「罪を償いたい」と1審無罪の88歳被告 逆転有罪判決 東京高裁

88歳の被告が車を運転して死亡事故を起こし、1審で無罪を言い渡されたにもかかわらず、2審で弁護士が主張を一変させて有罪を求めた異例の裁判で、東京高等裁判所は「家族から運転をやめるよう繰り返し注意されていて、運転をやめる義務があった」として、無罪を取り消し、禁錮3年の有罪判決を言い渡しました。

川端清勝被告(88)は、おととし1月、前橋市で自転車で登校途中の女子高校生2人を車ではねて、太田さくらさん(当時16)を死亡させ、もう1人にも大けがをさせたとして、過失運転致死傷の罪に問われました。

1審の前橋地方裁判所は「薬の副作用で血圧が下がったことが事故の原因の可能性が高く、予測できなかった」として、無罪を言い渡し、検察が控訴していました。

2審の裁判では被告の弁護士が「被告は高齢で、人生の最期を迎えるにあたり、罪を償いたいと考えている」などとして、無罪を取り消して有罪とするよう求める、極めて異例の主張をしていました。

25日の2審の判決で、東京高等裁判所の近藤宏子裁判長は、弁護士が有罪を求めたことについては、とくに触れず「被告は低血圧によるめまいの症状があることを自覚し、事故の数日前にも2日続けて物損事故を起こすなど、運転中に意識障害の状態に陥ることは予測できた」として、1審の判断に誤りがあると指摘しました。

そのうえで「家族から運転をやめるよう繰り返し注意されていて、被告は運転をやめる義務があった。身勝手な判断による過失で重大な事故を起こした」と指摘し、禁錮3年の実刑を言い渡しました。

遺族「悲しい事故なくなること 切に願います」

死亡した太田さくらさんの両親は、弁護士を通じてコメントを出しました。
「裁判所に正しい判断をしてもらえたことに安どしています。刑事裁判がこれで終わりになるかどうか分かりませんが、私たち家族はこれからもずっと、今回の事故と向き合い、さくらのいない人生を生きていかなければなりません。やり場のない悲しみや悔しさは終わることなく続いていきます。世の中から悲しい事故がなくなるよう、切に願います」としています。

元裁判官「背景に世間の目 裁判制度をゆがめることにも」

元刑事裁判官で法政大学法科大学院の水野智幸教授は、25日の判決について、「刑事裁判では、被告が『有罪でいいです』と言ったからといって、有罪になるわけではない。あくまでも一つの主張として聞き、それも踏まえて、証拠全体を検討する。高裁の結論としては、合理的な認定ではないか」と話しています。

また水野教授は、2審で弁護士が有罪を主張したことについて、「背景を考えると、高齢者による事故が多発し、社会問題となっているため、『なぜ高齢者に運転をさせたのか』と、被告本人やその家族に対して世間の目が厳しいという事情があったのではないか。被告や家族が謝る姿勢を見せなければ、かえって自分たちの生活が害されてしまうおそれがあると感じられた。これは大きな問題で、裁判制度をゆがめることにもなる。裁判は裁判で、被告がきちんと無罪や刑を軽くする主張ができるものでなければならない」と懸念を示しています。