ゴースト・オブ・ツシマ旋風 ~元寇ブームを生かせるか~

ゴースト・オブ・ツシマ旋風 ~元寇ブームを生かせるか~
世界的に大ヒットしている元寇をテーマにしたテレビゲーム「ゴースト・オブ・ツシマ」(Ghost of Tsushima)。今、長崎県の元寇ゆかりの地に追い風が吹きつけています。(佐世保支局 上原聡太)

ゴースト・オブ・ツシマの衝撃

「ゴースト・オブ・ツシマ」はプレイステーション4向けのゲームソフトです。ことし7月に販売されると全世界で500万本を売り上げる大ヒット。

ゲームは1274年の鎌倉時代、対馬に元寇の大軍が押し寄せ、あっという間に占領された後、生き残ったひとりの地侍が同志を見つけながら強大な元軍に立ち向かうストーリーです。

歴史上、対馬は1274年の文永の役で元軍に最初に襲撃され占領されました。当時、対馬を治めていた80騎余りの地侍は3万人の元軍に果敢に立ち向かい、全滅したとされます。
この戦場になった「小茂田浜」、戦死した地侍の一族をまつった菩提寺「万松院」はゲーム中、そっくりの情景が出てきます。
このゲームを作ったのはアメリカのゲーム開発会社です。
開発担当者のネイト・フォックスさんは子どもの頃、日本人の友人の家で「ショウグン」というテレビ番組を見て日本の侍に関心を持つようになり、6年前からは対馬に繰り返し足を運んで元寇ゲームの構想を温めてきたといいます。
ネイト・フォックスさん
「最初に対馬を訪れたときの対馬らしい印象はしっかりとゲームに詰め込みました。ただこれほどゲームに共感が集まるとは全く予想していませんでした」

こんなに多額の募金が集まるなんて

ゲームのメガヒットは対馬に”異変”をもたらしています。

ことし9月、対馬に超大型の台風10号が襲来し、ゲーム中に似たイメージが出てくる「和多都美神社」の鳥居が倒壊しました。

するとゲームファンが決起し、クラウドファンドを通じて募金活動を展開し、わずか5日間で目標額の2倍の1000万円が集まったのです。
募金者コメント
「『ゴースト・オブ・ツシマ』で対馬のことを知りました。いつか本物の対馬へ遊びにいった際に修復された鳥居を見たいです」
和多都美神社の平山雄一さん
「コロナ禍でクラウドファンディングは苦戦すると思っていたので、こんなに多額の募金が集まるとは想像していませんでした。元寇で元軍を蹴散らしたのも、私の神社の鳥居を倒壊させたのも台風が絡んでいるので、なにか運命を感じます」

ゲームの聖地巡礼者たち

ゲームで描かれた対馬の元寇の史跡や美しい自然を訪れたい。
“ゲームの聖地巡礼観光”もキックオフしています。

私が対馬滞在の2日間、若い観光客を見かけるたびに声をかけたところ「ゲームの聖地巡礼者」は10人いました。
東京都から訪れた30代男性
「ゲームの『あの場面だ!』と分かる部分がたくさんあり感動しました」

三重県から訪れた20代男性
「ゲームが面白くて、対馬の風景描写や歴史文化に触れたいと思ってやって来ました」
対馬の観光団体はコロナ禍が去った後は、多数の観光客が必ずやってくるはずだと期待を膨らませています。
対馬観光物産協会の西護事務局長
「ゲームの大ヒットで追い風を感じます。コロナが収束したら対馬に大勢の人がやってくると思います、ありがたいことです」

アジフライ聖地の旗揚げー長崎県松浦市ー

長崎県には”元寇ブーム”に賭ける、もう1つの自治体があります。
アジの水揚げ量が日本一のまちとして「アジフライの聖地」と呼ばれる松浦市です。

実は松浦市は「元寇終焉の地」でもあります。
松浦市の沖合では2度目の元寇となった1281年の弘安の役でいわゆる「神風」の暴風雨が吹き荒れ、元軍の4000隻以上の軍船が一掃されたからです。

海底では全国で唯一、鎌倉武士を悩ませた元軍のさく裂弾「てつはう」が見つかっています。

苦戦した元寇のまちおこし

松浦市の”元寇”のまちおこしは苦戦が続いてきました。
モンゴルの移動式住居「ゲル」に宿泊体験できる施設は経営不振から4年前に休園。
次に松浦市はスマートフォンを海にかざすと、AR=仮想現実の技術で元軍の船が目の前に現れたかのような体験ができる携帯アプリを開発しましたが、ダウンロード数が伸びていません。

反撃ののろしは元寇サミット

元寇ブームに乗って反撃ののろしをあげたい。
松浦市は11月上旬、「元寇サミット」を開催しました。対馬市と壱岐市という他の元寇ゆかりの自治体とともに「元寇交流宣言」を採択し、連帯を確認しました。
ゲストには、元寇をテーマにした人気漫画「アンゴルモア元寇合戦記」の作家たかぎ七彦さんを招きました。
130万部を売り上げアニメ化され、今も連載中です。
松浦市の狙いは的中し、イベント会場は満員御礼となりました。
元寇サミットに向けて松浦市は、とっておきの秘密兵器を開発していました。

秘密兵器「てつはう・もなか」

「てつはう・もなか」です。

松浦市が地元の菓子屋に依頼して作った特製品です。
元軍の炸裂弾「てつはう」にあやかった味を目指し口の中に入れるとぱちぱちと弾けるキャンディーを仕込みました。「うまささく裂」というキャッチフレーズも好評で元寇サミットの会場で用意した200個があっという間に完売しました。
松浦市・友田吉泰 市長
「立ち見が出るくらい多くの人に来場してもらいました。てつはう・もなかも想像以上の売れ行きでした。これから色々な可能性に広がるという手応えを感じました」

”元寇船博物館”の夢

松浦市が将来に向けて掲げる目標は「元寇船の博物館」を建設し、観光客を誘致することです。

「てつはう」に加えて、松浦市沖の海底には、全国で唯一「神風」で沈没した元軍の船が2隻発見されています。国の史跡に指定されていて、一部の専門家からは「世界遺産に匹敵する」という声もあがっています。
しかし、700年以上も海に沈んだままの元寇船を引き揚げるには、高い技術と資金が必要です。そこで松浦市はトップレベルの専門家を迎えて必要な技術開発を支えています。
松浦市の埋蔵文化財センターで専門家が開発したこの黒い液体は、糖類の一種トレハロースを温水に溶かしたものです。将来、元寇船を塩水の海水から引き揚げた後、この温水に漬け込んだ上で乾かせば壊れにくいとしています。

海外に目を向ければ沈没船を引き揚げて人気のスポットになったところもあります。イギリスでは16世紀にフランスとの海戦で沈没した「メアリーローズ号」が引き揚げられて博物館に展示され観光スポットになっているほか、韓国には14世紀の貿易船が引き揚げられ国立海洋文化財研究所に展示されています。
水中考古学に詳しい 琉球大学 池田榮史教授
「元寇船の引き揚げに向けて、私たちは着実に1歩1歩進んでいる。これから元寇船の保存施設、予算、人材の課題をクリアしていきたい。目標は4年後に引き揚げに着手することです」
ゴースト・オブ・ツシマが巻き起こす元寇ブーム。
これに乗って元寇船引き揚げのきっかけをつかむことができるのか。

歴史ロマンに加えて、松浦市にとってはまちおこしの浮沈を左右する真剣勝負です。
佐世保支局 記者上原 聡太
平成30年入局
長崎局・警察司法担当を経て現所属
趣味はサイクリング