「進藤みなみさん」にだったら下着の相談できるかも

「進藤みなみさん」にだったら下着の相談できるかも
「販売員さんだとしても下着の相談は恥ずかしい」
女性客のそんな思いに寄り添った接客が10月、スタートしました。大手下着メーカー「ワコール」が1年以上かけて開発したのは、“アバター”と呼ばれる分身を遠隔で操作し、非接触で接客するシステムでした。このシステムの導入は客の満足度を高めるだけで無く、販売員にとっても大きなメリットが生まれています。(映像センター制作グループ 小野沙織)

接客の表情が一定だから気楽?

「こんにちは!きょうお客様を担当させていただく、進藤みなみと申します」

私の前で接客をしてくれるのは、くりくりの目がかわいいアバター販売員さん。

(筆者)「長時間下着をつけていると痛くなってくるのが悩みで…」
(アバター)「サイズが合っていないか、今ですとノンワイヤーでしっかりとバストの寄せ上げ効果があるものもご用意しています」

下着選びって、きちんと計測して体に合っているものを買ったほうがいいと分かりながらも、なんとなく恥ずかしいと気後れしている女性も多いのでは?

私自身も店員に体の悩みを言いづらくて、結局聞けないまま体に合わないものを買って後悔した経験があります。
でも今回は、相談相手がアバター。最初は無機質で話しにくいかも…なんて思っていたのですが、表情が一定だからこそ変な気を使わないですむのかもしれません。

優しい表情で、ところどころ相づちを打って話を聞いてくれるアバター販売員さんに、気付けばすっかり安心して相談することができました。

購入までの流れはこうです。
1 来店後、個室ブースに案内されヒアリング。
2 3Dスキャナーで、自分の体型サイズを計測。
3 データをもとにアバター販売員が具体的な相談に乗り、おすすめの下着を提示、店舗やネットサイトでの購入につなげる。
一貫して非対面であることで、顧客にとっては目の前に人がいる圧迫感や話しづらさの軽減をはかるだけでなく、新型コロナ対策としても効果が期待されています。

新しい接客はリモートで

アバターの裏側で接客にあたるのは、ふだんは店頭に立っている販売員。客のことは画面を通して見えますが、自分の姿はアバターとなり客からは見えません。

体の角度を動かしたり、「おじぎをする」「手を振る」などのボタンを駆使して客とコミュニケーションを取ります。このアバター販売員、これまでの接客と比べてどうでしょうか?
販売員
「私の顔が見えてないからだと思いますけど、赤裸々に感情を自由に出してくださる方が非常に多くて。カメラ越しでもお客さんの表情はよくわかりますので、接客しにくいとは感じずに対応できました」

接客業や販売業の“選択肢”を増やしたい

コロナ禍以降、当たり前のようになってきたテレワーク。しかし“対面が前提”の接客業や販売業は、導入が最も難しいとされてきました。

アバターによる接客サービスの開発を進めてきた下山廣さん。開発を始めた背景には、部下の働き方に悩んできた経験があります。
下山さん
「私たちの会社は女性が約9割を占めています。当然ですけど一人一人に人生があります。かつて現場にいたときに、販売が大好きな部下が出産・育児などを理由に辞めていってしまった。そんな悔しい思いがアバター開発の原点です」

テレワークで再び活躍の場を

下山さんは、今回のサービス開始を前に、元部下の福田智帆さんの自宅を訪ねました。福田さんは、在職時は全国トップクラスの成績を上げていましたが、出産を機に大好きだった販売員の仕事を諦めました。
下山さんが福田さんに依頼したのは、「在宅で販売員の仕事ができないか」という実験です。

非対面のアバター接客の特徴を利用すれば、これまで当たり前だと思われていた「販売員=店頭に立つ」という形を変えられるのではないかと考えたからです。
福田さん
「接客って絶対に行かないと仕事にならないじゃないですか。だからこんな接客があるなんて想像もしていなかったです。子どもが大きくなってくれば時間も少しできてくると思います。このアバター接客が普通になったり浸透していくと、また皆さんの働き方も変わるし私の働き方も変わるのかなと思っています」

ふだんと違うお母さん

取材していていいなと感じた点がありました。

それは、客から自分の姿が見えないということ。店ではアバターしか見えないため、販売員の服装や化粧はもちろん、自宅や家族の様子が映ったりすることもなく、その点は気楽に仕事ができるのではないかと思いました。

そうこうしていると、小学5年生の娘さんが学校から帰宅。ふだんと違うお母さんの様子を興味津々で見守っていました。
小学5年生の長女
「なんだかかっこいい。ママの仕事いいなと思っていたけど、将来ママみたいに接客がうまい人になれたらいいなと思う」
ふだんは見られない母の接客の仕事を見ることができるのも副産物だなと感じました。

「あくまで実験なので今後のことはまだわからない」としながらも、福田さんは在宅での仕事に手応えを感じた様子でした。

好きな時間にどこにいても働ける環境を

ワコールの全国の店舗では、およそ3500人の女性が働いています。

下山さんは、今後在宅でのアバター接客が可能な人材を育成し、地方の客とのリモート接客なども検討することにしています。

結婚や育児などで仕事を辞めることなく、好きな時間にどこにいても働ける環境をつくりたいと、考えています。
下山さん
「テレワークって、事務系の人しかできないと考えられていました。でもアバターによって販売職もテレワークができるかもしれない。人生の選択って、いろいろあると思うんですけども、仕事、キャリアを途中で中断しなければいけないといったことがないような選択肢を増やす。それによって頑張れる人が継続的に頑張れる、そんな風にしていきたいです」

より自由で自分らしい選択ができる社会に

アバターを介した接客、今さまざまな業界で注目されています。
例えば日本航空は9月にパナソニックと共同で、出発ロビーや搭乗口でアバター式リモート案内サービスの実証実験を行いました。社員の働き方の選択肢を増やすことによる持続可能な職場環境の実現を目指すとしています。

また東急ハンズはNTTデータと共同でアバターを介して遠隔で商品を提供する、デジタルストアの実証実験を行っています。接客スタッフの勤務場所を自宅を含むさまざまな場所に拡大することで、多様な働き方などの実現を目指すとしています。

今回ワコールと共同でアバターを開発した「HEROES」も、旅行業界や飲食業界などと共同で接客システムの開発を進めているそうです。

お店に入ったら、当たり前のようにアバターが迎えてくれる。そんな社会が近い将来、訪れるのかもしれません。

中には、「やっぱり店員さんと直接会って買いたいわ」という方もいると思います。ただ、働く側も客側も新しい選択肢が増えることは、より自由で自分らしい選択ができる社会につながっていくんじゃないかなと思いました。

新しい接客業の在り方、皆さんはどう思いますか?
映像センター制作グループ
小野沙織
平成24年入局
名古屋局、沖縄局を経て映像センターでニュースの制作などを担当