コロナで訪問介護職の人手不足が深刻化 有効求人倍率は15倍超

新型コロナウイルスの感染拡大で、ホームヘルパーなどの「訪問介護職」が深刻な人手不足に陥っています。ことし9月時点の有効求人倍率は15倍を超え、現場からは、人材を確保するためにも介護報酬を引き上げ待遇を改善すべきだという声が上がっています。

ホームヘルパーなどの訪問介護職は、高齢者の自宅を訪問して介護や家事などのサービスを提供し、在宅介護の要とも言われています。

この訪問介護職、新型コロナウイルスの感染拡大で、人手不足に拍車がかかり、厚生労働省によりますと、ことし9月の有効求人倍率は15.47倍となりました。

すべての職種の平均と比べるとおよそ16倍で、介護職全体と比較してもおよそ4倍の高さとなります。

有効求人倍率は、新型ウイルスによる経済の悪化で、全職種の平均は昨年度より0.6ポイント低下していますが、訪問介護職は逆に昨年度より0.4ポイント余り上昇しています。

訪問介護の現場では、訪問先で感染したり、逆にウイルスをうつしたりする不安から、高齢のヘルパーを中心に離職するケースが相次いでいて、ことし9月に専門家が訪問介護職に行った調査でも、36.4%の人が「自分が働く事業所でコロナの影響によって離職や休職した職員がいる」と回答しています。

一方で、感染への不安に加え、賃金を上げることも難しいため、応募する人はなかなか増えず、現場からは介護報酬の引き上げなどで、待遇の改善を図るべきだという声が上がっています。

ヘルパーが相次いで退職した事業所では

介護事業所の中には、新型コロナウイルスの感染拡大で、職員が相次いで退職するところも出てきています。

千葉市の訪問介護事業所では、新型コロナウイルスの感染拡大以降、60人余りいるホームヘルパーのうち、7人が退職しました。いずれも60代から70代の高齢の職員です。もともと訪問介護の現場は、若い人材の採用があまり進まず、高齢の人が多く働いています。

退職したヘルパーは、自分が感染すると重症化するリスクが高いこと、それに家から家を訪問することでウイルスを媒介してしまう怖さがあることなどを辞める理由に挙げていたといいます。

この事業所で働くヘルパーの平均年齢は60歳以上。

求人募集を出していますが、応募はほとんどなく、今も代わりのヘルパーは採用できていません。

このため、ふだんは主に管理業務を行っている「サービス提供責任者」と呼ばれる職員が、みずから現場に出てカバーしています。それでも対応仕切れなくなっていて、新たな利用希望者を断ったり、訪問介護の時間を変更してもらったりするケースが出ています。

コロナによって人手不足に拍車がかかる一方で、現場のヘルパーは感染予防にも注意を払わざるをえず、負担はますます増しています。

ヘルパーの壷阪明日香さんは、管理部門の責任者の1人ですが、朝から高齢者の自宅を回って介護を行っています。

訪問先に入る前には、新しいマスクを着用し、手指を消毒して靴下を履き替えます。家の中に入ったあとも手を洗い、使うタオルは1軒1軒、別のものにします。換気や、利用者の体温チェックなども欠かせません。疑わしい症状のある人がいる場合に備えて、フェイスシールドや防護服も常に持ち歩いています。

壷阪さんは、「自分が感染したら利用者にも事業所にも迷惑をかけるので細心の注意を払っています。不安はありますが、利用者さんからの感謝のことばを励みに日々仕事しています」と話しています。

訪問介護事業所を運営する社会福祉法人・千葉勤労者福祉会の門脇めぐみ介護部長は「訪問介護はもともと人手不足が深刻でコロナが追い打ちを掛けています。ウイルスに感染する怖さと相手にうつしてしまう不安がヘルパーに重くのしかかっています。今はみんな、責任感だけで頑張っていると言っても過言ではありません。国はせめて、ヘルパーの待遇を改善できるように、介護報酬の見直しを進めてもらいたい」と話しています。

退職したヘルパーは

訪問介護事業所を退職した70代のヘルパー2人がNHKの取材に応じ、苦しい胸の内を語りました。

8月に退職した74歳の女性は、13年間ヘルパーとして働きましたが、基礎疾患がある夫から「退職してほしい」と求められたといいます。

利用者に感謝されるヘルパーの仕事は生きがいだったため、辞めるかどうか悩みましたが、家族の反対を押し切ってまで続けることはできないと退職を決断しました。

また、ことし4月に退職した73歳の女性は、これまで18年間、ヘルパーを続けてきましたが、訪問先で感染する不安から退職を決めたといいます。

女性は「介護は三密が避けられず、当時はマスクをつけない利用者と接することも多く、私たち自身もマスクが不足していました。志村けんさんや岡江久美子さんなど著名人が亡くなったことも不安を大きくしました。本当は80歳までヘルパーを続けたかったのですが、もう仕事に戻ることはできないと思います」と話しています。

専門家 「使命感に頼るのではなく基本報酬の見直しを」

介護現場に詳しい城西国際大学の清水正美教授は「このまま人手不足が続くと、必要な人が介護を受けられず、介護保険制度はあってもサービスを受けられないという危機的な事態を招いてしまう」と指摘しました。

そのうえで、「介護現場では、感染症が流行したときも、どんなときも高齢者の生活を守らなければならない。これまで、訪問や通所といった在宅介護を支えるサービスは報酬が切り下げられてきたが、働く人の使命感に頼るのではなく、仕事に見合った基本報酬の見直しが必要なのではないか」と話していました。