「家族だけど家族じゃない」 制度開始から5年 広がりと不安と

「家族だけど家族じゃない」 制度開始から5年 広がりと不安と
「まさか日本で認められるなんて考えてもいませんでした。あっという間の5年でした」

東京・渋谷区と世田谷区で、パートナーシップ制度が始まって11月5日で5年になります。制度は全国60以上の自治体に広がり、性的マイノリティーの人たちを取り巻く環境は大きく変化しています。

制度の広がりとともに生活の環境が改善する面もある一方、法律上は「家族」ではなく、新型コロナウイルスの感染が拡大する中、生活する上での不安も大きくなっています。

(ラジオセンター 瀬古久美子 / 社会部 高橋歩唯)

広がるパートナーシップ制度 全国で1300組超

同性カップルを「結婚に相当する関係」と認め、証明書などが交付されるパートナーシップ制度は、5年前、渋谷区と世田谷区で始まり、当時6組のカップルが交付を受けました。

今、制度はどうなっているのでしょうか。

渋谷区とNPO法人の「虹色ダイバーシティ」が行った調査によると、ことし9月末の時点で、全国59の自治体で制度が導入され、あわせて1301組のカップルが証明書などの交付を受けていることがわかりました。

10月に入ってからは、埼玉県坂戸市と東京・小金井市で、さらに11月に入ってからは、千葉県松戸市、埼玉県北本市、栃木市で制度が導入されました。

また、12月には青森県弘前市が東北で初めて導入を予定しています。

制度はこの5年で全国各地に広がっているのです。

「パートナーとして認められ生活環境は改善」

パートナーシップ制度は、当事者にとってどのような意味があるのか。

私たちはこれまでもNHKの取材に応じてくれている世田谷区に住む戸籍上女性どうしのカップルに改めて話を聞くことにしました。

聴覚障害があり手話教室の代表を務めるモンキー高野さん(49)と手話通訳士の高島由美子(50)さんです。およそ20年にわたり2人で購入したマンションに一緒に暮らしています。

5年前、2人は、世田谷区から「パートナーシップ宣誓書」の受領証を笑顔で受け取りました。

当時、メディアの取材を受けたことでニュースを見た同じマンションに住む人から祝福を受けたといいます。
高島由美子さん
「中年の女性2人が一緒に暮らしているって、少し不思議だなと思われていたかもしれない。聞かれてないのに家族ですと言うのも変だったけど、マンションの人たちに2人のことを知ってもらえて安心しました」
自治体からパートナーとして公的に認められたことで、生活環境は改善したといいます。

関係を反対していた高野さんの母親からも応援してもらえるようになったのです。

さらに、航空会社を利用する際もポイントサービスを家族として使えるようになるなど様々な場面で変化を感じています。

パートナーシップ制度によって、一部の病院で本人に代わって同性のパートナーが手術に同意できたり、民間サービスの家族割引などが受けやすくなったりします。

また、制度を導入している自治体の多くで、公営住宅の申し込みが法的に結婚している人たちと同じようにできるようにもなりました。

また、自治体の中には、別の自治体に引っ越したあとも証明書を継続して利用できるようにしているところもあります。

法的効力は一切なし 税制優遇なく相続人にもなれず

精神的な意味でも、生活するうえでも同性カップルの支えとなっているパートナーシップ制度ですが、法的な効力は一切ありません。

いくら2人が互いを「家族」だと思っていても、配偶者としての権利を行使したり、税制面の優遇措置を受けたりすることはできないのです。

2人が今もっとも心配しているのは、パートナーにもしものことがあった場合です。

たとえば、2人で購入したマンションは高野さんの名義になっていて、高島さんは法律上、相続人にはなりません。

今のままでは高島さんがひとり残された場合、マンションに住み続けられる保証はないといいます。
モンキー高野さん
「5年前、『結婚おめでとう』というみんなの祝福にとまどいました。私たちの関係は、同性カップルの権利が認められるうえでの第一歩ではあるかもしれないけれど、結婚とは違うんです」
高島由美子さん
「いろんなことがあったけど、20年以上、いつも2人で支え合って協力してきた。それでも法的には家族にはなれない。異性カップルの人は、区役所に婚姻届を出した当日に家族になれる。その差はやっぱり大きいんです」
2人のことばが私たちの胸に深く突き刺さりました。

