“世界でいちばん小さなイケア”

“世界でいちばん小さなイケア”
家具や生活雑貨を展開する日本でもおなじみのイケア。今、追求しているのが、サーキュラー、循環型のビジネスモデルです。その戦略の一環として、半年間の期間限定で新たなコンセプトの店舗を北欧のスウェーデンにオープンしました。ねらいはどこにあるのか、現地で取材しました。(ロンドン支局長 向井麻里)

「2度目のチャンスを信じている」

首都ストックホルムから車で約1時間、スウェーデン南部のエスキルストゥーナ市です。ことし11月のオープンを前に店舗をたずねました。オープンまであと数日とあって、準備はほぼ整っていました。大型店を展開している印象が強いイケアですが、この店舗は日本のコンビニほどの広さです。

店長は「この店はおそらく世界でいちばん小さなイケアでしょう」と話しています。小さな店内に並んでいるのは、ほぼすべて中古品。会社としては、世界初の中古品専門店です。
「私たちは2度目のチャンスを信じています」。店内には、この「ことば」が大きく掲げられていました。タンスやソファー、そして置き時計などの雑貨のほか、1980年代や90年代に販売されていた商品が並び、今では見かけないものもあります。

案内してくれた担当者はCDやDVD専用の棚を指して「CDを利用する人は少なくなったから、別の使い方を考えてもらわなくてはいけませんね」と笑いながら話していました。

目指すのは「サーキュラー」

「持続可能な未来の実現に力を尽くしながら、ビジネスでも確実な成功を収める」。イケアはこうしたビジョンのもとに「サーキュラー」、つまり循環型のビジネスモデルへの転換を宣言し、2030年までに再生可能な素材やリサイクル素材のみを使った製品作りの実現などを目指しています。

「とって、つくって、捨てる」という大量消費型のモデルから、何も捨てずに古い製品を新たな資源に変える循環型システムに移行するというものです。新たな店舗は、その目標に向けた実験でもあるのです。

出店にあたって、使わなくなった製品を提供してほしいと呼びかけたところ、市民からはたくさんの中古品が寄せられました。店舗とは別の場所にある倉庫に案内されると、古くなった椅子やテーブル、棚などが山積みになっていました。少しぐらついている椅子や、ところどころ色がおちている棚などもあります。こうした中古品をひとつひとつ丁寧に点検したうえで、必要に応じて修理したり、きれいに磨き上げたりして、販売できる商品に仕上げていくのです。
商品は新品と比べて、半額以下で販売されます。さらに、作業にあたる人たちは、「サムハル」というスウェーデンの国営企業から派遣されています。「サムハル」は障害などのために社会で働くことが難しい人たちを雇用し、さまざまな現場に派遣しています。「2度目のチャンス」をコンセプトにしたこの店舗で、チャンスをつかんでもらいたいと考え、「サムハル」からの派遣を決めたということです。

店舗の場所も“世界初”

新たな店舗は、あるショッピングモールの中にあります。リサイクル商品などの販売を専門とする世界初のモールだといいます。「リサイクル」ということばと、市の名前とを組み合わせて「リトゥーナ」と名付けられました。5年前にオープンし、店舗の数は2倍の14店舗に、売り上げは3倍の1470万クローナ、日本円でおよそ1億8000万円に増えました。

イケアとしては、モールが培ってきた循環型ビジネスモデルのノウハウを学びたいと考えているのです。ここでは家具や生活雑貨から自転車、おもちゃまで、あらゆる商品を見つけることができます。
モールに隣接しているのが、地元の自治体が運営するリサイクルセンターです。不要になった中古品を市民が次々と持ち込んできます。

モールのそれぞれの店は、廃棄物をリサイクルしたり、デザインの一新など付加価値をつける「アップサイクル」をしたりして、商品を作り出していきます。取材に訪れたときも、ある店では古い棚に白いペンキを塗る作業をしていました。このようにして生まれ変わった商品がモールで売られているのです。

モールには掘り出し物を見つけようと多くの市民が訪れ、雑貨を選んでいた女性は「ここに来れば何でもそろう。環境問題は重要だと思うので、このモールのコンセプトはすばらしい」と話していました。モールの責任者、ソフィア・ビーステッドさんも手応えを感じています。
ソフィア・ビーステッドさん
「以前はここがどんなところなのか、多くの人が理解していませんでした。けれど今はリサイクルやアップサイクルによる循環型のショッピングモールだという認識が確立しています。そして“廃棄物”が“有効な資源”だという考え方も浸透してきていると考えています」

“最も大きな可能性を秘めた世界でいちばん小さな店舗”

循環型の経済を国の戦略として掲げるスウェーデン政府も、このモールを成功例に挙げています。イケアの担当者も出店にかける意気込みを強調します。
ヨーナス・カールレヘッドさん
「人々は中古品をどう思っているのか。どんなものをリサイクルセンターに寄付するのか。なぜ捨てずにわざわざここまで持ってくるのか。知りたいことは山ほどあります。ここで循環型のビジネスについて学び、それをスウェーデン、そしてほかの国々で、どう展開できるのか考えたいと思っています」
開店の日、コンビニサイズの小さな店には大勢の人が訪れ、次々と商品を買い求めました。世界に展開する店舗の中では、“いちばん小さい”この店舗。しかし、新たなビジネスモデルの実現に向けては、もっとも大きな可能性を秘めているといえそうです。
ロンドン支局長
向井 麻里
国際部やシドニー支局などを経て現所属
イギリスや北欧の政治・社会問題などを取材