“使い捨て”を捨てる! 「Mottainai」をもういちど

“使い捨て”を捨てる! 「Mottainai」をもういちど
たまの気晴らしに銭湯に行き、湯上がりにコーヒー牛乳をぐいっと飲むのが、私のひそかな楽しみです。空になった牛乳瓶をみながら、「昔はジュースやお酒、ヨーグルトなんかも瓶入りだったな」とふと思い出します。かつては、使い終わった瓶を回収して繰り返し使う仕組みが日常に定着していました。時代を経て、いま、その再利用(リユース)の仕組みを、現代風に仕立て直し、使い捨ての暮らしを変えられないか。消費大国アメリカの社会起業家・チェンジメーカーの挑戦が世界に広がり始めています。(ロサンゼルス支局記者 菅谷史緒/経済部記者 池川陽介)

“ごみ”でできたオフィス

取材したのは、アメリカ東部ニュージャージー州のスタートアップ企業・Loop。

オフィスに入って、まず驚いたのが、使用済みペットボトルでできた大きなカーテン。
その中から姿を現したのがトム・ザッキーCEO(38)でした。
オフィスの机やドア、カーペットなどあらゆるものは、捨てられることになっていた材料を再利用。
「あらゆるごみは再利用できる可能性があります。捨てる必要はないのです」
私たちを出迎えた、ザッキーCEOは、風変わりなオフィスに込めたメッセージをまず紹介してくれました。

使い捨てをなくせ!

会社がてがけるサービスは、ひとことで言えば、食品や日用品のネット通販です。

ただ、他と大きく違うのは、使い捨てのごみを減らす仕組みを組み込んだこと。商品には専用の容器を使い、繰り返し利用するのです。

循環するという意味で使われる「ループ」という会社の名前からその狙いが見えてきます。
1. インターネットで利用者から注文を受け、専用容器に入った商品を配達。
2. 使い終わったら、容器を回収して、洗浄。
3. 新たに中身を詰め替えてもらい、容器を再利用。
事業は2019年にスタート。
アメリカでは、アイスクリームやヘアケア用品など18社の製品を扱っています。

普通は紙やプラスチック容器に入っている商品が、専用のステンレス容器などに入って家庭に届けられます。
トム・ザッキーCEO
「私たちの目標は『使い捨て』という概念をなくすことです。そもそも自然界にはごみという考えはありません。ある生き物にとって要らないものも、ほかの生き物の食べ物などとして利用されます。ごみという概念は人間特有のもの。できる限り自然の形に近づけたいのです」
アメリカでは環境問題に貢献したいという意識をもつおよそ3万5000世帯が利用しています。フランス、イギリスでもサービスが始まり、カナダやオーストラリアにも拡大する予定です。

来年3月には、日本でも、事業を始めます。

日本企業も相次ぎ参加

日本では食品や日用品など20あまりの企業が参加を予定しています。

デザイン性の高い、ステンレス製容器に入ったガムや、ガラス容器入りの消臭剤などの販売が計画されています。
食品大手の「味の素」も、3種類の調味料を販売する計画。
数十回の洗浄にも耐えられるガラス製の専用容器の開発を進めています。

会社では、消費者の使いやすさを追求して、プラスチック容器入りの商品はもちろん、スティック状に小分けしたタイプなど、さまざまなバリエーションを揃えてきました。
その一方で、リサイクルやごみ削減も、年を追うにつれ、企業の課題になっています。

サービスに参加することで、環境問題に関心の高い若い人たちに使ってもらい、ごみの削減にもつなげていきたいと考えています。
武内祥平マネージャー
「再利用可能な容器だからできる、新しい価値を作って、顧客に提供できれば、これからの時代に必要とされる資源循環の社会や新しいライフスタイルを作っていける」

ごみ減少もリユースは進まず

ところで、日本のごみ削減の取り組みの現状はどうなっているのか。
環境省によりますと、ごみの総排出量は2000年度の5483万トンをピークに減少傾向にあります。2018年度は4272万トンと、20%余り減りました。国の目標は2025年度までに、およそ3800万トンまで減らすことです。

また、ごみを減らすため国が呼びかけているのが「3R(スリーアール)」
「リデュース、リユース、リサイクル」を呼びかけ、毎年、その実践状況を調査をしています。
ごみ削減にあたるリデュースは、「マイバックの持参」「詰め替え商品を使う」などで60%あまりの人が実践。
リサイクルには「ごみの分別」などで80%程度の人が実践。

しかし再利用・リユースにあたる「再利用可能な容器を使った製品の購入」は10%程度と低くなっています。

国は、ごみを出さないため優先すべきなのは「リデュース>リユース>リサイクル」だという立場で、リユースのいっそうの拡大を課題にあげています。

課題は再利用のコスト

ただ、今回のLoopの事業にもあてはまりますが、リユースには、容器の配送・回収、洗浄などで追加のコストがかかります。

その作業をメーカーから請け負うことが、事業の収益になる仕組みです。費用は、メーカーが負担するか、利用者の代金などに上乗せされます。このため、普通の商品よりも割高にならざるを得ません。

また一定の規模が確保されないうちは、コストの方が大きく、利益になりません。

日本事業は、赤字でスタートし、数年かけて、黒字化することを目指しています。

“もったいない”を世界に

ザッキー氏は、日本で事業することが、とても楽しみだと話しています。その理由をある日本語をあげて説明してくれました。
トム・ザッキーCEO
「日本には“もったいない”という言葉があります。100年前の日本では、あらゆるものが再利用されていました。ものを大切に使う日本人の考え方は、私たちの事業とよく合うと思います。世界で通用する容器再利用の仕組みを作りたいのです。目指すのは、日用品メーカー、小売店、消費者が無理なくリユースに取り組める仕組み。最終的にはリユースを使い捨てと同じくらい便利なものにしたいと思っています」

広がるか 新しい価値観

かつて、日常の暮らしに溶け込んでいた瓶などの再利用の仕組みが、アメリカの社会起業家・チェンジメーカーの仕掛けに呼応する形で、再び定着するか。

来年、日本で始める事業は、便利さや安さを求める日々の暮らしの中に、「少し値段が高くても、環境のためになるならば」という新しい価値観が芽生えるかどうかを占うバロメーターになるかもしれない。
そう考えています。
「シリーズ・チェンジメーカー」
新型コロナウイルスの感染拡大が続き、先行きが見通せない時代。
そうした中、環境や貧困、ジェンダーなどの社会課題に目を向け、ビジネスで解決しようという社会起業家(チェンジメーカー)が日本でも相次いで登場しています。

さまざまな分野で活躍する40歳未満の若きチェンジメーカーの動きを追います。
ロサンゼルス支局記者
菅谷史緒
平成14年入局
経済部記者
池川陽介
平成14年入局