まざると危険 釣り場とフグに異変

まざると危険 釣り場とフグに異変
毒はあるものの丸く膨らんだ姿に愛らしさも感じさせるフグ。鍋や刺身、から揚げなどいろいろな形で食べられるおいしい魚でもあります。しかしフグをめぐって、ちょっと気になる話題が。キーワードは「まざると危険!」です。
(ネットワーク報道部記者 加藤陽平 高杉北斗・SNSリサーチ 三輪衣見子)

捨てられるフグ

新型コロナウイルスの影響が続く中、釣りが今、改めて注目されています。“密”を避けるアウトドアレジャーとして人気が高まっているんです。

そんな中、釣りをめぐるこんなツイートが目にとまりました。
「この間夜釣りしてた時の事だけど、堤防歩いてたらフグが大量に捨ててあった。ほんとこれやめてほしい。フグにどんだけ恨みがあるか知らんけど、こんな事したってフグは居なくならないし、釣り場も汚れるしちゃんとリリースして欲しい。頼む。」
ツイートにつけられた画像には、堤防の上に20匹ほどのフグが散乱している様子が写っています。

ツイートした、たいやき。さんに話を聞きました。

福島県に住むたいやき。さんは10月31日の夜、県内で釣りをしようしたところ、この光景を目にしたといいます。
たいやき。さん
「釣り人がいるところにはフグが捨てられているのをよく目にしますが、今回はかたまって捨ててあって、さすがにびっくりしました。すでに干からびて死んでいました。なんでこんなことをするんだろうと、悲しい気持ちです」

釣りの「嫌われ者」だけど

同じような投稿はほかにも。
「ほんとにやめようフグ捨ては。ちょっとぽちょんと、戻すだけなのに…」
「よく行く釣り場フグ捨てられすぎてて夜とか踏んじゃうのヤダ」
「フグを堤防に捨てるな」
毒を持ち、鋭い歯で仕掛けをかみ切ってしまう場合もあるフグは、多くの釣り人に嫌われ者扱いをされてしまう魚です。

釣り人気が高まる中、捨てられるフグも増えているのではないかとの指摘も。

でも、その光景に心ある釣り人たちからは嘆く声が上がります。

毒を持つフグ 認定なく販売・提供は「違法」

フグについてSNSを見ていくとさらに気になる投稿が。
「他人にはすすめないけど、自分で釣ったフグは食べる」
「皮をむいて、内臓を取り除いて、身だけを味噌汁に入れて食べた」
フグを調理して食べているというのです。

多くの種類のフグは「テトロドトキシン」という毒を持ちます。

厚生労働省が食べることができると定めた種類や部位以外を販売、提供することは法律で禁止され、取り扱う場合には、都道府県の認定を受ける必要があります。

フグを食べて死亡事故も

自分で調理して食べる分には「違法」ではありませんが、事故も起きています。

10月には徳島県で80代の男性が自宅で死亡しました。

体内から「テトロドトキシン」が検出され、自分で調理したフグを食べたとみられています。

厚生労働省のまとめによりますと、フグの食中毒は、平成15年以降で見ても毎年10数件から40件余り発生していて、亡くなる人も出ています。

発生場所の多くは、家庭だといいます。

厚生労働省は毎年起きる食中毒を受けて「自分で釣ったフグや知人から譲り受けたフグの素人調理は絶対にやめてください」と呼びかけています。

まざると危険!

