追い詰められる“遺児家庭” コロナ禍で進学諦める高校生も

事故や病気などで親を亡くした子どもたちへのコロナ禍における影響を支援団体が初めて調査した結果、家計が苦しくなる中で進学を諦める高校生が出始めているほか、退学や休学を考える大学生は3割に上るなど、追い詰められる“遺児家庭”の実態が明らかになりました。

調査は、親を亡くした子どもたちなどを支援している「あしなが育英会」が先月から今月にかけて行い、高校生と大学生、その保護者、合わせて6241人から回答を得ました。

「空腹」「死にたくなる」切実な声

調査の自由記述には、新型コロナウイルスの影響で家計が厳しくなる中、遺児らから切実な声が寄せられました。

神奈川県の高校2年生は、「進学する為のお金をアルバイトで稼げない。家計を助ける事もできずお腹がすいている。たまにはお菓子も食べたい」と記しました。

東京都の大学3年生は、「アルバイトがないので食費を削っている。友人からもらったカンパンで空腹をごまかしている」と答えるなど、食生活に影を落としていることがうかがえます。

中には「農家から出荷できない野菜をもらい、腐ったレタスの中から食べられる部分を探しながら涙が出た」と答えた40代の母親もいました。

広がる進路への不安

こうした中で広がっているのが、将来の進路への不安です。
山形県の高校1年生は、「専門学校へ行きたいと思っていたが、親の仕事が前よりなくなり行きたいとは言えない。母は持病もあるのにつらい思いをしながら仕事に行く姿を見ると苦しい」とつづりました。

東京都の高校2年生は、「お金持ちの家の子みたいに大学に行ったり、お金の心配をせずに高校に通ったりしたい。親がやりくりに困っているのを見るのがつらい」と記しています。

また、愛知県の大学4年生は、「お金が足りない。内定をもらえたのに4月からの生活費用が用意出来ない。長年の夢だった職業の内定を勝ち取ったのにこのままだと諦めそう」と記し、神奈川県の高校3年生は「勉強を頑張ったけれど家計の負担が大きいし、たくさん悩みましたが大学進学は諦める決断をしました」と厳しい状況を明かしました。

さらに、茨城県の高校2年生は「困っていることが多すぎてパニック発作で死にたくなる」と訴えていて、子どもたちの切実な声が寄せられています。

そして政府に対し、埼玉県の高校2年生からは「支援を手厚くしてもらい、普通の家庭と同等のチャンスが欲しいです」といった声や、東京都の大学2年生からは「一般市民でさえ生活が苦しい人はいるのに、ひとり親家庭、障害者家庭はもっと生活が苦しくなることを理解して欲しい。隠れた貧困にちゃんと目を向け向き合って欲しい」などと、多くの子どもたちが国の支援を求めています。
30日のあしなが育英会の会見で公表された主な調査結果です。

保護者は

感染拡大で「収入が減った」と回答した保護者は37%でした。
また切りつめている支出の項目は、「食費」と「光熱費」がいずれも57%、「教育費」が17%となりました。

高校生は

高校生の遺児など1674人に自身の変化を聞いたところ、
▽「疲れがたまった」が42%、
▽「落ち込むことが増えた」が30%となったほか、
▽「自分のためのお金を節約するようになった」が18%でした。

こうした中、進学を諦めるなど将来の進路を変更した高校生は、100人を超えました。

大学生は

大学生1690人の回答では、
▼「アルバイト代が減った・なくなった」が半数を占めました。
また感染拡大以降に「退学」や「休学」を考えた人は、合わせて31%にのぼりました。
主な理由としては、
▼「モチベーションが続かない」が最も多く、
▼「家計が苦しくなり授業料を払えないから」や
▼「家計のため自分も働かなければいけないから」
といった回答が続きました。

「年越し緊急支援金」を給付へ

あしなが育英会では、コロナ禍で遺児家庭が追い詰められている実態が明らかになったとして、奨学金を支給しているおよそ7600人全員を対象に、ひとり20万円の「年越し緊急支援金」を給付することを決めました。

