見過ごされてきた女性たち ~求められるひきこもり支援~

見過ごされてきた女性たち ~求められるひきこもり支援~
“ひきこもり”というと日本では長い間、主に男性の問題と考えられてきました。男性の方が数として多いとみられるためですが、その考え方は徐々に変わりつつあります。社会との接点を持ちたいと思いながらどうしてもできず、孤独やつらさを感じているのに周囲からは理解されず精神的に追い詰められる女性。「こうあるべき」という価値観の押しつけに耐えられなくなったという人も。彼女たちはなぜ見過ごされ、孤立してしまったのでしょうか。(報道局ネットワーク報道部記者 秋元宏美/制作局第3ユニットディレクター 藤高リリ)

主婦 前田さんの場合

都内に住む専業主婦の前田智子(仮名・30代)さん。
大学を卒業し就職後、24歳の時に職場の先輩だった夫と結婚しました。もともと人づきあいが苦手だったという智子さん。結婚後も働いていましたが、労働条件の悪さや職場の人間関係に悩みうつ病になったのをきっかけに仕事をやめました。

幸いにも生活費は夫の稼ぎでまかなうことができ、その後体調も徐々に回復。生活に支障はないけれど、智子さんは今猛烈な孤独感と焦燥感にさいなまれています。
前田智子さん
「あれ?夫以外の人と話をしていないぞ、みたいな。気がついたときにはショックのせいか(その状態を)否定している自分がいました。夫と話せるんだからいいじゃないという捉え方もあると思いますが問題はそこじゃない。このままでは他の人と話せなくなると思うとそれがすごく怖いんです」
仕事を辞めたあとストレスの原因だった人間関係を避けるようになった智子さん。学生時代の友人から連絡が来ても返すことができず、関係は途切れました。他人の視線が怖くなり電車に乗るのも避けるように。

近所にも知り合いと呼べる人はおらず、気づけばこの3年ほどほぼ夫としか会話していませんでした。現状を変えたいと、ひきこもりなどを支援する団体の集まりに参加し、模索を続ける日々です。
智子さん
「(一番落ち込んでいる時は)外を歩いている人たちがうらやましかったですね。友だち関係がうまくいって、仕事もできて家事も出来て。子どもがいらっしゃる方は子育てをきちんとしていて。勝手な思い込みなんですけど、私みたいにしゃべる人が夫しかいないみたいな悩みを抱えている人はいないって…」

役割の中で見過ごされてきた

智子さんのような女性たちは本人が生きづらさを感じていても、これまではひきこもりと見なされていませんでした。

そもそもひきこもりは通学や通勤などの社会参加を避けて原則6か月以上、家庭にとどまり続ける状態とされ、国は社会生活を円滑に営む上で困難を抱えている場合は支援が必要だとしています。

家庭で「主婦」や「母親」などの役割があっても支援が必要なひきこもりの状態になることはあるはずですが、国は平成27年度に若い世代(15歳~39歳)を対象に行った調査で専業主婦や家事手伝い、それに育児中の人などを調査の対象から外していました。

対象となったのは平成30年度。ひきこもりの長期化が指摘されるようになり、中高年(40歳~64歳)を対象に、これまでよりも範囲を広げて調査しました。
するとひきこもりの定義に当てはまる人のうち専業主婦(夫)が約13%、家事手伝いが約6%存在することが初めてわかったのです。

中高年のひきこもりは推計で61万人。その2割近くを占める計算です。しかしこれはごく一部かもしれません。

若い世代の調査はその後、行われていないため把握できないまま。役割の陰で見過ごされている女性のひきこもりはもっと多い可能性があるのです。

“こうあるべき”に苦しむ女性たち

ようやく実態の把握が進み始めた女性のひきこもり。取材を進めると女性ならではの原因があることが分かってきました。
宮崎県内に住む立花美穂さん(30代・仮名)。
高校生の頃から断続的にひきこもりの状態が続いています。

学生時代から女性のグループが苦痛だったという美穂さん。女子トークで共感できずに浮いてしまったりメークや流行の話題についていけなかったり。高校2年生の頃には不登校になっていました。
立花美穂さん
「いじめられていたわけではないんですけど、気がつくと休み時間はいつも1人になっていました。クラスの中で孤立してしまって傷つきたくなくて1人になろうっていう風にひきこもってしまった感じです」
その後、大学に進学し一時的にひきこもりが解消しましたが就職活動で再び壁にぶつかります。
苦手なメークをして身なりを整え、会社説明会や面接会場へ。一生懸命“女性らしく”したのに「メークが似合っていない」などと心ないことばを浴びせられました。

