狩猟解禁~求むハンター

狩猟解禁~求むハンター
11月15日に全国でシカやイノシシなどの狩猟が解禁されました。(※北海道は10月1日解禁)

しかし、いま農業被害を食い止める役割を担う、ハンターの不足が地方で課題となっています。狩猟をめぐる最新事情を取材しました。
(ネットワーク報道部 田隈佑紀/谷井実穂子)

地方移住につなげる“ハンターズハウス”

狩猟についてネットで調べているとユニークな取り組みが目にとまりました。
「南房総2拠点ハンターズハウス」。“都市部在住者が3か月南房総で2拠点生活を送りながら、狩猟者になるためのプログラムを学ぶ”と書かれています。

このプログラムは、11月下旬から2月末にかけて週末などに民宿に滞在し、わなの設置や獲物の解体方法などを学ぶものです。

千葉県の南房総市観光協会と周辺の自治体で鳥獣対策に取り組む地域おこし協力隊などが協力して企画しました。
参加費は15万円。

どれだけの人が参加するのか気になります。企画した沖浩志さんに話を聞きました。
「10人の募集に対し、説明会には40人の応募がありました。募集人数に達したあともどうしても参加したいという人がいて、追加で受け入れました。予想以上に関心が高かったです」
この取り組みが始まった背景には、地方の抱える課題があります。

イノシシやシカなどによる農業被害は、全国で158億円(平成30年度)。この地域でも、被害が深刻化していますが、高齢化で猟をする人が足りなくなっているといいます。
沖浩志さん
「新型コロナウイルスの影響で、田舎暮らしへの関心が高まる中、都会の人たちに猟のなり手になってもらい、ゆくゆくは地元の人との交流を通じて移住につなげてもらえたらと考えました」

狩猟したい人が増加?

シカやイノシシなどの野生動物の肉は「ジビエ」と呼ばれ、このところブームとなっています。さらに、わな猟師をモデルにした漫画「罠ガール」のヒットなどで、狩猟免許の取得者は増加傾向です。

たとえば東京都の新たな狩猟免許の交付数は、5年前は年間500件余りでしたが、去年はおよそ1000件に増加。都が受験した人に理由を尋ねたところ「狩猟をしてみたい」「有害鳥獣の駆除に協力したい」「ジビエを食べてみたい」と回答した人が多くを占めました。

“ペーパーハンター”を活かせ

狩猟免許の所持者は増加していますが、課題もあります。

環境省によると免許を持っている人は全国でおよそ20万人。しかし、実際に狩猟をする場合に必要な「狩猟者登録」をした人はおよそ14万人となっていて都市部の人など免許を活用していない人が少なくないとみられています。
「ハンターズハウス」を企画した沖さんは、こうした人たちを地元に呼び込みたいと考えています。
沖浩志さん
「私は“ペーパーハンター”と呼んでいるのですが、農業被害が深刻な現場とうまくマッチングできればいいなと思っています」

“ワナシェア”サービスも

都市部の免許保持者と農業被害に悩む地方をつなげる新たな仕組みもうまれています。

狩猟免許の取得者のうち、特に増えているのが銃を使わない「わな猟」の資格です。ただ、獲物がかかっているか日常的な見回りが必要で都市部の在住者にはハードルが高い面があります。

そこで、埼玉県横瀬町のベンチャー企業が、自治体の支援も受けて去年から始めたのが、わなのシェアリングサービスです。
わな猟を行いたい人が複数人で出資して、わなを設置。見回り、解体などを共同で行うことで、一人一人の負担を減らし、解体した肉も出資した人たちでシェアする仕組みです。わなの状況は見回りのほか、遠隔カメラでも確認します。

ことしはこれまでに10人以上の申し込みがあり、多くが東京などの都市部に住む、狩猟の経験がない“ペーパー・ハンター”だといいます。
「地方では農業被害に困っている人がたくさんいて、自治体からもこの仕組みを導入したいという問い合わせが来ている。
今後、他の地域にも拡大させていきたい」
農業被害を防ぐため、国は2023年度までにシカやイノシシの捕獲を増やし、生息数を10年前の半分以下にする目標を掲げています。

しかし、捕獲ペースは目標に届いておらず、“ペーパーハンター”の活用が切り札の1つになるかもしれません。

狩猟の注意点は?

ハンターを増やそうという取り組みが広がっていますが、気になるのは安全面です。

銃を使った狩猟では、誤って人を撃ってしまう誤射による事故も各地で起きています。

環境省の鳥獣保護管理室に、狩猟を安全に行うには、どんなことに気をつけたらいいのか聞きました。
猟銃を使う場合、茂みで何か動いたからといってすぐに発砲するのではなく、銃を撃つ方向をしっかりと確認することが不可欠です。

さらに、移動中に何かのはずみで銃が暴発し、自分や仲間に当たってしまう危険性もあります。このため、弾を入れたまま移動しないよう呼びかけています。

わなで動物を捕獲するわな猟では、捕まえたあとに動物が暴れて人が襲われるという事故も発生しています。動物がいても、すぐには近づかず、わなが引きちぎられたり固定している木から外れたりしていないか、よく確認する必要があるといいます。

また、山林だからといってどこでも猟が行えるわけではありません。「鳥獣保護区」など猟が禁止されている場所が多数、指定されていて、都道府県などに確認する必要があります。

南房総市のハンターズハウスなどでは、経験者から指導を受けるということですが、環境省の鳥獣保護管理室では山に入る際は、その地域をよく知る人と一緒に活動するよう呼びかけています。

新型コロナや豚熱が影響…

さらに、いま新たな課題となっているのが新型コロナの影響です。

飲食店に足を運ぶ客の減少で、ジビエの消費が減っているのです。

また、イノシシは、豚の伝染病・豚熱への感染が確認され、21の都府県の一部の地域で出荷できなくなっています。

捕獲されてもそのまま処分されるため、食肉加工施設も厳しい経営に陥っています。

鹿カレーが救世主に!?