あわせて、今年度あしなが奨学金を申請した人は急増しているということで、支援への協力を広く呼びかけています。
30日会見した「あしなが育英会」の玉井義臣会長は、
「今回の調査は大変重く苦しい、かつてなくつらい結果になった。学ぶべきことを学べない、学ぶ気になれないというのが本当の貧困だと思う。遺児たちと保護者には『生活はとことん面倒をみる』『死のうなんて思ってはだめだ』ということをはっきり伝えておきたい。必要なのは精神的な励ましと進学や就職など次につながるよう面倒をみる姿勢だと思う。スピード感をもって教育を受けられるよう支援を貫いていきたい」と話していました。

高校生 食事は1回に…

関東地方に住む高校2年の女子生徒は、母親と中学生の妹と小学生の弟の4人家族で、生活保護を受けて暮らしていますが、感染拡大により、4人分のマスク代やオンライン授業のための新たな通信費用など、支出は月に1万円以上増えました。

食費や光熱費を切り詰めてやりくりをしていて、女子生徒は「おなかが空かないから」と食事を3回から1回に減らし、体重は2、3キロ減ったといいます。

女子生徒は、「4人も家族がいるとマスク代にお金がかかります。その代わり、食費と水道代は節約していて、お風呂はためずにシャワーにして、食事は量が少なくなりました。親を見ていて大変そうなので、みんなで協力しています」と話していました。

家族に負担をかけないため

こうした中、最も我慢しようとしているのが将来の進路の選択です。大学進学を目指してきましたが、家族に負担をかけないため別の道を考え始めています。

女子生徒は、「4年制大学は学費が高いので、最初は就職に変えようと思っていましたが、コロナで就職しづらいので、いまは専門学校にしようかと迷っています。下には高校生になる子もいてその学費もあるし、中学校に行く子の学費もあるし、私が大学に行ったら大変で申し訳ないので」と打ち明けました。

そのうえで、「コロナになってからうつのようになって、寝る前にこれから進路どうしようかなとかやっぱり無理かなとか、自分でも分からないんですがすごく不安になり、これから生きていけるかなとか死にたくなったりします。原因は金銭面とか進路とか精神面とか全部ですね」と話していました。

大学生 厳しさ増す生活

東京都内の大学の3年生、宍戸優希さんは高校1年生の時に父親を交通事故で亡くし、進学を諦めかけましたが奨学金を利用して大学に進み、システムエンジニアを目指して学んでいます。

生活費を稼ぐため、週に3日、自宅近くの焼き肉店でアルバイトをしてきましたが、感染拡大による営業時間の短縮や出勤日の減少で収入は半分程度に落ち込み、一時は退学や休学も考えたといいます。

何とかして学び続けたいと、警備員などのアルバイトを新たにかけもちしてやりくりしていますが、厳しさは増していると感じています。

後輩の遺児たちを支えたい

自身も苦しい生活を送る中で、宍戸さんが心配しているのが後輩の遺児たちへの支援の継続です。自分と同じような立場の子どもたちを支えたいと、大学1年生のときからほぼ毎年、街頭に立ってあしなが育英会の募金活動に参加してきましたが、ことしは、新型コロナウイルスの影響ですべて中止となりました。

宍戸さんは、「後輩の遺児たちにもちゃんとつないでいけるよう、日本でわりと豊かに生活している中でも、貧困に苦しみ大学進学を諦めなきゃいけない状況があることを直接伝えたいと活動してきましたが、コロナでそういう機会が失われてしまった」と話していました。
このままでは今後の奨学金の資金が不足すると考え、宍戸さんはほかの学生とともに、街頭募金の代わりに、インターネット上で寄付を呼びかける「クラウドファウンディング」を立ち上げ、コロナ禍で困窮する遺児たちの現状を訴えています。

宍戸さんは「経済的な理由で苦しい思いをする人たちが増えていると感じて活動を始めました。コロナ禍で社会全体が大変でいろんな課題が増えていると思いますが、子どもたちが自分の夢ややりたいことを諦めざるをえない状況に追い込まれることがないよう、何とか助けたい」と話していました。