社会

栃木 那須塩原で入湯税引き上げ 財源でPCR検査実施

宿泊施設の従業員らに新型コロナウイルスの定期的な検査を行うことになった栃木県那須塩原市で検査の財源に充てるための入湯税の引き上げが1日から始まりました。一方で、実際に検査を受けた人は想定の1割程度にとどまり、検査件数を増やすことが課題となっています。
那須塩原市は観光客に安心して来てもらいたいと、ことし10月から、月に1回、市内のホテルや旅館の従業員らのうち希望者に、PCR検査などのウイルス検査を受けてもらうことにしました。

これに伴い、検査費用の一部を市が負担するための財源として、1日から市の入湯税が宿泊料に応じて50円から200円引き上げられました。

一方で、市は当初、検査の対象について土産物店なども含めて毎月、600人程度を見込んでいましたが、実際に検査を受けたのは30日の時点で延べ63人と想定の1割程度にとどまっています。

感染者が出た場合の不安に加え、Go Toトラベルによる宿泊客の増加で検査に行く時間が取れないといった事情が背景にあるとみられ、市としては、事業者の理解を得ながら検査数を増やせるかが課題となっています。
渡辺美知太郎市長は「近日中に旅館業の人たちが病院に行かなくても検査を受けられる仕組みを作りたい。今後、どんな状況になっても観光を楽しめる取り組みを作っていきたい」と話しています。
入湯税が引き上げられた1日、那須塩原市内の旅館を訪れた宿泊客からは、さまざまな声が聞かれました。

県外から訪れた男性客は「引き上げは知らなかった。150円の入湯税が350円になるのは大きく、納得はしていないがしかたない」と話していました。

一方、県内から来た女性客は「ニュースで知っていました。引き上げた分はPCR検査に使われ、期間も決まっているということですごく安心しているし、納得しています」と話していました。

入湯税引き上げ 実施の経緯は

新型コロナウイルスの感染が拡大する中、那須塩原市は、観光地での感染防止対策の「見える化」が必要だとして、ことし7月、宿泊施設の従業員らへの定期的なPCR検査の実施と財源として入湯税を引き上げる異例の考えを打ち出しました。

地元の塩原温泉旅館協同組合が加盟する48施設にアンケートを行ったところ、検査で陽性となった場合や入湯税の引き上げによる観光客の減少を懸念する声があげられ、およそ3分の2に当たる32の施設が引き上げに反対しました。

組合は、この結果も踏まえ、PCR検査実施の見直しと入湯税引き上げの中止を求める要望書を市に提出しました。

しかし市は、入湯税を一律で200円引き上げる条例の改正案を市議会に提出します。

その後、市議会で、賛否が分かれている現状も踏まえて引き上げ額を宿泊料金に応じて50円から200円まで幅を持たせる案に修正され、ことし9月、改正条例が可決されました。

引き上げが決まってからは、反対していた旅館も含め、感染防止の取り組みに協力していくことで合意しています。

検査を受けていない宿泊施設も

那須塩原市の板室温泉にある旅館では、経営者を含む16人の従業員のうちフロントなど接客に当たる10人がPCR検査を受け、全員陰性でした。

館内には入湯税の引き上げを知らせるポスターを貼って宿泊客への周知も行っていて、今のところ、引き上げによる影響は出ていないということです。
旅館を経営する荻原正寿さんは「県外から多くのお客様を迎え入れるので、経営者や従業員が陰性だったという確認を取っていくのは一つの安全対策として必要だ。『私の宿ではこうしています』という発信をしていくことで、ご理解をいただけると思う」と話していました。

一方、検査数が伸びない背景には、客離れなどへの懸念が旅館側に根強く残っているためとみられます。

入湯税の引き上げに反対していた塩原温泉旅館協同組合の田中三郎理事長は、改正条例の可決後、PCR検査を含めて市と協力していくことで合意していますが、経営する旅館では従業員も含めてまだ検査は受けられていません。

感染者が出た場合の不安に加え、Go Toトラベルによる宿泊客の増加で病院まで検査に行く時間が取れないなどの理由から、塩原温泉では定期的な検査を受ける旅館は少ないといいます。

田中理事長は「“陽性”の結果が出てしまうとあっという間にキャンセルが発生してしまい、1度キャンセルになったら客はもう戻ってこない。ある程度の人数で何度も受けてもらうとなると、旅館側の負担もあるのでなかなか積極的に検査には行かないのではないか」と話しています。

特集

データを読み込み中...
データの読み込みに失敗しました。