入院時「陰性」患者から感染しクラスター発生か 札幌の病院

新型コロナウイルスの感染が急速に広がっている札幌市。クラスターが発生した地域の基幹病院「北海道医療センター」がNHKの取材に応じ、入院するときに行った検査では「陰性」だった患者から感染が広がった可能性が高いとする調査結果を明らかにしました。センターは「検査で陰性でも感染していないという証明にはならない」として、院内に感染者がいる前提で対策に取り組む必要があると強調しています。

札幌市にあるベッド数672床の「北海道医療センター」は、ことし2月以降、感染者を180人以上受け入れてきましたが、11月、クラスターが発生し、患者や看護師など合わせて16人が感染しました。

センターでクラスターの調査と封じ込めにあたった小谷俊雄医師がNHKの取材に応じ、入院するときに行ったPCR検査では「陰性」だった1人の患者から感染が広がったとみていることを明らかにしました。
小谷医師によりますと、この患者はことしの10月下旬に別の病気で入院し、2日後に退院しました。そのおよそ10日後の11月6日、この患者を担当した看護師2人が「胃がむかむかする」といった体調の異常を訴え、PCR検査を受けた結果、「陽性」と判明しました。

退院した患者もその後、感染が確認され、センターでは、この患者が10月下旬に入院したときにはすでにウイルスに感染していて、院内に広がった可能性が高いとみています。

小谷医師は「このウイルスが難しいのは、潜伏期間が2日から2週間ほどと非常に長いことだ。入院時などの早い段階の検査で陰性でも感染していないという証明にはならない」と話しています。

センターの菊地誠志院長は「水際対策をすれば万全だと思うと、落とし穴がある。ウイルスは必ず入ってくるという前提で対応を考えないと、われわれのようにクラスターは起きる」と指摘し、院内に感染者がいる前提で対策に取り組む必要があると強調しました。

これまでにない勢いで増える 「クラスター」の発生

新型コロナウイルスの感染者の集団=「クラスター」の発生がこれまでにない勢いで増えています。
11月末までのおよそ1か月間で確認されたクラスターなどは800件余りと前の月の3倍近くに上りました。

このうち医療機関での発生は100件を超え、地域の医療体制への影響が懸念されています。

厚生労働省は、毎週、報道などをもとに▽自治体がクラスターと認定した事例や、▽2人以上が感染した事例をまとめています。
11月末までのおよそ1か月間に全国で確認されたクラスターなどは合わせて814件に上り、295件だったその前のおよそ1か月間の2.8倍に増えました。

このうちとくに懸念されているのが地域の医療提供体制に重大な影響が生じる医療機関での発生です。

医療機関でのクラスターなどは11月末までのおよそ1か月間で合わせて105件と、31件だったそれまでの1か月間と比べて3.4倍となっています。

厚生労働省は感染が拡大している地域にクラスター対策の専門家を派遣するなどして、自治体による封じ込めを支援しています。

「北海道医療センター」クラスター 詳細

「北海道医療センター」でクラスターの封じ込めと感染経路の調査にあたった小谷俊雄 医師は、新型コロナウイルスの潜伏期間が、最初の感染者の把握を難しくしたと指摘します。
小谷医師がクラスターの発生を疑うきっかけとなったのは、11月6日、休暇中の看護師2人からの体調の異常を訴える連絡でした。

2人は同じ病棟で勤務していて、連絡の4日前の先月2日から休暇をとっていましたが、1人は、「微熱とせきがある」と話し、もう1人は、「胃がむかむかする」と訴えました。

このうち、微熱とせきがあった看護師が、連絡があった翌日の11月7日に「嗅覚に異常がある」と新たに訴えたため、小谷医師は、新型コロナウイルスの感染を強く疑うようになります。

そして、この看護師と胃の異常を訴えた看護師にPCR検査を行ったところ、2人ともに感染が確認され、さらに、▼この2人と接触した患者と▼同じ病棟で体調に少しでも異常があるスタッフなど、合わせて16人のうち7人が、検査で「陽性」となりました。

