コロナ危機 あるファミレスの店長が見つめた景色は

コロナ危機 あるファミレスの店長が見つめた景色は
39歳、男性。ファミリーレストランの店長を任され、毎日忙しいながらも充実した日々を過ごしてきた。でも、ある日突然、レストランのエプロンを外して、深夜の設備点検係をすることに…。ある外食企業が打ち出した異例の人事異動。コロナ禍で業績が急激に悪化する中、雇用を守るための配置転換だといいます。ことし、外出自粛や緊急事態宣言が直撃した外食の現場で今、何が起きているのでしょうか。
(経済部記者 保井美聡)

店長から、点検係へ

仙台市の森祐介さん、39歳。宮城県内にあるファミリーレストランで、10月まで店長をしていました。

森さんは大学生の時にアルバイトとしてこの会社で働き始め、接客の仕事に魅力を感じ、その後、正社員に。これまで実に20年間、レストランの仕事一筋に情熱を傾けてきました。
森さん
「お客様とのちょっとした日常会話とか、『料理がおいしかったよ』とか感謝のことばとかをもらって、もっと頑張ろうという気持ちでやっていました」
そんな森さんが突然の配置転換に。レストランの店長から、深夜の設備点検の仕事にまわったのです。
新しい職場は、営業を終えた深夜のレストラン。同じように配置転換になった元・店長と2人1組で作業をします。

360度カメラで天井裏の様子を撮影し、配管や配線に異常がないかを確認したあと、異常があれば専門の担当者に連絡し、修繕につなげます。

毎日2店舗ほど点検し、店の開店前に帰路につく森さん。慣れない作業着や器具に戸惑いながらも、深夜の作業を続けています。

“安全予防点検チーム”

この配置転換を行ったのが「すかいらーくホールディングス」です。
新型コロナウイルスの影響による売り上げの低迷で、今年度の業績予想は150億円の最終赤字を見込んでいます。業績の悪化から、既存の店舗200店を閉店する方針を決めました。

店舗の閉鎖に伴って仕事を失う正社員の雇用をどう守るのか。すかいらーくは、レストラン本業以外の業務に正社員を配置転換する、思い切った方策を打ち出したのです。

11月初め、森さんを含む社員68人の辞令交付式が東京 武蔵野市の本社で開かれました。
集まったのはいずれも店長や副店長だった人たち。セントラルキッチンでの調理や、食材を店舗に運ぶトラックのドライバーなどに配置転換されました。

そして、森さんを含む16人が配属されたのが、新たに設立された“安全予防点検チーム”です。

すかいらーくグループは創業から50年がたち、「ジョナサン」や「バーミヤン」などの店舗が老朽化してきたことに加え、ここ数年のたび重なる台風や大雨で傷んだ設備はないかなど、全国のおよそ2000店の点検を担います。
すかいらーくは経営の効率化のため、当初から仕入れや製造、物流などを自社で完結させる「内製化」を進めてきました。この仕組みを生かして、店舗閉鎖に伴う希望退職や解雇を行わず、雇用を守ろうとしているのです。

そのねらいについて、人事を担当する西田浩蔵執行役員はこう話します。
西田執行役員
「新型コロナウイルスの感染拡大が収束し、外食の需要が回復した際には、いずれまた人手不足の問題が起きます。新しい成長戦略を進めるうえで、レストランビジネスのノウハウを熟知した人材を確保しておくことは非常に重要なことです」
つまり、外食に通じた人材を一度手放してしまうと、いざ人手不足の局面が訪れた時に大変になるため、今は必死に雇用を守ろうとしているというのです。

もう一度、客の前に立つ日まで

コロナ禍に見舞われたことし。外食業界では、厳しいニュースが相次いでいます。

「ロイヤルホスト」や「天丼てんや」などを展開するロイヤルホールディングスは10月、200人の希望退職を募集すると発表しました。70店舗の閉店も決めています。

牛丼チェーンの吉野家ホールディングスも最大150店舗の閉店を発表。

大分に本社があるファミリーレストランのジョイフルも6月、200店舗を閉店する計画を明らかにしました。

新型コロナが外食業界の経営と、一部では人々の雇用も脅かしています。
正社員を配置転換して雇用を守ろうとしている、すかいらーくホールディングスでも、閉店する店舗のアルバイトには近くの別の店舗を紹介するなどしていますが、閉店とともに辞めていく人もいます。

すかいらーくのグループ会社に20年勤め、店長から点検係に転身した森さん。取材の終わりに、改めて今の思いを聞いてみました。
森さん
「やはりレストランビジネスとは畑違いの仕事です。それでも、いつか店舗に戻れた時は、今の点検の経験を生かして、より安全で安心な店舗づくりをしたい」
店長の頃は、アルバイトなどの従業員20~30人と働き、和気あいあいとした雰囲気だったという森さん。再び店舗に戻れる日が来るまで、縁の下の力持ちとして働くことに、今は前向きに取り組んでいます。

先の見えないコロナ危機で、企業の経営や働く人の雇用がどうなっていくのか。その現実を引き続き取材していきます。
経済部記者
保井 美聡
平成26年入局
仙台局、長崎局を経て、流通や飲食業界などを担当