洗ってまた使える?紙おむつのリサイクルとは

洗ってまた使える?紙おむつのリサイクルとは
使用済みの紙おむつを洗ってもう一度使う。そんなことができるのかと抵抗を感じる人もいるかもしれませんが、実は、紙おむつの原料となるパルプのリサイクル技術の実用化がすぐ目の前まで来ています。いったいどんな技術なのか、そもそも本当にきれいに洗えるのか、研究するおむつメーカーを取材すると、業界の課題や今後の可能性も見えてきました。(経済部記者 太田朗)

普及した紙おむつ、環境への懸念も

リサイクル技術の研究に取り組んでいるのは、国内の紙おむつメーカー最大手のユニ・チャームです。
会社では、2016年から鹿児島県で実証実験を開始。地元の協力を得て家庭や介護施設などから使用済み紙おむつを回収し、志布志市にある工場でリサイクルセンターで研究を進めています。

なぜ、紙おむつのリサイクルの研究に乗り出したのか。その背景には、増加の一途をたどる紙おむつの使用量がありました。

布おむつと違って洗濯の手間がはぶけることから、1970年代以降、急速に普及した紙おむつ。おしっこを素早く吸収したり、便が外に漏れないようにしたりする技術の進化もあって、販売を急速に伸ばします。高齢化社会を迎え、最近は大人用紙おむつも普及。市場規模の拡大を後押しする形となりました。
いまや育児や介護に欠かせないものとして、市民権を得た紙おむつですが、使用量の増加にともなって廃棄される使用済みおむつも増えています。環境意識の高まりで、リサイクルやリユースが一般的になる中、紙おむつはほとんどがそのまま捨てられているのが現状です。

こうした声を受けて研究を進めていたユニ・チャームでは、2019年秋に、使用済み紙おむつを洗浄して原料のパルプを取り出す技術を確立したと発表。リサイクルの実用化を目指すことにしたのです。

本当にきれいになるのか

たしかに環境への負荷を軽くするためにも、紙おむつのリサイクルは重要だということは分かるものの、「本当にきれいになるのか」という疑問は残ります。

実際にどのような工程でリサイクルが行われるのかというと…。
まず、回収した紙おむつを専用の機械に入れて、細かく砕きます。そして独自の方法で水を混ぜて原料を分離させ、パルプだけを取り出します。

ただこの時点でのパルプはまだ茶色く、汚れが落ちきっていません。
そこで行うのが「オゾン処理」です。会社では研究の過程で、きれいに汚れを落とすために、洗剤で洗うなど様々な方法を試したそうですが、行き着いたのがオゾンで洗う方法だったということです。

オゾンの滅菌処理によって汚れとともに色も落ち、再利用可能なパルプに生まれ変わるのだそうです。
処理を終えたパルプは白く、見た目からは通常のパルプと区別がつかないほどです。メーカーの担当者は「通常使用している新品パルプと同じレベルの品質にある」と話していました。

リサイクル紙おむつ量産へ

リサイクル技術の確立に合わせて、使用済み紙おむつだけを分別して回収する仕組み作りも始まっています。
鹿児島県では、志布志市と大崎町の2つの自治体と協力して、紙おむつの分別回収に取り組んでいます。ごみの収集場所に「紙おむつ専用ボックス」が設置され、ここで回収されます。

リサイクルを軌道に乗せるには、多くの使用済み紙おむつを集めなければなりません。会社では、ほかの自治体や介護事業者などの協力も得て、分別回収の仕組みを広げることも検討しています。
ユニ・チャームは、2023年をめどに紙おむつのリサイクルから生まれた商品の販売をスタートさせ、順次拡大していく方針です。そして、今は志布志市にある紙おむつリサイクルの拠点を2030年までに全国に10か所以上作る計画を明らかにしています。

本当に使われる?量産にハードルも

ただ、きれいにリサイクルされた紙おむつは作れるようになったものの、取材すると、いくつか課題も見えてきました。

第1は、そもそも「製品が本当に世の中に受け入れられるのか」ということ。いま会社では、紙おむつのリサイクルに対する消費者の抵抗感を少なくするため、まずは再生されたパルプを使った名刺やメモ用紙を作って、世の中に浸透させていけないか検討しているといいます。
もう1つは、「地域の協力」です。
鹿児島県志布志市と大崎町では、分別回収に住民の協力が得られていますが、都市部など人口の多い地域で、どれだけ分別回収できるかは未知数です。回収する自治体の手間やコストがかかるだけでなく、回収場所に専用スペースを設けるなど、状況に応じた対応が必要なケースも出てくることも考えられます。

自治体はもちろん、地域の人々の理解が得られるかどうかも成功のカギを握っていると感じました。

“水平リサイクル”で環境に優しい社会を

使用済み紙おむつをめぐっては、燃料や建築材料に生まれ変わらせる広い意味でのリサイクルの取り組みは全国でいくつか行われています。また、海外メーカーも別の製品に再利用するプロジェクトを進めています。

さらに11月、おむつの吸収剤に使われるプラスチック樹脂を作っている日本の企業などが、樹脂を再利用してもう一度吸収剤にリサイクルする技術を開発したと発表し、紙おむつのリサイクルに向けた機運は高まっています。

しかし、いずれの取り組みも大規模な回収の仕組みを整えるハードルが高く、事業の規模やエリアを広げるうえでは同じ課題を抱えています。

なぜいまリサイクル紙おむつの量産を目指すのか。ユニ・チャームの高原豪久社長は、こう話しています。
高原社長
「安くていいものを作るだけではメーカーは支持されなくなっている。消費者は、メーカーの価値観に共感して、商品を購入する時代だ。会社として、サステナブルな社会を作ろうというメッセージを発信していくことは非常に重要だ」
使用済み紙おむつから新しい紙おむつを作って販売する“水平リサイクル”の仕組みを作ることで、環境に優しい循環型社会の実現に貢献したいと、意欲を見せていました。

“水平リサイクル”は、使用済みの製品をまた同じ製品としてリサイクルすることで、アパレル業界で取り組みが進んでいます。
ユニクロを展開するファーストリテイリングはことし9月に、消費者から回収した古いダウンジャケットを自動で裁断して短時間で羽毛を取り出す新しい技術を取り入れ、リサイクルしたダウンジャケットの量産を実現。11月から店舗での販売にも乗り出していて、今後、リサイクル商品を増やすことも検討しています。

人々の“水平リサイクル”への意識や企業の機運も高まり、リサイクルした紙おむつが市場で受け入れられる社会となるのか。今後の量産や販売に向けた会社の取り組みに注目して、取材したいと思います。
経済部記者
太田 朗
平成24年入局
神戸局、大阪局を経て経済部
現在、重工業界を担当