内定を取り消され自分のすべてを否定されたような気持ちになったことをきっかけに再びひきこもるように。

その後もアルバイトや就職活動をしてみましたが、価値観の押しつけに直面しては転職とひきこもりを繰り返しています。
美穂さん
「女性は補佐的な仕事だけしてくれればいいとか、会議の前に率先してセッティングをしなければいけないとか。自分がおかしいのか世の中がおかしいのか分からなくなって葛藤していました。いつもここで最後にするんだという思いで働きだすんですけどやっぱりしんどいとなって辞めてしまう。甘えでしょって思う人もいると思うんですけど、自分が苦手な状況におかれてなにくそって頑張れる人もいるけどくじけてしまう人もいる。くじける要因って誰にでもあると思うんです」

“居場所”が一歩踏み出すきっかけに

ひきこもり状態にある女性たちが生きづらさや苦しみを和らげるためにはどうすればいいのか。
1人の女性がそのヒントとなる体験を話してくれました。
都内に住むすみれさん(30代)。
美術系の大学に進学後、環境の変化などストレスから徐々に外に出られなくなり、断続的に5年間、ひきこもりの状態を経験しました。

一番つらい時は1日中、部屋に閉じこもり自分を責めて泣いていたこともあったというすみれさん。

その状況から抜け出すきっかけはネットでひきこもりの当事者が集まる「女子会」の存在を知ったことでした。会を運営する団体の代表の女性もかつてひきこもりの経験者だと書かれてあったのです。
すみれさん
「そういう集まりって暗くて少人数で…とか勝手なイメージがあってひかれなかったんですけど、代表の女性と自分が重なるところがあって。ああ私も中退したなとかつらかったんだなあとかすごく気持ちが重なっていつか会ってみたいと」
このときすみれさんが見たサイトが「ひきこもりUX会議」。運営のコアメンバーの多くがひきこもりや生きづらさを経験してきた人たちで、これまでにのべ100回以上、女性だけの当事者会を開催しています。

この会に初めて参加した時同い年の女性と意気投合したことですみれさんは一気に変わりました。
すみれさん
「久しぶりの渋谷でガッチガチに緊張してたんですけど。その子とはすごい波長が合うというか、最初から友達のように話せて。わかる、私もそうだった、しんどかったよねって。連絡先交換して、プライベートでも会うようになりました。ずっと友達がいない状態だったのでこんなに楽しくしゃべれたっていうのがうれしくて。外に出るきっかけになりました」
すみれさんは今、自分で当事者会を作りたいと活動を始めています。「ひきこもりUX会議」の勉強会に参加し、そのノウハウを学んでいます。
すみれさん
「人との関わりを徐々に私が取り戻せたように、同じような経験ができればちょっと違うのかなって。なにか一歩を踏み出してもらえたら」

安心できる居場所を広げて

これまで見過ごされてきた女性のひきこもり。長年取材してきたジャーナリストの池上正樹さんは、女性向けの支援策が必要だと指摘します。
池上正樹さん
「女性の場合、ひきこもりの状態で生きづらさや苦しみを抱えていても専業主婦や家事手伝いという役割によって外から問題が見えづらくなることがある。『自分なんかが相談に行っていいのか』『他人に迷惑をかけられない』などと考え支援につながらない女性は多い。女性の当事者会など地域にも安心できる居場所を広げていく必要がある」

つらい経験を語ってくれた女性たち

今回、何人もの女性が同じように苦しんでいる人の役に立ちたいという思いからつらい経験を語ってくれました。

こうあるべきという周囲からの価値観の押しつけに苦しんだ美穂さんの話は、女性に限らず誰もが経験をしたことがあるのではないでしょうか。考え方は違っても多様な価値観や生き方を尊重し認め合える社会を作っていくにはどうすればいいのか、考え続けたいと思います。
報道局ネットワーク報道部記者
秋元宏美
平成22年入局
奈良放送局、大阪放送局を経て現所属
制作局第3ユニットディレクター
藤高リリ
平成28年入局
福岡局を経て現所属