日本酒で“美しく”なる?酒蔵のコロナ禍対応策

日本酒で“美しく”なる?酒蔵のコロナ禍対応策
「肌寒い季節がやってきました。つい日本酒を肌につけたくなりませんか」。こう書くと「飲みたくなりませんか」の間違いだと思われるかもしれません。いえ、肌につける「日本酒」、あるんです。日本酒成分が含まれた化粧品のことです。保湿効果などがあるとして今、新型コロナで売り上げ減少に悩む酒造メーカーが力を入れています。(大阪放送局記者 加藤拓巳)

日本酒業界からメークブランド

落ち着いた色合いの口紅やアイシャドー、それにファンデーション。11月から販売が始まった女性向けメークブランドです。つくっているのは化粧品メーカーではなく、兵庫県西宮市にある酒造メーカー「日本盛」です。いずれの製品にも日本酒や米ぬかの成分が入っているのが特徴。酒蔵がメークブランドを売り出すのは業界初だということです。
このメーカーは、明治時代の1889年に創業した老舗で、皇室の行事で使われる日本酒もつくってきた名門です。しかし、日本酒の長期低迷に加えて、新型コロナウイルスの感染拡大で、飲食店の需要が減少していることに頭を悩ませていました。そこで第2の柱として化粧品事業に力を入れているのです。

古くから“美容にいい”?

なぜ、第2の柱が化粧品なのでしょうか。日本酒には古くから肌にいい成分が含まれていると言われてきました。日本酒をつくるときに出る米ぬかは平安時代から体を洗うのに使われてきました。江戸時代に描かれた歌川国貞の浮世絵『江戸名所百人美女』には、女性がぬかの入った袋で体を洗う様子が描かれています。

「日本盛」によると、米ぬかには美白に効果があるとされるフェルラ酸や皮膚の老化防止作用などが期待されるγーオリザノールといった成分が含まれているといいます。また、金沢工業大学で発酵や醸造が専門の尾関健二教授は、日本酒に含まれるαーエチルグルコシドという成分には、肌にはりを与えたり、保湿作用があったりするという研究結果を報告しています。

ターゲットを絞り込む

メーカーでは、この“日本酒力”に着目し、新たな収益源をつくろうとしているのです。ターゲットは肌の悩みを抱える50代以上の女性に絞りました。少子高齢化によって日本人女性の半分が50歳以上となり、マーケットが大きいこと、中高年を対象にしたメークのブランドが意外にも多くないとの分析からビジネスチャンスだととらえたのです。酒蔵ゆえに原材料が調達しやすく、コスト面での強みもありました。
河村課長
「日本酒の事業が厳しいなか、新しい事業を立ち上げようと誕生させた。年齢を重ねるとメイクのしかたがわからなくなるという声をよく聞くので、年配のかたにふさわしい色合いや道具のかたちを試行錯誤しながらつくりあげた」

メンズコスメで勝負

一方、男性向けの化粧品で勝負に出たメーカーもあります。神戸市東灘区の「菊正宗酒造」はことし9月から男性向けの化粧水の販売を始めました。

化粧品全体に占めるメンズ商品の割合は低いものの、需要の伸びは大きく、この酒造メーカーではその伸びしろに着目したといいます。

男性は面倒くさがりな人が多いとの分析から、化粧水と乳液が1つになった製品にして朝夜これ一本で済むことを売りにしています。発売から3か月余りですが、すでに出荷量は年間目標を超えたということです。
阿曽課長
「競合する男性向け化粧品の数が少ないことにくわえて、男性っぽいイメージのブランドが受け入れられている理由だと思う」と話しています。

新型コロナがマーケットをつくる

「八海山」で知られる新潟県南魚沼市の「八海醸造」もことし10月からコメの栄養素と天然の雪どけ水でつくったフェイスマスクを発売しました。

酒造メーカーが相次いで化粧品ビジネスに注力している背景には、在宅勤務でオンライン会議の機会が増え、パソコンの画面上に大きく映る自分の見栄えを意識する人や、マスクの着用による肌荒れが気になる人が増えていることがあるといいます。新型コロナの感染拡大が日本酒業界に新たなマーケットをつくりだしていることになります。
飲んでおいしい日本酒。これからは「きれいになる日本酒」も新たな付加価値を生み出す原動力になるのでしょうか。新型コロナで厳しい経営環境に置かれる酒造メーカーの模索が続いています。
大阪放送局記者
加藤 拓巳
平成23年入局
長野局、神戸局を経て関西の流通や化学業界などを担当