タイヤが凶器に変わる!?

タイヤが凶器に変わる!?
道を歩いていたら、車に乗っていたら、突然重さ100キロの黒い物体が向かってくる。そんなおそろしい事故があなたの身の回りで起きるかもしれません。黒い物体、それは走行中の車から外れたタイヤです。過去には命を奪われたケースも。被害を受ける側は対策のとりようがありません。事故は特にこれから、多くなります。
(社会部記者・渡辺謙)

事故はいつ起きてもおかしくない

「北海道でさっそく起きてしまったんです」

先月、国土交通省の担当者がぽつりと漏らした言葉です。
事故は、先月5日国土交通省が、走行中の車からタイヤが外れる事故への注意を呼びかけてから4日後に発生しました。
どのような事故だったのか。
バスが走行中に、反対車線を走っていたトレーラーから外れたタイヤが突然目の前に現れ、激突したのです。
運転手と乗客が首を痛めるけがをしました。
映像を詳しく見てみます。
前を走っていた軽自動車のブレーキランプが突然点灯。
軽自動車は左に寄ると、そこに黒い物体が現れ、近づいてきます。
3秒後、黒い物体が車体に激突。
黒い物体はタイヤでした。
当時運転手は時速およそ70キロで走行し、黒い物体が現れて時速20キロまで減速し、何とか被害を小さく食い止めました。

運転手がそのときの状況を説明してくれました。

ドライバー歴20年のベテラン運転手にとっても初めてのことだったといいます。
タイヤが衝突した運転手
「突然、黒い物体が現れ、最初は熊かと思った。タイヤは勢いがあり避けきれず、衝突したときドーンと大きな音がした。フロントガラスが破られるかと恐怖を感じた」
バス会社の運行責任者も「もしもタイヤが何かの拍子に跳ねてきたら、フロントガラスを突き破って車内に入り込み、運転手や乗客にぶつかって大惨事になっていたかもしれない」と話していました。

事故について調査をした国土交通省は、タイヤはホイールと車軸をつなぐナットの緩みで外れたとみています。

タイヤは左側の後ろの冬用タイヤで、2週間前に交換したばかりでした。

過去には死亡事故も

過去には死亡事故が起きています。

▽平成20年4月には、静岡県牧之原市で大型トラックから外れたタイヤが反対車線を走っていた観光バスのフロントガラスを突き破って車内に飛び込み、バスの運転手が死亡、乗客がけがをしました。

▽平成16年2月には、北海道南部の江差町で、国道を走行していたダンプカーのタイヤが外れて、歩道を歩いていた当時3歳の男の子と、祖母にぶつかり、男の子は亡くなりました。

タイヤ脱落事故 過去最多 国土交通省分析

タイヤが走行中に外れる事故がどのくらい起きているのか。
国土交通省は、トラックなど大型車両のタイヤが走行中にボルトが折れたりナットが緩んだりして外れた事故を分析した結果、昨年度は全国で112件発生し、1人が重傷、4人がけがをしていました。

昨年度は、平成23年度の実に10倍で、この10年増加傾向で、統計を取り始めた平成11年度以降で、最も多くなっています。
昨年度の事故112件について、月別の発生件数を見ると、11月と12月に多く、10月から2月に67%が発生し冬を中心に発生しています。

事故の瞬間が動画で捉えられた北海道の事故は11月、平成16年の北海道の事故は2月に起きています。
また昨年度の事故112件について、タイヤ交換から外れるまでの期間を調べた結果、1か月以内が全体の60%に上りました。

冬タイヤに交換して間もない今が危ないといえます。

これらのデータから、国土交通省は、冬用タイヤへの交換を天気予報を見てあわてて行うケースが多く、ナットの締めつけなど整備が不十分になってしまい、事故が冬場に多く起こるのではないかと分析しています。
ある特徴があることもわかりました。

外れたタイヤの96%が左の後輪、つまり歩道側でした。

事故の瞬間が動画で捉えられた北海道の事故も平成20年の静岡県と平成16年の北海道の事故も、いずれも外れたのは左側の後ろのタイヤでした。

国土交通省は左折時に左側の後輪に負荷がかかりやすいことなどが原因とみています。

事故の恐ろしさを知ってもらうために

分析結果を重く見た国土交通省は、ことし注意の呼びかけを強化することにし、先月タイヤが外れる事故のおそろしさを伝えるための実験を行いました。

時速60キロで走行するトラックを急停止させ、30メートル離れたところにある人形とベビーカーにタイヤがぶつかったときの衝撃を調べました。
タイヤの重さはおよそ90キロ。

勢いよく転がり、人形とベビーカーに衝突。

タイヤがぶつかった瞬間「どん」と大きな音がして人形はくの字に折れ曲がり、4メートルほど押し出されて倒れました。
衝突の瞬間、人形が受けた衝撃は腰の部分で115.2G(ジー)という結果でした。

重力の100倍以上の力で、衝撃で頭蓋骨や肋骨などが骨折し、大動脈が破裂するなど死亡に至る可能性が高い結果となりました。

国土交通省は、事故の危険性をより多くの人に知ってもらうため実験を動画にして今月中にホームページなどで公開する準備を進めています。

タイヤ落下防止対策

では対策はどうすればよいのか。

埼玉県の運送会社の社長が、対策の取材に協力してくれました。

この会社では、平成30年12月、走行中の大型トラックのタイヤが外れ、幸いけが人はありませんでしたが、事故を機に対策を徹底しています。
運送会社 社長
「事故の一報を聞いたときには、まさかうちの会社でそんなことが起きるなんてという思いと、人にぶつかったら大変だと生きた心地がしませんでした」
この事故でも外れたのは後ろの左側のタイヤでした。原因は事故の前日に冬用のタイヤに交換した際、ナットの締め方が緩かったことでした。
会社では、タイヤ交換の手順書を作成し、作業する人によって差が出ないようにしました。また、ナットとボルトに油性ペンで線を引くようにしています。
走行による振動で緩むと、その線がずれて、緩みを視覚で確認できるようにしました。点検も必ずするようにしています。
運送会社 社長
「どの会社でもタイヤが外れるおそれはあり、過信するのではなく、ひとたび起きたら大きな被害が出ることを肝に銘じて整備を心がけてほしい」

事故をなくすために

こうした事故では、被害を受ける側は対策のとりようがなく、事業者、ドライバーが点検・整備をしっかりするしかありません。
ドライバーの皆さんにお願いです。
タイヤが適切に取り付けられているか確認し、点検を怠らないでください。
事故が多いのはまさに今です。
あのとききちんと整備をしていれば、と後悔することがないように。
社会部記者
渡辺謙