コロナ影響で機械メーカー新分野に 川崎重工は手術支援ロボ

新型コロナウイルスの影響で航空機などの需要が低迷していることを受けて、大手機械メーカー各社は新たな分野の開拓に乗り出しています。このうち川崎重工業は、精密なロボットの分野に力を入れていて、18日は医療用検査機器メーカーと共同で開発した手術支援ロボット「hinotori」を公開しました。

このロボットは、メスなどの手術用器具や内視鏡カメラがついた4本のアームを備えていて、人の手先のようになめらかに動くことが特徴です。

手術台から離れたところにいる医師が操作することができ、18日は人の体に見立てた模型を使って、2本のアームが切開した臓器の傷口を器用に糸で縫い合わせていきました。

産業用ロボットで培った技術が活用されていて、厚生労働省によりますと日本のメーカーが手術支援のロボットで国から製造販売の承認を得たのは初めてだということです。

川崎重工業は、新型コロナウイルスの影響を受け稼ぎ頭だった航空機部品などの部門が振るわず今年度の中間決算で最終赤字に陥っていて、こうした精密ロボットの分野を強化することで収益改善を目指すとしています。

川崎重工業の橋本康彦社長は「ロボットの分野は会社の中でいちばん成長が見込める分野だ。ほかの事業でも活用して競争力を高めたい」と話していました。

大手機械メーカー軒並み赤字に

社名につく「重工業」が示すように、日本の大手機械メーカー各社は航空機の主翼や胴体、鉄道の車両、造船や発電所の設備など、“大きなものづくり”を主力としてきました。

ここ数年は世界的な航空機の需要の高まりもあり、各社とも航空機の部品やエンジンの製造に力を入れ、この航空に宇宙などを加えた部門の売り上げは、ことし3月期の決算では20%近くから30%余りを占めていました。

ところが、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに状況が一変します。

世界中で人の移動が制限されて航空機の需要が大幅に落ち込み、各社の業績はたちまち厳しくなりました。

今年度の中間決算は三菱重工業が570億円の最終赤字、川崎重工業が272億円の最終赤字、IHIが95億円の最終赤字と、いずれも赤字に陥っています。

IHI 三菱重工も異分野に

主力の航空機部門の先行きが見通せない中、各社ともこれまでの主力とは大きく異なる分野に活路を見いだそうとしています。

IHIが、航空機部門と同じ規模にまで成長させたい分野としているのが「カーボンソリューション」、脱炭素や二酸化炭素の排出を抑えるシステムの開発です。

燃やしても二酸化炭素が出ないアンモニアに注目していて、天然ガスと混ぜて火力発電の燃料にすれば、二酸化炭素の排出量を大きく減らすことができるとして、新たな発電プラントの開発に乗り出しています。

一方、三菱重工業が新分野として注目している事業の一つが、コールドチェーンと呼ばれる低温状態を維持した物流のシステムをつくる事業です。

食品のほか、ワクチンの品質を維持する医薬品の低温管理でも需要が高まっています。

AI=人工知能などを活用したきめの細かい温度管理やより効率的にモノを運ぶ物流システムをつくり、国内外で展開したいとしています。

専門家「これからは需要側の動向を捉えたビジネスを」

機械メーカーの動向に詳しい大和証券エクイティ調査部の田井宏介チーフアナリストは「航空機の需要がコロナ前に戻るのには5、6年かかると思う。こうした中で各社ともスピード感をもって変わり始めている」としています。

そのうえで「日本の高度経済成長を支えてきた歴史があるだけに『こんなにすごいものができたのでこれは売れるはずだ』という形でビジネスを展開する側面が強かった。これからは、こういう世の中になるはずだ、こういうニーズがあるはずだという需要側の動向を捉えたビジネスをできるかが試されている」と指摘しています。