質問しづらくないですか?

質問しづらくないですか?
今や当たり前になりつつある“オンライン”の会議や授業。

「何か質問ありませんか?」
「意見ある人はいる?」

画面越しのこの呼びかけにどうしても戸惑いを覚えます。
「気になることはあるけれど、今、ここで自分が言うほどでも…」

みなさんは気軽に質問できていますか?

(ネットワーク報道部記者・杉本宙矢、吉永なつみ、馬渕安代、SNSリサーチ・三輪衣見子)

授業中は「しーん…」 ところが

最近、こんな投稿がSNSで話題になりました。

大学で行われているオンライン授業についての投稿です。
「授業中に質問は?とたずねても反応がないのに、あとから個別にメールやDMで学生から質問が来る。質問するのは悪いこと、恥ずかしいことという価値観がどこかで埋め込まれている気がする」
投稿したのは、立命館大学生命科学部の木村修平准教授。

ICT=情報通信技術を活用した英語教育が専門です。
大学で教べんをとり10年。

以前から学生が授業中に質問することは少ないと感じていましたが、すべての授業がオンラインに移行したこの春からはその傾向が顕著になっているといいます。
学生が授業に興味がないかというとそうではないようです。
なぜかというと全員が見ているオンライン上では質問・発言はないものの、学生からの質問がメールなどを使って個別に次々と来るからです。

木村准教授の投稿に対して教員と思われる人からは「実名だと下手な質問ができないと言われた」「オンラインでチャットをオープンにしているが、みんなが見ている場所での質問はほとんどない」といったコメントが寄せられました。

学生側からもこんな反応が。
「質問そのものではなく、みんなが見ている場所で1対1のコミュニケーションをするハードルが高い」

「生徒側の気持ちが分かる。自分が質問することで他の人の質問する機会や時間を奪うのは気が引ける」

『無質問』 以前から議論に

学生が授業中に質問を「しない」「しづらい」ということは以前から議論になっていたようです。

取材の中で見つけたのは「授業中における学生の無質問の理由に関する研究」というおよそ20年前に発表された論文でした。執筆したのは、現在、広島修道大学で学校臨床心理学を研究する河本肇教授です。

河本教授は当時、授業で質問しない理由について、大学生や専門学校生、計177人を対象に調査を行い以下の4つのポイントが『無質問』の要因となっていると分析しました。
『無質問』の要因

1「他者の存在」
2「友人」
3「学習動機の低さ」
4「授業スタイル」
この中で、特に強かったのが1の「他者の存在」で、具体的には「恥ずかしい」や「目立ちたくない」などといった他人からどう思われているのかを気にする傾向です。

調査にあわせて小学校と中学校の教員を対象に、授業中の児童・生徒からの質問の量を調べたところ、小学校1年生がもっとも多く質問していて学年が高くなるほど少なくなる傾向にあることが分かりました。

河本教授は、学生の『無質問』は様々な要因が絡み合って生じているとしつつ、次のように話してくれました。
広島修道大学 河本肇教授
「学校の中で目立たず、みんなと同じように見せることが自分を傷つけないための“術”であり、そのことが無質問という形であらわれていると思います。『無質問』は大学生の問題というより、学校教育全体の問題で、そのことは20年前も今も、大きく変わっていません」

“オンライン”でさらに…

思った以上に根深そうな質問をめぐる議論。

さらに、コロナ禍の“オンライン”が質問するという行為のハードルをより高くしていると指摘するのは、津田塾大学の栗原一貴教授です。

コミュニケーションが苦手な人たちの「消極性」について研究しています。

(ちなみに栗原教授は、2012年にあの「イグ・ノーベル賞」を受賞。おしゃべりがうるさい人を黙らせようという装置の開発者です。)
津田塾大学 栗原一貴教授
「対面であれば、人の目の動きや表情とか呼吸みたいなものをうまく読んで、今ここで自分が質問するということを、ボクサーが間合いをとりながらパンチするような感じでやっていると思いますが、“オンライン”は、そういうスキルが使えないので、より難しい駆け引きが必要になります」
また、2人以上の音声が重なると聞きづらくなるオンラインの特性もハードルを上げる原因になっていると指摘しています。
津田塾大学 栗原一貴教授
「コミュニケーションの伝達手段を皆で共有している中で、自分の発言は資源を占有しても許されるほどのものなのか。すごく張り詰めた空気を読んで、発言しないといけなくなっています」

