僕は将来、君のそばにいたい ~各国男性育休事情~

僕は将来、君のそばにいたい ~各国男性育休事情~
僕はことし30歳。子どもが生まれた同年代の友人たちと話すと、育児休業に話が及ぶこともある。でも業種を問わず、出てくるのはこんな言葉。
「取りたかったが、仕事が忙しいなか、上司に渋い顔をされそうで調整できなかった」「今後のキャリアに響くかもしれないと思うと言いづらかった」
妻しか育休を取らない、という夫婦は僕の世代でもまだ多い。でも、世界は取り組みを進めているし、日本も動き始めている。(国際部記者 関谷智)

とれない空気が邪魔してる

「もしこれから子どもが生まれるとしたら、育休を取得したいと思いますか?」
去年、転職サイト運営会社が行ったアンケートだ。

86%の男性が「取得したい」と回答した。
法律では、労働者が休業を希望する1か月前までに企業に申し出ることで取得できるとされている。しかし厚生労働省によると、昨年度の取得率は7.48%。

取得率が低い理由としてアンケートで最も多くあがったのは、「社内に育休自体を取りやすい雰囲気がない」だった。どうやら取りづらい「空気感」があるようだ。他の国はどう取り組んでいるのだろうか。

フランス:義務化で取得率100%へ

この問いに、「義務化」という答えを出した国がある。
およそ7割の男性が妻の出産に伴う休暇を取得しているフランスだ。

取得率100%を目指して来年7月に制度を改正し、少なくとも1週間は取得を義務づけることにした。違反した企業には、1人につき日本円で90万円余りの罰金が科されるという。
狙いは女性の負担軽減だ。
実はフランスでも、育児・家事に携わる時間を比べると、女性は男性の倍以上長い。

企業にとっては、これまでより頻繁に人員が抜けることになりかねず、制度改正には、経済界から一部反発もあったというが、マクロン大統領は「子どもが生まれたとき、母親だけが子どもの世話をしなければならない理由はどこにもない」と訴えた。
さらに踏み込んだ社内制度をつくった企業もある。

およそ90か国に展開する、フランス大手の化粧品メーカー「ロクシタン」。この春、すべての男性社員が有給で3か月間、妻の出産に伴う休暇を取得できる制度を設けた。
ガイガー会長は、制度の充実は「重要な経営戦略」だという。
レイノルド・ガイガー会長
「私の若い頃とは状況が変わりました。生まれたばかりの子どものそばにいたいと考える若い男性がとても多い。制度を充実させれば、家庭も仕事も大切にしたい優秀な若者は会社を辞めませんし、この制度で入社を決めた若者もいます。制度を積極的に活用するパパが増えれば、1人の穴をどう効率的に埋めるかという連帯感が醸成される」
そして笑顔でこう言った。
「当初、私の会社の制度を『うまくいくはずがない』なんていう経営者もいましたが、私たちの会社では若い社員がたくさん働いている。若い人たちの希望に寄り添える会社こそがよい会社ではないでしょうか」

韓国:発信を始めたパパたち

アジアではどうだろう。
近年、育休の取得者数が伸びているのが韓国だ。
ソン・ジユンさん(35)は妻の職場復帰にあわせて、去年からことしにかけて10か月の育休を取得した。

周りの男性は誰も取得したことがなかったうえ、代わりの人員は補充されず、周囲の目を気にしたという。
ソン・ジユンさん
「自分の昇進が遅れることはしかたがないと思いましたが、周りに迷惑がかかるのではないかと気になりました」
韓国では去年、育休を取得した男性が初めて2万人を超え、過去最多を記録した。

さまざまな制度改正の効果だというが、さらに広めるには、やはり「空気感」を変えていく必要があるようだ。
こうした中で今、広がりを見せているのが育休を経験した「パパ」たちの発信だ。動画配信サイトでは子育てについて語る男性が増えている。その1人が、オ・サンウクさん(37)。

オさんは、企業に勤めていた去年、育休を取得。今はユーチューバーとして活動、育休について「育児は大変だが、家族と一緒に過ごせることはとても幸せ」などと取得を迷う男性たちの背中を押している。
オ・サンウクさん
「育休についての相談もよく受けます。周囲にも少しずつ取得する人が増えていて、社会全体の意識が変わってきていると感じています。一方で男性の育休は法律で定められた当然の権利だということをよく知らない人も多いので、もっと広めていきたいです」
こういう地道な取り組みが、「空気感」を変えていくのかもしれない。

スウェーデン:長期の取り組みで育休取得が「当然」に

先月、ちょっと驚く出会いがあった。
スウェーデン大使館の職員、ヨハネス・アンドレアソンさん(40)だ。

アンドレアソンさんは3歳の息子の子育て中。すでに2018年に2か月半の育休を取得したが、現在は2回目の、7か月間の育休を取得している最中だというのだ。子どもと過ごす時間がもっと必要だと思ったからだという。

そんなに長期間育休をとることにためらいはないのか、聞いてみた。
ヨハネス・アンドレアソンさん
「育休を取得したいと相談したとき、否定的なことは一切言われませんでした。職場では私以外にも、多くの男性が育休をとっています。大使館には、育休中の人の代わりに働く役割の人がいて、カバーする体制ができています。キャリアについては、個人的には、影響があるとはまったく思っていません。職場では男性が育休を取得しても、なんの問題もないですし、むしろ、取得しないと、なぜ取得しないのかと不思議がられるケースもあると聞きました」
スウェーデンが男性も取得できる育休制度を導入したのは46年前。
当初は、「子育ては女性の役割だ」という考えかたが中心で、男性が取得することはほとんどなかったという。

状況が変わったのは、1995年。父親のみが取得できる30日の育休期間「パパの月」が設けられ、4年前には90日にまで拡大された。これによって男性の育休取得は着実に広がったという。
アンドレアソンさんは今、スウェーデンで家族とともに過ごしている。会社経営の妻は仕事を続けているため、日中は1人で息子の面倒を見ている。
ヨハネス・アンドレアソンさん
「男性は女性と同じように育児能力があると確信しています。子育てをすることで、子どものことをもっと理解できるし、子育てにおける責任、自覚もつきます。しっかりと子育てを担うことで、男性は“父親”になるのだと思います」
長期にわたる政府の取り組みが、育休や子育てに対する男性の考え方を変えたと感じた。

日本でも進む議論

日本でも、男性の育休取得推進のための議論は始まっている。
厚生労働省はいま、労使の代表などで作る審議会で、企業に対して、労働者への制度の周知を義務づけることや、子どもが生まれた直後に、短期間の休暇を組み合わせ、あわせて4週間程度休むことができる新たな仕組み作りなどについて検討を進めている。

育休取得が「当たり前」の社会に

それぞれの国や家庭によって、夫と妻の役割分担の考え方や、子どもの育て方は違う。でも日本でも、育休を取りたいという男性は確実に増えている。今回の取材を通して、男性の育休取得を広めるには、国としての意思を示す強力な、そして息の長い取り組みが欠かせないと感じた。

「男性も育休をとって子どもと、そして家族と向き合うことが当たり前の社会」

やがて僕が父親になるときに、そんな社会になっていてほしいと願う。
国際部記者
関谷智
国際部記者
松崎浩子
国際部記者
金知英