撤廃か?存続か?対立する銀行と証券の“壁”

撤廃か?存続か?対立する銀行と証券の“壁”
銀行と証券会社を隔てる、ある“壁”をめぐる議論が活発になっている。この“壁”は「ファイアーウォール規制」と呼ばれ、同じグループの銀行と証券会社による顧客情報の共有を制限するものだ。この“壁”を撤廃すべきか、それとも残すべきか。銀行業界と証券会社の主張は対立し、着地点はまだ見えない。日本の金融業界に変化をもたらすかもしれない、“壁”をめぐる議論の行方を探った。
(経済部記者 白石明大)

「ファイアーウォール規制」なぜ設けているのか

そもそも、なぜ同じグループの銀行と証券会社による顧客情報の共有を制限し、“壁”を設けているのだろうか。

具体的にイメージしていただくために、“壁”を撤廃した場合に懸念されるケースを紹介する。
<ケース1>
ある銀行が、取り引きのある顧客企業の業績が悪化しつつあることを、子会社の証券会社に伝え、証券会社はその企業の株式を売却。その結果、企業の株価が下がってしまった。

<ケース2>
遺産相続でまとまったお金が銀行の預金口座に入った。その情報が、銀行と同じグループの証券会社に伝わり、証券会社から株や投資信託の購入を熱心に勧められた。
いずれも仮定の話ではあるが、実際に、証券会社の役員らが、親会社の銀行が増資するという情報を公表前に投資家に伝え、株を買うよう営業活動を行っていたとして、金融庁から行政処分が下されたケースもある。

このように、資金のやり取りを把握できる立場の銀行グループが、その優越的な立場を乱用して営業を行うことなどを防ぐために、法律で顧客の同意がない情報の共有が禁止されているのだ。

半沢直樹のドラマにも

「半沢直樹」のドラマにも、この銀行と証券の“壁”が取り上げられた。

ドラマでは、銀行とその子会社の証券会社が、大手IT企業による企業買収の案件をめぐり、方針が対立。証券会社に持ち込まれたはずの企業の買収案件が、顧客の同意なく同じ親会社の銀行に漏れ、銀行側がこの買収案件を横取りするという場面だ。

“壁”存廃の議論 政府の成長戦略に

こうしたさまざまな懸念もあって、国内では、顧客情報をめぐる銀行と証券をめぐる“壁”は存在し続けてきた。

しかし、今、この“壁”を撤廃するかどうかの議論が、にわかに熱を帯びている。

潮目が変わったのは、ことし7月に閣議決定された政府の成長戦略に、“壁”を撤廃するかどうか検討することが盛り込まれたからだ。
しかし、“壁”を撤廃すべきだとする銀行業界と、銀行の強い立場の乱用を防ぐために“壁”を維持すべきだという証券会社との間で、激しく意見が対立。着地点は見えないままとなっている。

”撤廃”を訴える銀行業界

ではなぜ銀行業界は、“壁”の撤廃を求めているのか。

それは、銀行と証券が一体で金融サービスを提供すれば、「顧客の利益につながる」としているからだ。

メガバンクや地方銀行などが加盟する全国銀行協会の三毛兼承会長は、記者会見で、銀証の“壁”の撤廃を求める理由について次のように話した。
三毛会長
「ファイアーウォール規制によって、お客様が銀証一体の総合的な金融サービスを受けることを困難なものにしている。例えば顕在化していない顧客のニーズに対して、銀行と証券が一体となったM&Aなどの提案など、さまざまな場面で障害が生じている」
銀行と証券会社が情報を共有できるようになれば、顧客に対してさまざまな資金調達の方法なども提案できるようになり、顧客のためにもなる、というわけだ。

”存続”を訴える証券業界

一方、同じグループに銀行のない証券会社は、“壁”の存続が必要だという立場だ。

証券業界最大手、野村証券の飯山俊康副社長は「顧客情報の共有について、顧客みずからが反対を求める権利を残すことは必要だ」と主張する。
飯山副社長
「自分の知らないところで情報が共有されることの懸念や、共有に対する顧客の権利を撤廃するというのは、顧客を置き去りにしていないか。個人情報の保護を強化する動きが広がる中、銀行の融資や取り引きといった非公開情報を共有可能に緩めるべきではない」
ただ、証券業界も決して一枚岩ではない。銀行系の証券会社はもちろん、外資系証券会社なども、外国から見た日本市場の参入の敷居の高さの1つに、このファイアーウォールの規制をあげ、“壁”の撤廃に賛成している。

見えない着地点

銀行と証券を隔てる“壁”を撤廃すべきか、それとも存続させるべきか。この議論は金融庁の市場制度ワーキンググループを舞台に行われ、年内にも報告書が取りまとめられる予定だ。

ただ金融庁の幹部は、議論の行方について、こう話す。
金融庁幹部
「銀行と証券双方が真っ向から対立しているうえに、論点も多岐にわたる。どのような規制の在り方がよいのか。双方が納得するような結論を出すには時間がかかる」
1993年の銀行と証券の相互参入解禁から、顧客の情報共有という最後のとりでを議論する段階に入った、銀行と証券の“壁”。

撤廃するにせよ、存続するにせよ、どちらが本当の意味で顧客のためになるのか。これが成長戦略よりも何より重要な視点であることは言うまでもない。
経済部記者
白石 明大
平成27年入局
松江局、鉄鋼や化学業界担当を経て、ことし9月から金融庁や地方銀行を取材