介護報酬の改定 議論難航も コロナで事業所経営に打撃の中

新型コロナウイルスは介護事業所の経営に大きな打撃を与えています。国は今、事業所に支払う「介護報酬」の改定議論を進めていますが、現場からは報酬の引き上げを求める声が相次いでいます。一方で、財務省などからは引き上げに慎重な意見も出ていて、議論が難航することも予想されています。

介護の現場では、新型コロナウイルスの感染拡大によって、感染を恐れた高齢者が利用を控えたり、事業所がリスクを抑えるために人数を制限したりする動きが相次いでいます。

これによって利用者が減少し、介護事業所の経営が悪化しています。

厚生労働省が全国およそ4万の事業所に行った調査では、5月の時点でウイルスの流行前より収支が悪化したと答えたのは47.5%と半数近くに上り、10月の時点でも32.7%とおよそ3分の1に上りました。

こうした介護事業所の収入の大半を占めるのは、介護サービスを行った対価として自治体から支払われる「介護報酬」です。

介護報酬は3年に1度、サービスごとに改定され、現在、厚生労働省の審議会で来年4月の改定に向けた議論が本格化しています。

これについて介護事業所からは「もともと厳しい経営を強いられていたのに、新型コロナでさらに打撃を受け、このままでは事業を存続できない」などと報酬の引き上げを求める声が相次いでいます。

一方で、引き上げに慎重な意見も出ています。

財務省は今月2日に開かれた財政問題を話し合う審議会の場で、報酬を引き上げれば利用者の負担が増すことになり、経済に厳しい影響が広がる中、引き上げる環境にはないなどと提言しています。

高齢化で介護費用が膨らみ続ける中、介護事業所の経営改善をどこまで図っていくのか。
審議会は年内にも方針をまとめる予定ですが、議論が難航することも予想されます。

介護保険制度とは

介護保険制度は2000年(平成12年)に始まり、ことしで20年になります。

高齢化を背景に、介護が必要な人は制度開始当初のおよそ3倍に増えました。

これに伴って必要な費用も3倍以上に膨らみ、2018年度(平成30年度)には自己負担分を除いて10.2兆円に上っています。

さらに、団塊の世代がすべて75歳になる2025年度には、自己負担分を除いておよそ15兆円、高齢化がピークを迎える2040年度にはおよそ25兆円に達すると推計されています。

一方、制度の支え手である現役世代は減少していく見通しで、国の財政赤字も深刻な中、介護費用の伸びを抑えて制度をいかに維持していくかは喫緊の課題となっています。

こうした背景から、3年に1度の介護報酬の見直しでは、前々回の平成27年度にはマイナス2.27%と大幅なマイナス改定となり、前回の平成30年度はプラス0.54%となったものの、デイサービスの大規模な事業所で報酬を引き下げるなど、厳しい改定が続いてきました。

デイサービスの現状は

介護サービスの中でも新型コロナウイルスの影響を特に強く受けているのが、デイサービスなどの「通所介護」です。

厚生労働省が全国1700余りの事業所に調査した結果、ことし7月末の時点で81.7%の事業所が「利用を控えた高齢者がいた」と答えました。

こうした影響で、通所介護の1事業所当たりの利用人数は、5月の時点で前の年と比べて平均で10.9%減少し、8月の時点でも4.4%減少しています。

東京・目黒区のデイサービス「青葉台さくら苑」も、利用者が減り、厳しい経営に直面している事業所の1つです。

ここではもともと40人の利用者がいましたが、国内で感染が拡大したことし3月、3密を防ぐため、利用者どうしが1メートルの距離を確保できるよう机の配置を変え、定員を25人にまで減らしました。

それでも、「感染が怖い」と利用を控える高齢者が相次ぎ、4月には利用者は15人に。

その後、少しずつ利用が戻ってきたとはいえ、今も19人にとどまっています。

利用者の減少に伴って収入が減る一方、感染対策を強化するために、座席の間にアクリル板を設置したり、オンラインで交流するためのタブレット端末を購入するなど、費用もかさんでいます。

さらに、食器などをこまめに消毒できるよう配膳台も改装する予定で、感染対策にかかる費用は200万円以上に上る見通しです。

デイサービスの管理者の丸山真吾さんは「もともと厳しい経営が続いていたが、このまま利用控えが続くと、さらに厳しさが増し、赤字に転落するおそれもある」と話しています。

そのうえで「東京は感染収束のめどが立たず、厳しい経営はまだまだ続くとみられる。高齢者の生活を何とか支えていきたいという思いで努力しているが、自分たちの工夫だけで経営を改善していくことには限界を感じていて、報酬を改善してほしい」と訴えています。

専門家「今回はしっかり増額し 事業者支えるべき」

介護現場に詳しい東洋大学の早坂聡久准教授は「介護報酬は過去のマイナス改定があまりにも大きく、前回は小幅なプラス改定となったものの、焼け石に水の状態だった。そこにコロナの影響が加わり、利用控えなどによって介護サービスがうまく回らず、事業所の経営をさらに悪化させている」と指摘しています。

そのうえで「これからの介護をどう支えるか今本気で考えなければ、介護制度はあってもサービスがない時代になってしまう。今回の報酬改定では、これまでのマイナス改定分を下支えする意味でもしっかりと増額をして、人材の流出を防ぎ、事業者を支えていくべきだと思う」と話しています。