酢豚ならぬ“酢鹿” 高校生がコロナ禍でジビエ業界に新風?

酢豚ならぬ“酢鹿” 高校生がコロナ禍でジビエ業界に新風?
レストランのメニューでも見かけることが増えている野生動物の肉「ジビエ」を使った料理は、年々、人気が高まっています。しかし、新型コロナウイルスの影響でジビエを取り扱っていた飲食店も経営難に陥り、消費が激減。加工業者が苦境にあえぐ中、高校生たちが柔軟な発想で新たなビジネス展開に乗り出しました。(高知放送局カメラマン バナジ真勇久)

臭い固いクセがスゴいはもう古い!

「ジビエ」と聞くと、少し苦手なイメージを持つ人も多いのではないでしょうか。実は、私もその1人でした。しかし、野山を駆けまわり栄養を蓄えた野生動物の肉は、魚でいうと養殖ではなく天然もの。捕獲後速やかに血抜きをし、解体された新鮮なジビエは臭みもなく実際に食べてみると「実にうまい!」のです。高知市の居酒屋では、イノシシのハンバーグやシカのカルパッチョ(中心までしっかりと加熱)など、ジビエ料理を提供しています。肉のうまみをしっかりと感じながらもさっぱりとした味わいを楽しめるだけではありません。
例えばシカ肉は、牛肉に比べてカロリーは3分の1、鉄分は4倍以上含まれているほか、タンパク質やビタミンも豊富とあって、若者だけでなく、健康意識の高い人にもうれしい食材として注目されています。(文部科学省 五訂増補日本食品標準成分表より)

“やっかいもの”からの脱却を

ジビエの活用が広がっている背景には、深刻化する農業被害があります。農林水産省によりますと、野生鳥獣による農作物の被害額は、全国で158億円(平成30年度)にのぼります。
この“やっかいもの”を駆除するため、国は、侵入を防ぐ柵の設置や加工処理施設の設置、ハンターの確保・育成を支援するなどして、農作物の被害軽減に取り組んできました。この結果、おととしまでの10年間で、全国でのイノシシやシカの捕獲頭数はそれぞれ30万頭からほぼ2倍に増え、ジビエに利用された量も5年前の1,283トンが去年は2,008トンと4年間で1.5倍以上に増えています。

ジビエの“先進地”を襲った新型コロナ

年間で1億円以上(平成30年度高知県)の被害が出ている高知県は、独自にジビエ加工の衛生管理についてのガイドラインを作ったほか、この3年間で専門の食肉処理施設を県内2か所に新設するなど全国に先駆けてジビエの利用を拡大させてきました。
このうち、梼原町(ゆすはらちょう)の処理施設「ゆすはらジビエの里」では、猟師のもとに出向いて、駆除したシカやイノシシをその場で回収・解体処理できる「ジビエカー」を全国で初めて配備しました。これにより、町で駆除される野生鳥獣の約4割に当たる400頭余を加工して全国に卸すことができるようになりました。

販路も少しずつ増え事業が軌道に乗り始めていたやさき、需要が一気に落ち込む事態に遭遇しました。新型コロナウイルスの感染拡大です。施設では、缶詰の商品を開発したり、ペットフードの材料としてのジビエを販売したりすることでなんとか売り上げを確保する努力を続けているものの、影響は長引くとみています。
平脇施設長
「ジビエの売り上げは、ほぼゼロにまで落ち込んだ時期もありましたが、農作物を守るためには野生鳥獣の駆除を止めるわけにはいきませんし、ジビエを廃棄するわけにもいきません。収益の7割ほどを占めていた飲食店への売り上げが元に戻るまでには、まだ時間がかかりそうです」

救世主は…高校生!?

こうした中、需要回復に向けて注目を集めている高校生たちがいます。それが、高知商業高校「ジビエ部」。ジビエの普及に取り組む全国でも珍しい部活です。野生鳥獣と農作物被害について授業で学んでいく中で有効活用の大切さに気付いた生徒たちが、去年5月に立ち上げました。

これまでにシカ肉を使ったホットドッグやカレーパンなど手軽に食べられるジビエ商品を数多く開発し、月に2、3回のペースで地域のイベントでの試食会やSNSによるPR活動を行うなどジビエを身近に感じてもらう取り組みを続けています。
生徒たちが半年かけて開発したのが、酢豚ならぬ「酢鹿」です。飲食店でシカの唐揚げを見た部員が、酢豚でも豚肉の代わりに使えるのでは、と考えたのがきっかけだそうです。いちばんの課題は、シカ肉は中までしっかりと火を通す必要があり、一緒に調理すると、野菜の食感が失われてしまうことでした。そこで別々に調理したうえで混ぜ合わせると、肉のうまみと野菜のシャキシャキ感を両立させることができました。地元特産のショウガをたっぷりと使うことで独特の臭みも消えたといいます。
ことし9月には、高知市の商業施設の一角に部員たちが週末限定のレストランを出店しました。酢鹿をごはんの上に乗せた「酢鹿丼」も一皿700円で提供。注文があるか心配していたといいますが、2日間で50食ほど売れました。実際に食べた客も「獣くさいイメージがあったけど癖もなくておいしい」「スーパーとかにあったら買ってもいい!」と、評判も上々でした。

目指せ!宇宙食

こうした実績を踏まえて来年4月からは、高知県内の道の駅などでレトルト食品として販売する計画です。ジビエ部の宅間瑠渚部長は、「酢鹿」について次のように話しています。
宅間さん
「高知は常に南海トラフ巨大地震と向き合っているので、防災用の保存食としてジビエを活用できないかと思い開発しました。レトルトパウチにすると3か月は保存できるので、コロナ禍でジビエの消費が落ち込む中、備蓄できる商品としても消費を増やしていきたい」
今後も改良を重ね、将来はなんと宇宙食!にまで成長させるという目標も掲げています。最近では、商品開発に活用してもらおうと、在庫となったジビエを提供したり、新たな商品開発を依頼することを検討したりする加工業者も出てきているということです。

新型コロナの感染が再び広がる兆しをみせる中で、飲食業界に暗雲が立ちこめている状況もすぐには改善されそうにありません。それだけに高校生たちの取り組みが新風を吹き込んでくれるのか、注目していきたいと思います。
高知局カメラマン
バナジ 真勇久
平成27年入局
松山局を経て現所属
ジビエを使ったスパイスカレーづくりに挑戦中