社会生活の中での不安 コロナ禍で大きく

新型コロナウイルスの感染拡大によって、同性カップルを含めた性的マイノリティーの人たちが抱える不安は大きくなっています。

ことし4月に当事者の支援団体「Marriage For All Japan」は、新型コロナウイルスの感染拡大でどのような不安があるか、インターネットでアンケート調査を行い、236人が回答しました。

このうちおよそ4割の人が「パートナーがPCR検査を受けた時や入院することになった時に、家族と同様に扱われないおそれがある」と回答しました。

また、およそ2割の人が「感染した場合に家族や友人、勤務先などに自分が性的マイノリティーであることや同性のパートナーがいることを公表される不安がある」と回答しています。

「周囲の理解に不安…」制度利用を迷うカップルも

調査が行われた4月以降も感染が拡大する中、当事者たちは何を考えているのか。

別の同性カップルに話をきくことができました。

性的マイノリティーの支援団体の代表を務めている松岡宗嗣さん(26)とパートナーの男性は、大学時代に出会い、3年前から東京都内で一緒に暮らしています。

松岡さんは、周囲にカミングアウトしたうえで生活していますが、パートナーは、ごく一部の人にしかカミングアウトしていません。
松岡宗嗣さん
「もし自分がコロナに感染すればパートナーは濃厚接触者になる。そうなれば自分たちの関係をパートナーの職場にどう説明すればいいのかと考えてしまいます」
不安はこれだけではありません。
松岡宗嗣さん
「コロナだけではなく、今後別の病気になることだって考えられます。様々なリスクを考えたとき、本当に最期に立ち会えるんだろうかとか、パートナーがもし大変な状況になったとき家族として扱ってもらえるのか不安なんです」
2人の関係は、ことしで5年目を迎え、将来について真剣に考える機会も出てきました。

松岡さんたちは、少しでも関係性の証明につながればと、将来的にパートナーシップ制度の利用を考えています。

しかし、利用するには超えなければならない壁もあるといいます。
松岡宗嗣さん
「パートナーが家族全員や職場の人たちにカミングアウトしているわけではない中で、パートナーシップを取るのは、まだ早いと考えています。周囲に理解してもらえる状況になってからと思っています」
カミングアウトすることは多くの同性カップルにとって今も決して簡単なことではありません。

当事者であることを公にして、インターネットなどで発信を続けてきた松岡さんでさえ、今も周囲からゲイであるということをどう見られるかまだ気にしてしまうことがあると言います。
松岡宗嗣さん
「外で手をつなぐことはまだできないんです。パートナーシップ制度ができた今も、家探しで差別されたり、街で笑われたりすることはあり、まだ差別や偏見は残っていると感じます」

制度導入した自治体は60超に 一方で慎重な声も

パートナーシップ制度は、この5年で60を超える自治体で導入されましたが、導入にあたっては、慎重な声も聞かれます。

制度の導入をいったん決めたものの、こうした意見に配慮して開始を延期した自治体もあります。

また、制度を導入しても利用者がいない自治体もあります。

去年9月に導入した愛知県西尾市、いずれもことし4月に導入した奈良県大和郡山市と宮崎県木城町では、これまでのところ利用者がいません。

家族法が専門で、性的マイノリティーの問題に詳しい早稲田大学の棚村政行教授はこうした自治体にも制度を必要とする人がいるはずだと指摘します。
棚村政行教授
「制度を作ってもしばらく利用者がいなかった自治体はほかにもありました。同性パートナーがいることを明らかにすることによる差別や偏見を恐れて、利用したいのに利用しないという人がいるのではないでしょうか」