実は今、フグの危険性が増しているともいわれています。

その理由になっているのが、違う種類のフグどうしが交配して生まれる「雑種のフグ」の存在です。

なぜ、「雑種のフグ」が危険なのか。
フグの生態に詳しい水産大学校の高橋洋准教授に聞きました。
水産大学校 高橋洋准教授
「通常、フグは種類ごとに毒のある部位が違いますが、『雑種』になると、遺伝子が組み変わるため、どこに毒があるのかわからなくなり、危険なんです」
どういうことでしょうか。

高橋准教授が研究を進めているゴマフグとショウサイフグで見てみます。
まず、ゴマフグは、主に日本海側に生息する体長30センチから40センチ余りのフグです。
北陸地方では卵巣をぬか漬けにして毒を抜いたものが珍味として知られていて、特徴は体の下側にある尻びれが黄色いこと。

一方のショウサイフグは体長30センチくらい。
主に太平洋側に生息し、比較的安価で、関東地方を中心にから揚げや鍋などで食べられています。

こちらの尻びれは黄色ではありません。

いずれも皮や肝臓などに毒があることがわかっていますが、2種類が交配した「雑種」になると、それ以外の部位にも毒がある可能性が出てくるんだそうです。

しかも、問題は、この「雑種」を簡単に見分けられないこと。
これが「雑種」のフグですが、見分けるポイントだった尻びれが少し黄色になっていて、素人目では見分けがつかなそうですよね。

高橋准教授によると、国内で流通する食用可能な22種類のフグのうち雑種が生まれやすいトラフグの仲間が11種類。

ただそのうち雑種になった場合でも毒のある部位がわかっているのはトラフグとマフグの組み合わせのわずか1種類だけ。

つまり、それ以外の雑種だと、どこに毒があるのかはっきりわからないのだそうです。

「雑種」が急増!?

さらに大きな異変が起きています。

なんと、この「雑種」がいま、増えている可能性があるというのです。

高橋准教授は、おととしから、ゴマフグとショウサイフグの雑種の割合を宮城県沖で調べています。

雑種のフグが見つかる割合は通常1%以下とされていますが、調査の結果、雑種の割合は、おととしがおよそ23%、去年はおよそ14%、ことしはおよそ15%と、通常の場合を大きく上回ったのです。

背景に地球温暖化か

増加した理由は何か。

高橋准教授は、背景に地球温暖化で海水温が上昇したことによるフグの生息域の変化があるのではないかと推測しています。
ゴマフグとショウサイフグで見てみます。

これまで、日本海側の北陸から中国地方の沖合に主に生息していたゴマフグが、海水温の上昇に伴って生息域を北上させます。

その結果、津軽海峡を通って太平洋に進出。宮城県やその周辺の沖合で「雑種」が生まれたとみられています。
水産大学校 高橋洋准教授
「これまでに聞いたことのない割合で『雑種』が発見されたことに大変驚きました」

「雑種」は全国に

「雑種」が発生している場所は、宮城県やその周辺の海だけではありません。

フグの種類の組み合わせは変わりますが、瀬戸内海や有明海、日本海など全国の広い範囲に及んでいるといいます。

こうした事態を受け、厚生労働省は去年、フグの調理をするために必要な認定基準をまとめた文書の中で、雑種のフグについて注意を呼びかけました。

高橋准教授は、フグの生態が変わっている可能性があるとして素人が調理して食べるのはやめるよう強く訴えます。
水産大学校 高橋洋准教授
「本当におそろしいことを認識したうえで、フグを扱ってほしい。いまや『雑種』のフグがどこにいるのかわかりません。命に関わるので、フグを食べる際は素人が調理せず、『雑種』を見分けることができる認定を受けた人が調理したものを食べるのが何より重要です」

フグの異変は海の異変

今回の取材のきっかけは、堤防に捨てられたフグ。

「行き着くところは釣り人のモラルの話だろう」と考えていました。

しかし、取材を進めていくと、海水温の変化という地球規模の大きな話まで見えてきました。

高橋准教授によると、海水温の変化によって生息域が変わっているのは何もフグに限った話しではなく、多くの魚に現れていて、ブリやヒラマサなどでも「雑種」が生まれているのだそうです。

まだまだ研究が進んでいない分野だということですが、近い将来、私たちの食卓に並ぶ魚にも変化が生まれるかもしれません。

温暖化というと話が大きすぎて少し遠いテーマに感じる方もいるかもしれませんが、私たちの「食」にも関わる話だと思うと、身近に迫った重要な問題なのだと改めて痛感させられます。