北海道にマンボウ!?「海洋熱波」が変える漁業

北海道にマンボウ!?「海洋熱波」が変える漁業
サケやサンマ、イカなどの北海道を代表する魚介類は記録的な不漁が続いている。それだけでなく、なんとマンボウやブリなど暖かい海を好む魚が近年、多く網にかかる。こうした海の異変の一因には「海洋熱波」という特異な現象があることが分かってきた。急激に変化する海で、漁業関係者は生き残りを模索している。(釧路局記者・田村佑輔 函館局記者・西田理人)

釧路沖にマンボウ!?

9月。私は北海道釧路沖で秋サケ定置網漁の船に乗っていた。取材で世話になっている昆布森漁協所属の第7共進丸では、マンボウがよく網にかかっているという話を聞いたからだ。
午前3時に港を出て、網をたぐり寄せる漁師たち。暗い海から姿を現したのは体長2メートルはある巨大なマンボウだった。それも1匹でなく、何匹も網にかかっていた。

釧路では需要がないため、慎重に網から外して海に逃がすしかない。漁の邪魔でしかないマンボウに、船頭は「小さいものなら、小舟が沈むくらい入っていたこともある」と苦笑していた。

その一方で、主力のサケの水揚げはピーク時の1割ほどにまで減少していて、漁業者にとっては極めて苦しい状況が続いている。

海の異変 海洋熱波

北海道ではサケだけでなく、サンマやイカなども記録的な不漁が続く。不漁に共通する原因は何なのか、道内外の専門家に取材を続けていると「“海洋熱波”に注目が集まっている」という話が出てきた。
海洋熱波は、海水温が平年と比べて極端に高い状態が5日以上続くという現象だ。世界中の海で発生し、専門家の間でも近年、注目度が高まっているという。海水温の緩やかな上昇とは違い、極端な高水温が続くことで、生態系への影響が指摘されている。
調べてみると、マンボウが網にかかっていたころ、釧路沖でも20日連続で海洋熱波が発生していた。

北海道の海で何が起きているのか。
明快に答えてくれたのは北海道大学の桜井泰憲名誉教授だ。50年にわたって北海道の海を中心に水産資源の動向や生態系などを研究してきた。

桜井名誉教授は、海洋熱波が頻発することで、サケやサンマが寄りつきにくく、マンボウやブリが回遊しやすい海になっているという見方を示した。
桜井名誉教授
「海で3度から4度も水温が上がるということは、大気にすれば15度から20度くらいの変化に相当します。ホットスポット的に急激に海水温が高いところができると、そこから魚がガラッと変わってしまう」

漁業関係者の苦悩

世界各地で起きている海洋熱波が北海道での著しい不漁の一因になっているという指摘。しかも、今後も発生頻度は高くなっていくという。これまでの魚がとれなくなり、なじみのない魚がとれる異変にどう対応していくのか。
サンマの水揚げ日本一の根室市で、サンマの加工を手がける水産加工会社の「兼由」を訪ねた。

この会社ではサンマの長引く不漁を受けて、3年ほど前からサンマのレトルト製品に力を入れている。
濱屋高男社長は、数億円をかけて新しい工場を建てるなど、思い切った設備投資も行ってきた。しかし、ことしの水揚げは過去最低の水準で、仕入れるサンマの量も激減している。新しくとれる魚を扱いたい考えはあるものの、新たな設備投資も負担が大きいため、売れるかどうか分からない新しい魚への転換は簡単ではないと話す。
濱屋社長
「水産加工業は、いままでの継続性というのが最優先される部分もあるので、なかなか変化に対応するのが難しい。もちろん魚種転換といっても、設備投資も必要な部分もあるのでなかなか厳しい」

とれる魚を“売れる魚”へ

一方で、新しくとれるようになった魚を“売れる魚”へ変えようという動きも出てきている。

知床半島の羅臼町では、3年ほど前からブリの水揚げが急増していることから、羅臼のブランドとして売り出せないか、模索が始まっている。

サケの定置網漁を行う葛西良浩さんの船では、去年、ブリの水揚げ額が不漁のサケを超えるほどになったという。
10月末、船に乗せてもらうと、この日水揚げされたサケは100匹足らず。その代わりに、まるまると太ったブリが1000匹以上入っていた。こうした日は珍しくないそうだ。

一般的に、北海道でのブリの単価はサケのおよそ半分と安価で取り引きされる。このため葛西さんたちは、この日、船1隻で10トン以上にもなるブリを、1匹ずつ素早く血抜きをすることで鮮度を保っていた。

羅臼のブリはサイズも大きく、脂ものっているため、北陸の「寒ブリ」に匹敵するブランドとして売り出せれば、生き残りにつながると期待しているのだ。
葛西さん
「少しでも付加価値をつけて、1円でも高く売ってみんなの生活を守ることがやっぱり大事な仕事ですね」
同じくブリの水揚げが増えている函館市では、新たな販路をねらう取り組みも始まっている。ターゲットは、これまでブリを食べる食文化が根付いていなかった地元・北海道だ。10月に行われた「ブリフェス」では、ブリの切り身を揚げたメニューを開発し、市民らにふるまった。イベントで実際に食べた人からも好評で、継続して提供する店も出るなど、地元での消費拡大に期待が寄せられている。
ブリフェスを主催 國分晋吾さん
「どうやって食べたらいいか分からないという声が圧倒的に多いので、まずはそういったところから踏み出せればいいなと思います」

漁業の生き残りは

北海道の漁業はこれまでも豊漁や不漁を繰り返しながら、私たちの食卓を支えてきた。しかし、海洋熱波が頻発することで、海がさらに様変わりし、今までの経験が通用しない状況になっていくという指摘もある。今とれているブリなどの魚が今後もとれ続ける保証はなく、漁業関係者たちは難しい課題を突きつけられている。

北海道大学の桜井名誉教授も「予測が難しい海洋熱波の状況に応じてシナリオを描き、適応していかないといけない」と語る。

海洋熱波の影響は、決して北海道の漁業者だけの問題ではなく、各地で顕在化してくると取材を通して実感している。まずは、地域が一体になって漁業の生き残りを支えることが必要だ。
釧路局記者
田村 佑輔
平成27年入局 
静岡局、沼津支局を経て現職
経済や水産など担当
函館局記者
西田 理人
平成29年入局
長崎局を経て現職
行政や農林水産分野など担当