可視化で“空気”変わった

一方で、画面を共有している“オンライン”で、あるものを活用して質問しづらい“空気”が一変したというケースも見つけました。
東京大学の稲見昌彦教授はオンラインの授業が「まるで留守番電話に向かって話すようだった」と感じていた時、あるアプリケーションを取り入れると、学生からの反応が手に取るように分かるようになったといいます。

稲見教授が導入したのは「CommentScreen」というアプリケーションです。
参加者がコメントや反応を投稿すると文字が右から左に流れるように表示される動画配信サービスなどでよく見られる仕組みです。

そのときに感じた感情なども絵文字で示せるので、リアルタイムで参加者どうしの意見を共有できるのがポイントです。
東京大学 稲見昌彦教授
「講義中にすぐにリアクションが返ってくるので、画面の向こうに学生たちの存在が感じられました。授業を終えたときには、教員と学生の間に不思議な一体感があり、教える側にとってもモチベーションがあがりました」

開発者をたどると…

授業の“空気”を一変させたこのアプリケーション。

オンライン会議などの需要を見込んでどこかのIT企業が作ったのか?と思いながら開発者に問い合わせるとその相手は23歳の大学院生でした。
「最初は自分のためにつくりました」

筑波大学で情報工学を学ぶ冨平準喜さんがこの仕組みを思いついたのは大学4年生の時、専門性の高い講義の最中、理解が追いつかないところがあっても講義をさえぎってまで質問することをためらっていた経験を基に動画投稿サイトやSNSなどから着想を得ておよそ半年かけて開発しました。
冨平準喜さん
「自分と同じ気持ちの人が手を挙げなくてもメッセージを送るだけで質問できる形にしたかったです。授業が楽しくなったという声をもらっているので、ぜひ活用してほしいと思います」

どうすれば“オンライン”活発に?

とはいえ、“オンライン”で質問できないのはその人の問題だと考える人も多いと思うのですが…。

そんな話しをすると、パソコンの画面越しにオンラインでインタビューをしていた「イグ・ノーベル賞」受賞者、栗原教授は「自分も試行錯誤しているのですが…」と断ったうえで、“オンライン”が活発になる方法を提案してくれました。

その1つが、『コミュニケーション支援技術を取り入れる』。

今回、紹介した大学院生が制作したアプリケーションのように、コミュニケーションを支援する技術を積極的に活用すべきだといいます。
栗原教授もオンライン上で参加者が、その時々の気持ちを表すことができるようなシステムを試作していました。

「これくらいならば自分の意思を表現できる」という手段を複数用意することでコミュニケーションの幅が広がるのではないかといいます。

もうひとつが、『1対1のやりとりを増やす』。
グループ内でのコミュニケーションは苦手でも、1対1であれば積極的に発言する人は少なくありません。

大人数が参加する授業や会議の場合は難しい方法ですが、少人数の時は質問や議論を投げかける際にまずは1対1のやりとりを意識するとコミュニケーションが取りやすくなるといいます。

栗原教授も、この方法を実践しているということでした。
津田塾大学 栗原一貴教授
「オンライン化したことで質問しづらくなったとすれば、それは技術のせいで、資質のせいではありません。重要なのはコミュニケーションの場をどのように設定するかです。授業をしたり会議を開いたりするいわゆるホスト側の責任が重くなっていると思います」
私自身、質問できない自分にモヤモヤしていましたが、取材を進めるうちに少し気持ちが楽になったような気がします。

しばらく避けることのできない“オンライン”の授業や会議の日々。

特性を理解し、技術をうまく取り入れながら質問しやすい環境が広がっていけばいいなと思いました。