コロナに負けない~中小企業の新たな一歩

コロナに負けない~中小企業の新たな一歩
新型コロナウイルスの感染が再び勢いを増し、Go Toトラベルは一部の地域が対象外に。日本経済の先行きも暗雲が立ちこめています。
「落ち込んでばかりでなく、先を見据えて動かなくては」
町工場の取材で経営者が語ったことばです。
感染が収束する見通しが立たない中、各地で中小企業が新たな一歩を踏み出しています。
(経済部記者 楠谷遼 峯田知幸)

まだ見ぬ相手を求めて

群馬県館林市にある従業員20人余りの部品工場。11月中旬に記者が訪れると、工作機械の音が鳴り響く一方で、稼働を止めたままの装置も目立ちました。鉄道車両のブレーキ部品などの受注が激減。7月には、売り上げが去年の同じ月の約6割に落ち込んだといいます。
去年秋には海外のライバル企業に勝つ切り札にと、約1億円をかけて最新鋭のレーザー加工機を導入しましたが、活躍の機会はほとんどないまま、維持費だけがかさむ日々。
しかし、頭を抱えているだけでは事態は打開できないと、社長の多田征訓さんは、新たな試みに乗り出しました。まだ見ぬ取引先との出会いを求めて、“仲介サービス”に登録してみたのです。
この仲介サービスは、全国1500社から集めた部品の発注を登録企業に紹介する仕組み。登録したその月に、家畜用の餌を製造する装置の部品を受注できました。これによって、10月は去年の9割近い売り上げを確保できたということです。
多田社長
「これまで手がけたことがない業種なので、不良品を出さずに納入できるか不安もあったが、自分から行動することで道は開けることが実感できた」
仲介サービスの運営会社によると、感染の拡大以降、中小企業からの問い合わせが一時は5倍近くに増え、急きょ、オンラインでの説明会を始めるほどの盛況だといいます。
サイト運営会社「キャディ」 浅野麻妃さん
「中小企業の優れた技術は、特定の業種以外でも生かせることに気付いていないことが少なくない。コロナ禍にあっても、情報通信関係など堅調な業界もあるので、そうした業界とつなぐことで、中小企業の経営改善をお手伝いしたい」

夜依存からの脱却

千葉県市川市の商店街にはためく「特製おしるこ」と書かれたのぼり。しちりんを使って、自分で焼いた餅を入れられるのが特徴で、10月からメニューに登場。主婦や学生など、女性客に人気だといいます。
この店は、関東の焼き鳥店チェーンの1店舗。もともとは、夜間のみ営業していました。しかし、感染拡大で営業時間の短縮が求められる中、売り上げを少しでも補おうと、昼間の営業を始めました。6月に、かき氷の販売を始めました。

夏場を乗り切ろうという苦肉の策でしたが、その後も感染が収束する見通しは立たず、夜の焼き鳥店の売り上げは、今も去年の7割程度。今後の感染状況によっては、再び売り上げが落ち込む懸念もあります。
“夜の営業だけに頼ってはいられない”という問題意識から、昼間に稼げるアイデアを模索した結果、秋から始めたのがお汁粉の販売でした。一方、夏を支えたかき氷は、サッパリ系のシロップからチョコレートに変えて、秋向けのスイーツを演出。“巣ごもり消費”を取り込もうと、加工食品のネット販売にも力を入れています。
齋藤さん
「夜の営業も重要な収益源だが、再び感染が急拡大していることを考えると、昼の営業やネット通販の重要性がますます増している」

決意の改装 “少人数・高単価”へ

東京 大田区にある日本料理店は、10月、大衆居酒屋だった店を全面的に改装して、再出発しました。売り上げが激減する中、改装に投じた費用は約800万円。国の「持続化給付金」や金融機関からの借り入れで工面しました。リスクを背負って投資に踏み切ったのは、宴会を控える“新たな日常”に適合しなければ生き残れないという強い危機感からです。
網藏さん
「正直に言えば怖いし、夜も眠れない。でも、このままでは店の存続は厳しい。くよくよせず、前向きに新しい形を目指した」
網藏さんが、毎日の売り上げを記録しているノートを見せてもらいました。緊急事態宣言の時期には「ひま」という文字が。みずからを奮い立たせようと、「コロナにまけない」という文字もありました。店の売り上げは、緊急事態宣言を受けて90%近く減少し、解除後も40%程度の減少が続いていました。
低価格のメニューを深夜まで販売する“薄利多売”では、“新たな日常”の時代を生きることは難しい。網藏さんは“少人数・高単価”の戦略に切り替え、日本料理店への転換を決断しました。
目指したのは、「高級感の演出」と「安心して滞在できる空間」。空調設備を増強し、座席の間隔を広げ、飛沫を防ぐパーティションを設置しました。
メニューは、居酒屋の時より50%ほど高い品ぞろえに。旬の高級食材をそろえ、むだが出ないように単品をやめてコース料理に絞りました。
営業時間は居酒屋の時より2時間短く、同時に入れる客の数も7人減らしましたが、今のところ、売り上げは去年と同じ水準に回復したといいます。感染の再拡大で、予約のキャンセルも出始めているということですが、店主の網藏さんは、この先もチャレンジを続けようと意気込みます。

新たな一歩を支える

感染症の存在を前提としたビジネスモデルを確立しようと、中小企業の経営者は力を振り絞っています。“新たな日常”に対応しようと、もがき続ける人たちをいかに支えていけるかが問われていると思います。
経済部記者
楠谷 遼
平成20年入局
鳥取局を経て経済部
現在は財務省・内閣府を
担当
経済部記者
峯田 知幸
平成21年入局
富山局、名古屋局を経て
経済部
現在は財務省主計局を
担当