福袋から撤退する“勝算”とは 窮地に立つアパレルの今

福袋から撤退する“勝算”とは 窮地に立つアパレルの今
アパレル業界が窮地に立たされている。ファストファッションの台頭で業界の構造が変化してきたことに加えて、新型コロナウイルスが追い打ちをかけているからだ。長年、デパートでの販売に主眼を置き、大量生産で売り上げを確保してきたアパレルメーカーは、今、こうした販売手法からの脱却を迫られている。コロナ禍をアパレル業界は乗り切れるのか、各社の取り組みを追った。(経済部記者 茂木里美)

なぜ大量在庫が生まれるのか

日本のファッション業界をリードしてきたアパレルメーカーの問題点として指摘されているのが、アパレルとデパートとの関係に基づく「大量生産・大量在庫」のビジネスモデルだ。
デパートに出店するアパレルは、常に棚を商品で満たすことを求められる。機会ロス(消費者の欲しい商品が売り切れになって販売機会を逃すこと)を減らし、売り上げ目標を達成するためだ。それは、売り場がガラガラに見えないようにするという「見栄え」の問題でもあった。

そのために大量に生産し、残った在庫はセールやアウトレットで売り切ることを目指し、それでも残った商品は焼却処分に回すことが常態化していた。

バブル経済の崩壊以降の景気後退と低成長に加えて、ユニクロなど低価格なファストファッションの台頭で、若い世代を中心にブランド離れが加速。それでも、大量生産・大量在庫の慣習は続いてきたが、大きく追い打ちをかけたのが、新型コロナの感染拡大だ。
緊急事態宣言以後、デパートの休業や時短営業が響いて、アパレル各社は売り上げが大きく減少。11月にかけて相次いで発表されたアパレル各社の決算は軒並み赤字だった。

数百店規模にのぼる店舗閉鎖を発表するなど、リストラに追われた企業も少なくない。

焼却処分ゼロを達成したアパレル

しかし、こうした中でも業績を維持している企業もある。

20代から30代をターゲットにした「グローバルワーク」や「ローリーズファーム」などのブランドを展開するアダストリアだ。
コロナ禍にあった、ことし6月から8月までの第2四半期の決算でも営業黒字を確保。赤字ばかりのアパレル業界では、優等生と言えるだろう。

その要因の1つが幅広い販路だ。

1953年創業のアダストリアは、販路をデパートに絞らず、ブランドのターゲットである若い年齢層が買い求めやすいよう、ショッピングセンターへの出店やEC=ネット通販を広げてきた。

そしてこの会社が強みにしているのが、徹底した在庫管理だ。

自社のECサイトでの予約状況から人気の高い商品を分析して発注量を決定。店舗に商品を納入したあとも日々の売り上げをチェックし、売れている商品は発注を増やし、売れていないものは躊躇なく追加の発注を止める。

この柔軟な対応で余剰在庫を極力削ることで、新型コロナによる売り上げ減少の傷も最小限に抑えられたという。
福田泰己取締役
「在庫管理はアダストリアのもともとの強みではあったが、それでもコロナでは非常に厳しい状況になり、第1四半期は在庫を多く抱えた。しかし第2四半期では、予約状況を見ながら仕入れをコントロールすることで、大量の余剰在庫を抱えることなく、利益を確保できた」
さらに、去年からは正月の“福袋”もやめてしまった。

以前は、集客のために、ショッピングセンター側から求められるままに福袋商戦に参加してきた。
しかし、売れるかどうか分からなくても大量に商品を準備する必要があり、そうしたむだを切り捨てた形だ。
こうした努力もあって、去年は焼却処分にまわす在庫をほぼゼロにすることができた。福袋商戦からの撤退は業界で異端視されたが、その決断は間違っていなかったと福田取締役は話す。
福田取締役
「セールや福袋で価格を下げて売ると、消費者にとって定価とは一体なんなのか分からなくなる。可能な限りもともとの価格で売って、不平等がないようにする。定価で売る方が会社にとっての利益も大きく、会社の業績にとっても最善だ」
そして今、新たな利益の源泉となっているのがECだ。
新型コロナによる店舗の休業で売り場に立てなくなったスタッフが、SNSを使って自宅などから商品を説明する動画を投稿。これが人気となり、ことし3月から8月までの上期のECの売り上げは、前年同期比で25%程度増えたという。

会社ではこの経験を踏まえて今後もECを強化していくほか、1000万人にのぼるECの会員基盤を活用した需要分析を通じて、さらに適正な在庫の維持に努める方針だ。

大手アパレルもEC活用で在庫削減へ

一方、大手のアパレルの間でも「大量生産・大量在庫」のビジネスモデルから脱しようという動きがある。

三陽商会もその1つだ。
売り上げの6割近くをデパートでの販売が占めている三陽商会は、コロナで打撃を受けた業績改善のために不採算店舗など160店舗の閉店やブランド集約を決めたが、それとともに進めているのが新たな販売方法の確立だ。
三陽商会が10月から大丸東京店に実験的に開設したのが、試着専用の売り場だ。

ここには、客に販売するために通常は大量に保管しておくはずの在庫は置いていない。客は陳列されている服を試着し、気に入って購入すると、後日、倉庫から直接商品が自宅などへ配送される。
場合によっては、ECサイトで気になった服をここで試着し、帰宅してからECサイトで改めて注文することもできる。

この仕組みなら、在庫を置かずに済むだけでなく、毎週1~2回ある納品や在庫管理の手間もなくなる。店舗スタッフは接客に注力できるし、人件費も抑えられるという。

三陽商会は、この店舗の売り上げを検証し、今後、さらに拡大できるかどうか検討している。

実店舗はECへつなぐ役割に

さらに、オンワードホールディングスも、今年度中に同様の店舗を導入する方針だ。

「23区」や「組曲」といった人気ブランドを展開するオンワードだが、これまでは、ブランドごとに店を構えてきた。しかし、新たに設置する店は、複数のブランドを同時に扱うのが特徴だ。

ここは、ECサイトで掲載している服を「実際に試着してもらうための場」という位置づけでもあり、さまざまなブランドの服を試してもらうことで、ECでの購買につなげる戦略だ。

店舗名は「オンワード・クローゼット」と、ECサイトと同じ名前にする方針で、ECと実店舗の垣根をなくした新しい試みの店舗としている。
10月に行われた記者会見で、保元道宣社長は、新しい店舗について意気込みを語った。
保元道宣社長
「ECサイトにリアルの店舗を通じてアクセスできる新しい形の出店を強化していく。今期中には数店舗を出店し、その後、全国に数十店舗を出店していきたい。ブランドを横断的にアクセスできるストアを確立し、これを今後の国内事業の反転攻勢の起爆剤にしていきたい」

“当たり前の改革を”

コロナで消費が落ち込むなか、アパレル業界は店舗だけに頼らず、多様な販売ルートの開拓が求められている。業界を長年苦しめてきた大量生産からどう脱却していくのか。

コロナ後の成長を見すえれば、店舗閉店や人員削減といったリストラ策だけでなく、適正な量を供給し、適正価格で消費者に届けるという、いわば当たり前の改革が求められているのではないだろうか。
経済部記者
茂木里美
フリーペーパーの編集者を経てNHKに入局
さいたま局、盛岡局を経て平成29年から経済部