ベトナムから来日 ブローカーに利用された技能実習生の証言

ベトナムから技能実習生として来日したものの、その後ブローカーに不法就労の状態で長野県の農家に送り込まれた20代の男性がNHKの取材に応じました。

男性は、新型コロナウイルスの感染が拡大する直前のことし2月に来日し、神奈川県内の建設会社で働き始めました。

建設現場で鉄筋を曲げる仕事などを担当していましたが、当初、聞いていたよりも仕事内容が過酷で、さらに給料の手取り額が当初の予定よりも少なかったため、ことし7月になって職場から逃げ出したということです。

その後、ベトナム人が多く利用しているSNSで知り合った男から「長野県の農家での仕事がある」と言われました。

ほかに仕事がなく手持ちの現金もほとんどなくなっていたため、コンさんは指示どおりに長野県川上村に向かい、男に会うと紹介料などとして3万円を支払いました。

長野県に行く前に顔写真を送るように言われていましたが、ブローカーの男はその写真を使って男性の偽造の在留カードを作っていたということです。

男性は独身でしたが、偽造在留カードには技能実習生ではなく、就労に制限がない「日本人の配偶者」という、うその在留資格が記載されていました。

男は「不法就労が発覚しないように偽造在留カードが必要だ。あなたに悪い影響はない」などと説明したということです。

その後、川上村の農家に送り込まれた男性。

ほぼ毎日、午前2時から昼すぎまでレタスや白菜の収穫作業に当たっていたということです。

NHKの取材に応じた男性は「働いていたときは警察に逮捕されるのではないかと毎日不安で、不法就労の状態から抜け出したいと思っていた」と振り返っています。

その後、先月20日になって農家に人材を送り込んでいた大阪の会社から突然連絡があり、すぐに職場を離れるよう強く迫られたということです。

男性はその時に初めて、大阪の会社に勝手に登録されていたことを知りました。

日本に来る費用などでおよそ200万円の借金があるということで「不法就労はもうしたくないが、ベトナムにいる病気の両親や兄に仕送りをするために、まだ日本で働かなければならない。自分にあった仕事が見つかることを願っている」と話しています。

男性は、これまでのいきさつなどについて今後、警察に相談するということです。

コロナで解雇される実習生 全国で相次ぐ

新型コロナウイルスの影響で、働いていた職場の業績が悪化し突然、解雇される実習生も全国で相次いでいます。

去年6月、ベトナムの大学を卒業したあとに実習生として来日したタンさん(25)は、福岡県の板金工場で働いていましたが、ことし6月、コロナの影響で仕事が減ったとして解雇されました。

その後、支援団体に保護され、日本語の簡単な会話もできることなどが評価されて食品加工の会社への就職が決まったということです。

タンさんは「急に会社から解雇を告げられた時は驚いたし、仕事が無ければ生活ができないためとても悩んだ。今後もなんとか日本で働いて、将来、両親に家を買ってあげるのが夢だ」と話していました。

ベトナム人を支援する東京都内の団体では、ことしの春ごろから仕事を失ったという同じような相談が寄せられ現在、およそ30人を保護しているということです。

支援団体では、実習生などから希望する勤務地や業種などの要望を聞き取ったうえで、新たに受け入れてくれる企業を探して再就職につなげています。

技能実習制度をめぐる状況

「外国人技能実習制度」は、外国人が日本で働きながら技術を学ぶ制度で、最長で5年間の滞在が認められています。

実習生は年々増える傾向にあり、ことし6月末の時点でおよそ40万2000人がいて、ほぼ半数がベトナム人です。

制度上はあくまで知識や技術を学ぶことが目的ですが、労働環境が厳しい日本人の人手が集まらない業種を中心に労働力を確保する手段になっているのが実態です。

また、賃金を払わなかったり違法な長時間労働をさせたりするケースもあり、厳しい環境に耐えられずに逃げ出し失踪する実習生も相次いでいます。

出入国在留管理庁によりますと、実習先の職場から失踪した実習生は、去年1年間だけで8796人に上っています。

さらに、厚生労働省によりますと、新型コロナウイルスの影響で解雇された実習生も相次ぎ、これまでに3861人が確認されています。

実習生を受け入れた「監理団体」が再就職の支援などを行わないために、住まいがなくなって生活ができなくなる深刻なケースも出ています。

国は、解雇された実習生などについて、これまで認められていなかった、ほかの業種への転職を認める特例措置を設けるなどの対応をとっていますが、専門家は支援が不十分だと指摘しています。

支援団体「追い込まれた状況 もっと国が支援を」

ベトナム人を支援しているNPO法人「日越ともいき支援会」の代表の吉水慈豊さんは「新型コロナの影響で急に仕事を失って生活に困窮し、中には犯罪行為をせざるをえない人までいるという追い込まれた状況だ。働く場所がなくてSNSを通して怪しい内容の仕事を紹介してもらうケースも増えている」と話しています。

そのうえで「夢や希望を持って日本に来ている人がほとんどで、罪を犯したい人はいない。もっと国が積極的に就職の支援を行うなど、具体的な対策を打ち出していくことが重要だ」と話しています。