手袋をはめたまま手を洗って使い続け、少しでも節約しようとしています。

また、手袋の価格は、先月には200枚入り1箱で2400円と感染が広がる前のことし1月と比べておよそ2.5倍になっていて、受診控えで患者数が減る中、経営面でも負担になってきているということです。

診療所ではプラスチック製の手袋も使っていますが、指先までぴったりせず、採血なども行いにくいため、合成ゴムの手袋が必要だとしています。

土居内科医院の土居良康副院長は「手袋は絶対に必要で、この先入ってくるのか恐怖感が強くなっています。1回使ってもまだ使えるのではないかとも考えてしまいますが、そう思うこと自体、感染対策のためにはあってはならないことだと思います。医療機関に十分な量を供給してもらいたいと切実に思います」と話していました。

介護現場でも手袋不足

手袋の不足は介護の現場でも問題になっていて全国の介護施設でつくる「全国老人福祉施設協議会」によりますと、2か月ほど前から手袋が足りないという声が相次いでいるということです。

このうち、訪問介護やデイサービスなどの事業を行っている静岡市のNPOでは、食事の介助や口の中のケア、それに排せつ物の処理などで、使い捨てのプラスチック手袋を月に800枚ほど使うということです。

しかし、夏ごろからはふだん手袋を購入している薬局で品薄の状態が続いたあと、9月に入ると価格が高騰し始め、1箱100枚入りで360円だったのが現在は1200円と、3倍以上になっているということです。

法人の副理事長を務める北野豊さんは「手袋をヘルパーさんに自由に使ってもらっていたのが制限せざるを得なくなっている。手袋はコロナに関係なくもともと必要で、介護サービスが提供しにくくなっている」と厳しい状況を訴えました。

世界的な不足で争奪戦 価格が高騰

医療現場で用いられる合成ゴム、ニトリルなどの手袋の生産は、生産拠点が集中しているマレーシアが世界のシェアのおよそ3分の2を占めていて、新型コロナウイルスの感染拡大が始まって以降、世界中で争奪戦が起きて価格が高騰しています。

こうした中、先月、マレーシアにある世界最大手のゴム手袋メーカー「トップ・グローブ」で従業員数千人が新型コロナウイルスに感染していることが確認され、工場が一時的に閉鎖となりました。

会社によりますと、世界で流通するゴム手袋の26%を生産していますが、工場が一時閉鎖された影響で手袋は納品に2週間から4週間の遅れが見込まれるということで、一部のメディアは、価格がさらに上がる可能性があると伝えています。

マレーシアの手袋の業界団体によりますと、多くの国が医療従事者向けに手袋を買い求めていて、この後も需要は高まるとして、来年には、ゴム手袋の需要は世界で4300億枚とことしより20%増えると予想しています。

マレーシアゴム手袋生産者協会のスープラマーニアム会長は「供給をはるかに超える需要の高まりでニトリル手袋の原料が不足し、価格の高騰を招いている」と指摘しました。

そのうえで「手袋の不足は世界的な問題だ。パンデミックが収まったとしても、衛生意識の高まりからこの先数年間は需要が供給を上回る状況が続くだろう」とする見方を示しました。

日本国内で、医療用資材を輸入販売する東京・中野区の「モレーンコーポレーション」では、今後、イギリスの企業と共同でマレーシアの生産設備を予約するなどして、医療用手袋の入手にあたろうとしています。

草場恒樹社長は「手袋の生産には大きな生産設備や大量の水が必要で新規参入が難しいうえ、原料の供給も需要に追いついておらず、価格の高騰が長引いている。最近はアメリカが強気の姿勢で手袋を買いにきている。半年先に生産される製品であっても、他国と組んででもいま押さえなければ、入手がさらに厳しい状況になっている」と話しています。

国内生産できない理由は

産業用や家庭用の手袋など2000種類以上を扱う業界最大手の兵庫県姫路市のメーカーは、国内の工場で家庭用のゴム手袋を作っていますが、医療用の合成ゴム、ニトリルの手袋は国内で製造しても採算が合わないため、すべて提携先のマレーシアのメーカーから仕入れてきました。

その数は年間4億枚に上っていましたが、感染拡大を受けて価格が以前の3倍から4倍に高騰し、ことし3月以降注文した数の半分ほどしか仕入れられなくなっているということです。

このためことし9月香川県坂出市の土地を購入し、医療用手袋の国内製造に乗り出すことを決めました。

ショーワグローブビジネス推進本部の高知寛幸本部長は「サプライチェーンを海外に出してコストを下げることも会社を成長させるために重要ですが、有事の時には国をまたぐとリスクが発生する。国内で完結できるようにすることも重要だと学びました。今届いていないところに、きちんと届けられるようにしたい」と話しています。

しかし、すぐに製造を始められるのはわけではありません。

医療用手袋は家庭用などと製造工程や原料が異なるうえ、薄さと強度の基準を満たした高い品質の製品を安定的に供給するには、技術とノウハウがないと難しいといいます。

メーカーでは提携先のマレーシアのメーカーから技術を学んだり原料の確保などを進め3年後の2023年春の操業を目指すことにしていて、それまでは海外からの調達でしのいでいくしかないと考えています。

高知本部長は「ニトリル手袋の製造には水がたくさん必要ですが、使える水の量が決まっている工業団地が多く、今回、探すのに苦労しました。水が潤沢に使えてある程度の広さがあるところは実は日本にはそれほどないかもしれません」と話していました。

手袋不足 政府の対策は

厚生労働省は、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、感染予防対策に必要な医療用のマスクやガウンなどと同様、ことし6月からは医療用手袋についても、在庫が底を尽きそうな医療機関を対象に優先的に配布しており、先月までにおよそ1億2700万セットを配布したということです。

また、医療用手袋は、合成ゴムでできたものや塩化ビニルでてきたものなどがありますが、ほぼすべてを輸入していて、価格の高騰で医療機関の財政的な負担にもつながっていることから、政府は塩化ビニル製の使い捨て手袋について、来年度は暫定的に輸入にかかる関税をゼロにする方針を決めました。

さらに、これまでは医療用手袋の需要や生産量についての統計がなく、実態が把握できていなかったということで、厚生労働省は国内での生産量や輸入量などを調査し、今年度中にまとめたいとしています。

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