問題発言 議会など公的な場でも相次ぐ

実際に、制度をめぐる議論では、問題となる発言が議会など公的な場でも相次いでいます。

埼玉県で活動する当事者団体「レインボーさいたまの会」は、これまで県内27の自治体にパートナーシップ制度の導入を求める請願や陳情の活動を行ってきました。

このうち春日部市で9月に開かれた議会では1人の議員が「市内に差別は存在しない。こうした請願は左翼勢力の作戦だ」と述べました。

請願を行った団体の鈴木翔子共同代表はオンラインで議会を傍聴し、この発言を聞いていました。
鈴木翔子共同代表
「事実と異なることを公的な立場の方が公の場で発言されて、ほかの当事者が聞いたらどんな思いをするだろうと感じました」
請願は賛成多数で採択されたものの、発言について団体が撤回を求めたほか、一部の市民からも抗議の声が上がりました。

春日部市議会の議長はこの議員の発言について「不快な思いをされた方々に心からおわび申し上げます」というコメントを発表しています。

鈴木共同代表は、同じような発言は過去に県内のほかの自治体の議会でもあったことを教えてくれました。

ただ、意外なことに、抗議したことはこれまでなかったと言います。

なぜなのか。

私たちの問いに少し考えてからこう話しました。
鈴木翔子共同代表
「今まで生きてきた中でそういう意見に多く接していたため、聞き流すことに慣れてしまっていました。当事者が声を上げるというのは痛みを伴うんです。しかし、当事者の声が届かないと、私たちがいないことになってしまうと感じて、今回は抗議することで姿勢をしっかりと示す必要があると考えました」
これまでも社会の中で存在していたけれど声を上げてこなかった人たち。

そんな人たちが明確に声を上げるようになった。

研究者の立場から、棚村教授もこう指摘しています。
棚村政行教授
「30年ほど研究している身からすれば、こうした発言が問題視されるようになったことが大きな変化なんです。当事者の人たちが声を上げるようになったことが大きいと思います」

「家族と認めて」 各地で司法の場にも

実は、この5年の間にパートナーシップ制度が広がっただけでなく、当事者たちが声をあげ、法的な地位をめぐって様々な裁判を起こしています。

同性カップルが浮気を理由に破局した場合に、慰謝料が生じるかが争われた裁判では、ことし3月、2審の東京高等裁判所が「男女の婚姻に準ずる関係」だったと認め、1審に続いて男女のカップルと同様に慰謝料の支払いを命じました。

一方で、同居する同性パートナーを殺人事件で失った愛知県の男性が犯罪被害者の遺族への給付金の対象にならなかったのは違法だと訴えた裁判は、ことし6月、訴えが認められず退けられました。

名古屋地方裁判所の判決では同性カップルの位置づけについて「社会的な議論の途上にあり、婚姻関係と同一視するだけの社会通念が形成されていない」としています。

そして去年からは、東京など5か所で当事者27人が「同性婚」をめぐる集団訴訟を起こしています。

同性どうしの結婚が認められていないのは法の下の平等に反するなどと訴えていて、来年3月に最も早い判決が言い渡されます。

棚村教授はこの5年間についてこう評価してくれました。
棚村政行教授
「渋谷区や世田谷区がパートナーシップ制度を導入したことは大きなインパクト、意義があります。5年で瞬く間に全国に制度が広がったんですから。性的マイノリティーへの理解が深まり、社会全体として多様性を認める大きな変化が出てきているといえるでしょう」
一方で、こうも付け加えました。
棚村政行教授
「当事者であることを明らかにすることで不利益を被ることを恐れている人が少なくない。だから制度を利用できないという人たちもいます。当事者への理解をより深めるとともに、積極的に社会の一員として、家族として権利を認めていくということについて議論を同時に進めていく必要があるのではないでしょうか」
同性パートナーシップ制度の導入から5年、取材を通じて改めて社会は大きく変わりつつあるのだなと感じました。

しかし、当事者たちの「家族だけど家族じゃない」という思いは今も変わってはいません。

同性カップルと社会はどのように共生していくべきか、私たちは今問われていると感じました。
ラジオセンター
瀬古久美子
社会部
高橋歩唯