経済政策専門家 “バイデン氏の財政政策・通商政策に注目”

アメリカ大統領選挙で勝利を宣言したバイデン前副大統領は、財務長官に初めての女性となるFRBの前議長のイエレン氏を指名すると発表するなど、政権移行に向けた準備を着々と進めています。バイデン氏の経済政策について専門家は、新型コロナウイルス対策を含む財政政策や、通商政策に注目しています。

コロンビア大学国際関係・公共政策大学院の伊藤隆敏 教授は、新型コロナウイルス対策を進めるための財政政策がまず注目されるとし、「バイデン氏にとって社会保障を手厚くしてセーフティーネットを張ることが非常に重要で、まずはそこに集中するだろう」と述べました。

そして、「新型コロナへの対応が1年ほどで済むのかどうかによって、バイデン政権の経済政策の評価が違ってくる。いかに早く、コロナ後の『ニューノーマル』に移行できるかが課題になる」と指摘しました。

また通商政策をめぐっては、中国に対する厳しい姿勢に変わりはないと見られる一方、輸入品に高い関税をかけるトランプ政権の保護主義的な政策を取りやめ、いずれはWTO=世界貿易機関を中心とした自由貿易体制に戻ることが予想されるとしました。

そのうえで伊藤教授は、「日本はアメリカが抜けたあと11か国でTPP=環太平洋パートナーシップ協定を発効させ、EU=ヨーロッパ連合とも経済連携協定を結んだ。アメリカをTPPに戻すことができれば世界に冠たる自由貿易の要になれるので自由貿易で日本が主導権をとることが可能になると思うし、ぜひそうすべきだ」と指摘しました。

環境政策

バイデン政権が優先事項に挙げているのが、環境政策です。

バイデン氏はトランプ政権からの大きな転換を掲げ、トランプ大統領が離脱を決めた気候変動対策の枠組み、「パリ協定」に復帰すると表明しています。

太陽光や風力といった再生可能エネルギーや、走行中に排ガスを出さない電気自動車を普及させ、2050年までに温室効果ガスの排出を実質ゼロにすることを目指す方針です。

その一方で、石油や天然ガスといったエネルギー産業への政府の補助金を削減する考えを示唆しています。

ただ、こうした産業で働く人は南部のテキサス州など全米で1000万人を超えているうえ、エンジンが不要となる電気自動車への転換は、自動車産業が盛んなアメリカ中西部の雇用にも大きな影響を及ぼすという批判も出ています。

これに対し、バイデン氏は気候変動への対策によって、雇用が失われるとするのは古い発想だと反論するとともに、任期の4年間で電気自動車や再生可能エネルギーの普及に向けた施策に2兆ドル、日本円で200兆円規模を投資する計画を掲げています。

これによって、逆に新たな雇用を生み出すとしていますが、環境問題への意識の差が地域によっても大きいとされるアメリカで、国民の理解を得ながら気候変動対策を進めていけるのか、その実行力が問われそうです。

経済の回復

一方、バイデン氏がまず、直面する難題が、新型コロナウイルスで傷ついたアメリカ経済の回復です。

アメリカの失業者はいまも1100万人を超え、とりわけ厳しい経営が続く飲食店やホテル、娯楽施設など、サービス産業で働いてきた若者や女性、黒人、それにヒスパニックの雇用が失われています。

こうした事態に対して、バイデン氏は感染防止を徹底しなかったトランプ大統領による失策だと批判したうえで、新政権では感染防止策を重視しながら経済の回復を進める姿勢を示しています。

アメリカの失業率は経済活動の再開に伴って、統計開始以降で最悪だった4月の14.7%から10月には6.9%に改善し、7月から9月までのGDP=国内総生産の伸び率も、年率換算でプラス33%となるなど、回復の動きもみられています。

しかし、足元では感染者が再び急増するなど雇用環境は予断を許さない状況で、バイデン政権は感染防止策を徹底しながら、国民生活も改善させていくという難しいテーマに挑むことを求められます。

また、追加の経済対策を実施できるかも課題となっています。

中小企業の経営や労働者の暮らしは、過去最大となる300兆円規模の経済対策に支えられてきたものの、その予算はほぼ尽きていて、議会での与野党の対立を背景に追加の予算を確保できるめどは立っていません。

また、バイデン氏は、大企業や富裕層への増税を求める党内左派の意向を踏まえ、法人税率を21%から28%に、個人の所得税の最高税率も37%から39.6%に引き上げる意向を示しています。

しかし、この税制改革についても議会の承認が必要なため、増税に消極的な共和党の理解を得られるかは不透明で、野党と、党内左派の間で板挟みになる可能性もはらんでいます。

通商政策

バイデン氏は通商政策について、中国を念頭に民主主義国家で連携することや、雇用の保護につながる施策を重視していく方針を示しています。

政権発足後に焦点となるのは、トランプ政権が導入した輸入品に対する関税の大幅な引き上げや、自国優先の貿易協定などの保護主義的な政策をどこまで見直すかです。

アメリカ第一主義を掲げるトランプ政権下では、雇用創出のために国内製品を優遇するとして、鉄鋼製品をはじめ、海外からの輸入品に高い関税を上乗せしたほか、製造業の空洞化につながったとして、NAFTA=北米自由貿易協定を見直しました。

また、EU=ヨーロッパ連合には、産業補助金をめぐる問題で、特産のワインやチーズの関税を引き上げ、日本との間でも牛肉などの市場開放を求める日米貿易協定を結びました。

とりわけ、中国には最大25%の関税上乗せを繰り返し発動し、貿易戦争と言われるまでに対立がエスカレートしたうえ、ファーウェイをはじめとした通信や半導体に関わる中国企業への締めつけも強化するなど強硬姿勢を鮮明にしました。

バイデン氏は、トランプ大統領が行ってきた関税引き上げに対し、「懲罰的な手法はとらない」と言及しているうえ、トランプ政権が機能不全だと批判してきたWTO=世界貿易機関を尊重する考えを示しています。

ただ、民主党は伝統的には共和党よりも保護主義的な傾向があるうえ、バイデン氏も海外で生産された製品に追加の税を課すなどとした「メード・イン・アメリカ税制」の導入を打ち出すなど、企業の国内回帰や雇用の保護を重視する方針です。

国内雇用を軽視したと批判されたオバマ政権時代とは違った政策を打ち出していることから、トランプ政権の路線から大きな変更はないという見方もあります。

このため、中国を中心に各国から要望が相次ぐとみられる関税の引き下げなどに、どこまで応じるかが注目されています。