スーツ脱ぎアボカド栽培! 農業経営に乗り出した地銀の危機感

スーツ脱ぎアボカド栽培! 農業経営に乗り出した地銀の危機感
スーツでカチッと決めお金とにらめっこしているイメージの銀行員。しかし、宮崎銀行には、作業着に身を包み、日々アボカドと向き合う珍しい銀行員がいます。地域活性化と銀行の生き残りをかけたプロジェクトを担っているということですが…(宮崎放送局ディレクター 齋藤吏恵)

ベテラン銀行員の出向先は

緒方省吾さん(44)。宮崎県内で約6割の貸し出しシェアを誇る宮崎銀行のベテラン行員です。本店の地方創生部に所属していますが、宮崎市中心部にある本店に出勤することはまずありません。
毎朝向かうのは、市の郊外にある農業用ハウスです。ここは3年前、宮崎銀行グループが5000万円を出資した農業法人が設立しました。

育てているのは、中央アメリカ原産で主に熱帯や亜熱帯で生育する「アボカド」。
農業法人に出向し、独りで栽培を任されている緒方さん。広さ10アールの専用ハウスで毎日、一つ一つ丁寧に実を触り、葉っぱに虫がついていないか見て回っています。
入行以来20年、主に地元中小企業向けの融資など営業現場でキャリアを積んできましたが、農業分野に参入すると聞いて進んで志願したといいます。
緒方さん
「まさか、40歳になって農業を始めるなんて思ってもみなかったが、銀行が農業をするなんてなかなか画期的。人生の中で新たな経験にチャレンジできる」
今では、アボカドの実にちょっと肩が当たるだけで、『ごめんね、ごめんねって言ってしまう』という緒方さん。少しでも愛情が伝わればと話す姿は、すでに立派な「農家さん」です。

先ず隗より始めよ

農業産出額全国5位の宮崎県。その基幹産業の足元は大きく揺らいでいます。
昭和60年に9万670人だった農業従事者は、平成27年にはおよそ半分にまで減少。
しかもその半数以上が65歳以上です。担い手不足が続けば、農業と関わりの深い製造業や小売業なども連鎖的に低迷し、地域経済の衰退に歯止めがかかりません。

こうした状況を打開するためには、銀行みずから農業が「もうかる」と示す必要がある、先ず隗より始めよというわけです。
宮崎銀行 岩下さん
「生産者への金融支援というのも限界がありましたので、じゃあ銀行が今度はみずから主体的にもうかる農業というのを実践する、確立させることで新規就農のチャンレンジとかそういったことにつなげる」
では何を栽培するのか。銀行が重視したのは、次の2つの条件を満たすものでした。
1 地元の農家と「競合しないもの」
2 ブランド品として、「訴求できるもの」
選んだのが、ビタミンや食物繊維などが豊富で「森のバター」とも呼ばれるアボカドでした。国内の9割以上を輸入品が占め、健康志向の高まりもあって、輸入量も、ここ10年で3倍以上に増えています。

加えて地元の温暖な気候も武器となります。

“チーム宮崎”で栽培技術向上を

ではなぜこれまで作られてこなかったのか、ネックになっていたのが栽培技術でした。
そこで協力を求めたのが、県内随一の「マンゴー」農家、横山洋一さん(43)です。

国内では嗜好品として扱われることも多いマンゴーが、将来にわたって安定した需要が見込めるのか、危機感を持っていた横山さん。9年前から競争相手の少ないアボカド作りに独学で取り組み、試行錯誤を重ねて、ここ数年でようやく安定した量の収穫ができるようになりました。

こうして得たノウハウを伝えることは、簡単な決断ではありませんでしたが、宮崎銀行を“チーム”として捉え、一緒に栽培技術を向上させたほうが地域のためになると考えたといいます。
横山さん
「独りでアボカド栽培を始めてやっぱり限界を感じていたんですよ。一緒にやれれば情報量も倍になりますよね。なるべく早い段階で技術を確立させて、広く皆さんに情報提供できればと思っています。銀行が新事業を仕掛けることによって農業に関心を持つ若者が増え、雇用や新規就農につながれば、宮崎にとって望ましいことです」
一方銀行側も、技術確立に貢献したいと、日々模索しています。
緒方さんは農業法人に出向した日から、毎日欠かさず日誌を付けています。
どんな作業をしたか、どんな肥料を使ったか。アボカド一つ一つの重さ、日射量などなど…とにかく細かく書き留めています。
これを基に、IT企業と組んで、独自のデータベースを作ろうとしています。マニュアル化できれば、後継者や新規就農者もノウハウを共有できるようになり、課題解決に近づくことになります。

“新ブランド”として販路開拓を目指す

先日、ハウスを訪ねると、立派な実をつけたアボカドを営業用のカタログに載せるための写真撮影が行われていました。

「もうかるビジネス」として成立させるには、販路を確保する必要があります。ターゲットを高級飲食店に絞り、将来的にマンゴーやライチに次ぐ宮崎の新しいブランドにするねらいです。初めての商談相手は京都の日本料理店に決まりました。
緒方さん
「農業を基盤として経済を拡大できるように、それで宮崎県に還元できるように国産アボカドと言えば宮崎県だよねっていう位置を築き上げていきたいと思っています」

地域に新しい風を吹かせられるか

銀行では、いま2棟目のハウスの建設を進めています。キウイやコーヒー、それに特産の日向夏と掛け合わせたレモンの栽培にも取り組み始めました。

日銀の低金利政策の影響で厳しい経営環境が続く中、千葉銀行や、鹿児島銀行と肥後銀行など、直接農業経営に乗り出すケースも出始めています。

高齢化や人口減少に直面する地方に基盤をおく金融機関として、農業への参入が地域に新しい風を吹かせ元気を取り戻す起爆剤となれるのか。今後も注目していきたいと思います。
宮崎放送局ディレクター
齋藤吏恵
「イブニング宮崎」で地元のユニークな人を紹介する企画リポートなどを担当