売り先が減ったジビエを少しでも食べてもらいたい。

消費を増やそうという取り組みが各地で広がっています。

日本ジビエ振興協会は、家庭でなじみの薄かった鹿肉を気軽に楽しんでもらおうと、ことし9月から鹿肉のシチューなどレトルト食品のインターネット販売に乗り出しました。

一番人気はスパイシー鹿カレー。カレーと鹿肉のうまみの相性が抜群だといいます。
「レストランの営業時間短縮や廃業などでジビエの売り先がなくなり、会員の食肉加工施設からは『このままでは潰れてしまう』という声が聞かれます。ジビエは高価なもの、レストランで食べるものというイメージだったと思いますが、これからは家庭でも食べてもらいたいです」

自衛隊員のスタミナ源にも

一方、鹿肉の栄養価に注目しているのは、強じんな肉体と体力で職務にあたる自衛隊員です。

防衛装備庁によると一部の施設で鹿肉が提供されているといいます。長野県の陸上自衛隊松本駐屯地では、11月18日に隊員たちの食事で、鹿肉メンチカツを提供。

そのねらいを聞いてみると。
松本駐屯地糧食班長 岩下裕樹2等陸尉

「コロナの影響で地元で捕れた鹿肉の売り先がなくなっていると知り地産地消の意味もあって採用しました。鹿肉にはタンパク質が豊富に含まれていますし、カツにすればボリュームも出るので、体力勝負の自衛隊員にはとても良いと思います」

チワワだってオオカミの血が騒ぐ?

鹿肉に熱い視線を送るのは、人間だけではありません。

「犬は鹿肉が大好きです。他の肉とは食いつきが違います」。

そう語るのは、ジビエペットフード協会で代表理事を務める高橋潔さんです。

ペットフードでのジビエの消費を増やそうと、協会を設立。ジビエ専門の市場を運営していますが、処理施設にオーブンを導入し犬用の鹿肉ジャーキーを作る取り組みを進めています。
ジビエペットフード協会 高橋潔代表理事
「もともとオオカミは鹿を食べていましたから、犬も鹿肉が大好きなんです。栄養も豊富なので、愛犬に食べさせようという飼い主は増えています。コロナでペットを飼う人も増えているので、需要の拡大を期待しています」

食べる際の注意点は?

さて、ここまで読んでいただいた皆様、食べたくなってきましたよね?かくいう私も取材しながら、「鹿肉 レシピ」と検索してしまいました。

野生の肉なので臭いが気になるという人もいるかもしれません。
日本ジビエ振興協会の鮎澤さんに、肉選びのコツをうかがいました。
日本ジビエ振興協会 鮎澤廉 事務局長
「肉を選ぶ時には、衛生管理の方法を開示している食肉加工施設のものを選ぶことをおすすめします。血抜きなどの衛生管理がしっかりと行われていれば、生臭さはありません」
農林水産省は「国産ジビエ認証制度」を設けていて、認証を受けるには、加工施設で基準に沿った衛生管理が行われているかどうかもチェックされます。

ただ、ジビエの調理には十分な注意が必要だといいます。

ジビエの生肉には、サルモネラやE型肝炎ウイルスなどが存在している可能性があり、十分に加熱しないで食べると食中毒を引き起こすリスクがあります。

日本ジビエ振興協会では、「絶対に生で食べないこと」と呼びかけていて、75度で1分以上の加熱が不可欠だと話しています。

「カルパッチョ」や「たたき」などのようにレア状態で食べるのも避けたほうがいいといいます。

家庭でジビエ料理を作るには

それでは、どんな料理が家庭で作るのに向いているのでしょうか。おすすめを聞いたところ、「鹿肉のから揚げ」を勧められました。

~鹿肉から揚げレシピ~。

赤みは高温で加熱すると固くなりやすいので…

1 鹿肉をプレーンヨーグルトにつけ込む
 ※肉400g/ヨーグルト50g

2 冷蔵庫に入れ待つこと1時間

3 しょうゆ・酒・みりん・ショウガ・ニンニクに30分漬け込む

4 かたくり粉をまぶして180度で約3分揚げる

赤身でさっぱりとした、おいしい鹿肉から揚げが完成!
ちなみに、鹿肉を焼く場合は、強火で一気に焼くとぱさつきやすいので、「弱火でじっくり」がポイントだそうです。

新型コロナの影響でジビエの需要が減少している今だからこそ、飲食店だけでなく家庭の食卓でもおいしくジビエ料理をいただくことが、農家や生産者の支援につながるかもしれません。