病棟で一定程度、感染が広がっていると疑うようになった小谷医師は、▼病棟のすべてのスタッフと、▼接触の可能性がある患者を、退院した人も含めて洗い出し、検査することを決めます。

このときに強く意識させられたのは、新型コロナウイルスの潜伏期間だといいます。

検査のタイミングによっては、感染していても「陰性」と出る可能性があるということで、それぞれのスタッフや患者が看護師2人と接触した日などから、検査を行う最も適切なタイミングを割り出していきました。

その過程で、潜伏期間から逆算すると最も早い時期に感染していた可能性が浮かび上がったのが、ことし10月下旬に3日間、別の病気で入院していた患者でした。

この患者は、入院するときに行ったPCR検査では「陰性」でしたが、入院から2週間ほどたった11月10日に行った検査で、感染が判明しました。

また、最初に体調の異常を訴えた看護師2人が、▼10月下旬にいずれもこの患者を担当し、▼この患者と接触してからおよそ10日たった11月6日に症状が確認されていて、さらに、▼感染が確認された合わせて16人の互いとの接触の状況や症状の記録などを調べた結果、この患者から感染が広がった可能性が高いとしています。

小谷医師は、「入院時の検査で陰性でもウイルスに感染している可能性を考えて、対策を取らなければならないことを、今回の経験を通して改めて学んだ」と話しています。

クラスターで 新型コロナの患者の受け入れができず

札幌市は、新型コロナウイルスの患者のために最大で確保できる病床数を「446床」としていますが、このうちおよその2割の81床を「北海道医療センター」が提供することになっています。

クラスターの発生で、新型ウイルスの患者の受け入れができなくなりましたが、市内の病床がひっ迫したことから、保健所からできるかぎり早く患者の受け入れを始めてほしいという要望を受けるようになったということです。

このためセンターは、感染拡大を防ぐ対策が徹底できたと独自に判断して、感染者が最初に確認された11月7日から9日後の16日には重症患者を、さらに25日には、軽症と中等症の患者の受け入れをそれぞれ始めました。

センターによりますと、11月4日の時点では、重症者が3人、軽症と中等症が20人、入院していて、その3分の2は70歳以上で、高齢者を多く引き受けているということです。

また、入院患者の中には、介護度が高い患者が増えていて、1人の患者当たりに配置しなければならない人員の数も多くなっているほか、患者との接触の頻度も増えているため、感染のリスクが高まっているということです。

センターの菊地誠志院長は、「神経難病の患者で感染した人もいて、ほかの病院では受診できないため、当院に来ている」と述べ、センターのような基幹病院が患者を受け入れられなくなるとその影響は大きいと指摘しています。

そのうえで、「ウイルスはいちばん弱いところから入ってくるので誰かを責めるようなことは全く意味がない。院内への持ち込みは常にあると覚悟を決めて、それでも診療を続けなければならない」と話しています。

専門家「たとえ陰性でも感染対策を」

WHO=世界保健機関では新型コロナウイルスの潜伏期間について、1日から14日間としていて、平均では5日から6日としています。

これまでの研究で発症する数日前からウイルスが増えていることが分かっていて、厚生労働省がまとめている新型コロナウイルスの診療の手引きによりますと、ほかの人に感染させる可能性があるのは、発症する2日前からと考えられるとしています。

一方で、日本感染症学会の理事長で東邦大学の舘田一博教授によりますと、ウイルスに感染してから間もない時期はウイルスの量が少ないためPCR検査でも検出できない可能性があるということです。

当初、PCR検査で陰性だった感染者からほかの人に感染が広がる可能性について、舘田教授は誰から感染が広がったかを特定するのは難しいとしたうえで、「PCR検査は非常に感度の高い検査だが、検体の取り方がうまくいかないケースも含め、陽性にならないことがある。たとえ検査結果が陰性でも潜伏期間中のおそれがあると考えて必要な感染対策を取ることが大切だ。特に医療機関などでは数日後に改めて陰性を確認するといった対応も必要だ。新型コロナウイルスは正しくマスクをする、手指消毒をすることで感染の伝ぱをかなり抑えることができる。過剰におそれることなく正しい感染対策を取ることが大事だ」と述べました。