食品廃棄物で空を飛ぶ! コロナで加速 脱炭素

食品廃棄物で空を飛ぶ! コロナで加速 脱炭素
11月6日午前10時30分の羽田空港。国内初の取り組みとなる旅客機が、アメリカ・ヒューストンに向けて飛び立ちました。その取り組みとは、「食品廃棄物」で作られた燃料によるフライト。通常の燃料に比べてコストは割高ですが、二酸化炭素の排出量を9割減らせるといいます。新型コロナウイルスの影響で逆風がふきすさぶ航空業界。今回の試みを行ったANAも、今年度は過去最大の5100億円の赤字に陥る見通しです。現場では1円をも惜しむコスト削減が求められる中、なぜ、わざわざ割高な燃料の導入に踏み切ったのでしょうか。(経済部記者 加藤ニール)

脂身で空を飛ぶ?

初フライトを前にした10月下旬。食品廃棄物でできたジェット燃料を積んだタンカーが羽田空港の燃料タンクが並ぶエリアに、ゆっくりと接岸しました。

フィンランドの会社が製造するこの燃料の主原料は、食肉加工の過程で捨てられていた脂身や、使用済みの食用油。もちろん、ジェット燃料としての国際規格を満たしています。

通常の石油由来の燃料に比べて、コストは割高ながら、燃料の製造段階からトータルで見ると二酸化炭素の排出量を9割削減できるといいます。
導入したANAに、到着したばかりの燃料を見せてもらうと、少し黄色がかっていて、においはストーブで使う灯油のようななじみのある感じ。脂身や食料油で空を飛ぶことに、少し不思議な気持ちになりました。

二酸化炭素の排出量を抑えられる燃料を導入しようという動きは、ほかの航空会社にも広がっています。
日本航空が目指すのは、古着や廃プラスチックなどの家庭ごみを原料とするジェット燃料。

2018年には、家庭ごみから燃料をつくる技術を持つアメリカの企業に出資。2021年度をメドに導入する計画です。

なぜ、巨額赤字の今?

新型コロナウイルスの影響で、航空業界はきわめて厳しい状況に置かれています。ANAも、人件費や航空機の削減を余儀なくされ、事務所の電気代や整備場の軍手1枚に至るまでコストカットに取り組んでいます。

そんな中で、あえて割高な燃料の導入に踏み切った背景には、世界で進む“脱炭素”の動きに乗り遅れられないという危機感があります。新型コロナの感染拡大前から、航空業界には厳しい目が向けられていました。飛行機は、ほかの交通機関より二酸化炭素の排出が多いからです。
国土交通省の試算では、2018年度の時点で、1キロの移動で排出される二酸化炭素は乗客1人当たり96グラム。鉄道の約5倍に上ります。環境保護の観点から、飛行機を利用することは恥ずべきことだいう考え方がヨーロッパを中心に広がり、「飛び恥」ということばも生まれました。

こうした世論にも後押しされて、ICAO(国際民間航空機関)は、2021年から国際線を対象に二酸化炭素の量についての規制を設けることになりました。航空会社に対し、将来にわたって2019年の排出量を上回らないよう求める内容です。

航空機メーカーの間では、電気を使った旅客機も検討されていますが、実用化のめどさえ立っていません。航空会社が規制をクリアするためにとれる現実的な手段は、燃費のいい航空機を増やすか、画期的な燃料を導入するかといったところです。

ただ、高い安全性が求められるジェット燃料は開発に時間がかかります。量産化できる企業は世界全体でも数えるほど。ANAとしては、実績を積んで燃料メーカーとの関係を強化しておくことが、燃料の確保=規制のクリアには欠かせないと考えているのです。
全日空 吉川マネジャー
「石油由来でない燃料の生産量は、世界の航空各社の燃料の需要に対し、まだ1万分の1ほど。足元はコロナで非常に厳しい経営環境にあるが、長期的な視野を持って調達活動を進めないと、いざという時に手遅れになる懸念がある」
ANAは、燃料を製造しているフィンランドの会社が、シンガポールに製油所を建設し、本格的にアジアに進出するのを支援する代わりに、2023年以降、安定的に供給を受ける契約を結びました。

脱炭素 新型コロナで加速?

航空業界が迫られる“脱炭素”の流れは、新型コロナウイルスをきっかけに加速するという見方もあります。

その1つが「グリーンリカバリー」。
新型コロナで壊滅的な打撃を受けた経済の再生に向けて、環境分野への投資を後押しする動きです。EU=ヨーロッパ連合は、ことし7月の首脳会議で、経済の立て直しに92兆円の基金を設立し、このうち3分の1を環境分野への投資に充てることで合意しました。
苦境に陥った航空会社を支援する条件として、環境への取り組みを求める動きもあります。フランス政府は、エールフランスKLMに対し、緊急融資を行うかわりに、鉄道と競合する国内線の運航を減らすなどして、二酸化炭素の排出を減らすよう求めました。
アメリカでは、大統領選挙で勝利を宣言したバイデン氏が、気候変動への対応を最重要課題に掲げ、日本政府は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする目標を打ち出しました。

こうした世界的な潮流に、航空業界ではさらなる環境規制が避けられないという見方が広がりつつあります。

ANAと日本航空は、11月に相次いで公募増資を打ち出しました。得られた資金は、債務の返済に加えて、二酸化炭素の排出が少ないボーイング787やエアバス350といった新型機の購入にも充てられます。

新型コロナの先を見据えた対応は

新型コロナウイルスをきっかけに、多くの人たちが飛行機のない日常を体験した今、航空会社の危機感は一段と強まっています。

日本では師走に入り、新型コロナの対策は“勝負の3週間”のまっただ中。航空会社はコストカットで当面の危機を乗り越えながらも、その先を見据えた対応を迫られています。

世界の空がどう変わっていくのか、引き続き取材を続けていきます。
経済部記者
加藤ニール
平成22年入局
静岡局、大阪局を経て
現在、国土交通省担当