駅の“無人化”全国で広がる 利用者多い首都圏でも

一日中、駅員がいない「無人駅」は、全国の駅の半数近い4500駅余りにのぼっていて、利用者の多い首都圏でも時間帯によって窓口に駅員のいない駅が増えてきています。
人口減少に加え、新型コロナウイルスの影響で鉄道会社の業績が悪化する中、駅の“無人化”は全国でさらに進む可能性があります。

国土交通省によりますと、一日中、駅員がいない「無人駅」はことし3月末の時点で、全国に9465ある鉄道の駅のうち、48.2%にあたる4564駅にのぼります。

18年前の平成14年3月末と比べると、駅の数は全体で49駅減った一方、「無人駅」は逆に444駅増えました。

「無人駅」の割合を都道府県ごとにみますと、最も高いのが
▼高知県で93.5%、
続いて▼徳島県で81.6%、
▼長崎県で79.6%、
▼山口県で77.6%などとなっていて、
70%以上が合わせて14の県にのぼります。

また、低い順にみますと、
▼路線がモノレールのみの沖縄県で0%となっているほかは、
▼埼玉県で3%、
▼東京都で9.9%、
▼神奈川県と大阪府で16%などと、
首都圏や関西といった人口の多い地域で低くなっています。

首都圏で増える 時間帯で“無人化” 背景は

人口の多い地域でも“無人化”が進んでいます。
首都圏では、時間帯によって窓口に駅員のいない駅が増えています。

JR東日本では時間帯によって窓口に駅員のいない駅を年々、増やしていて、現在では関東地方の1都6県と山梨のおよそ140の駅で、早朝や日中の利用者が少ない時間帯の窓口業務をインターホンを通じて別の場所から遠隔で対応しています。

国立競技場にも近い信濃町駅や千駄ケ谷駅など都心にある駅も含まれ、東京駅からおおむね30キロの範囲で少なくとも24駅あるということです。

対象となっているのは、その駅に慣れた定期の利用者が多く、トラブル対応が少ない駅などだということです。

こうした駅の1つ、さいたま市にある与野本町駅では、去年3月から
▼始発から午前6時半、
▼午前9時半から午前11時、
▼正午から午後1時、
▼午後2時から5時までの合わせて7時間で、
駅員による窓口の対応を行っていません。

常駐する駅員を2人から1人に減らしたため、別の業務や休憩の時間を確保する必要があるということです。

非常停止ボタンが押されるなどの安全にかかわる事態が起きた時や、車いすの介助が必要になった場合などは、休憩時間中だとしても駅員が対応するということです。

背景にあるのは人口減少に伴って将来的に鉄道の利用者が減ると見込まれていることで、JR東日本の氏森毅営業部次長は、「少子高齢化が進む中、将来的には利用者の方だけでなく社員の確保も困難になるとみられる。効率化を行って原資を確保し、設備のメンテナンスなどにあてていく必要があると考えている」と話しています。

“無人化”で安全に懸念も 議論始まる

駅の“無人化”が進む中で、安全の確保や利便性に支障が出るとの声も上がっています。

その中でも車いすを使う人や目や耳に障害のある人などが乗り降りの際の介助を受けづらくなったといった声が各地で相次いでいて、大分県ではことし9月、車いすで生活する男女3人が「駅の無人化は移動の自由を侵害する」などとしてJR九州に対して裁判を起こしました。

原告の1人で大分市に住む五反田法行さんは「無人駅だと万が一、ホームから転落しても誰がすぐに助けてくれるのかわからない。今回は裁判という形になってしまったが、可能なかぎり互いが話し合っていける場をつくっていきたい」と話しています。

一方、JR九州は無人駅にカメラを設置して異変を発見できる監視システムの導入を進めていて、安全性は従来よりも高まるとして理解を求めています。

こうした中、国土交通省は今月、鉄道各社と障害者の団体が参加する検討会を立ち上げました。

具体的な対策を議論し、来年夏ごろに鉄道会社向けのガイドラインをまとめる予定です。

専門家 コロナ禍で無人化さらに進む可能性

交通経済学が専門の関西大学の宇都宮浄人教授は「新型コロナウイルスの影響で大都市圏の収益が上がらないところを今後、どうしていくかが大きな問題だ。経営の効率化が避けられない状況では駅員やサービスを減らす方向にいかざるをえない」と話し、コロナ禍で駅の無人化がさらに進む可能性があると指摘しています。

そのうえで「駅のあり方について改めて考え直す機会なのかもしれない。駅は地域において誰もが集える場なのでうまく生かしていくためにも安全の確保や利便性などの課題は地域全体で考えることが必要だ」と話しています。