奈良 東大寺「お水取り」 来年 コロナ対策で一部非公開も検討

古都、奈良に春の訪れを告げる、東大寺の伝統行事「お水取り」の来年の公開方法について、寺は新型コロナウイルスの感染が広がるのを防ぐため、大きなたいまつを振って火の粉を散らす「お松明(おたいまつ)」の一部の日程を非公開とする案など、異例の対応を検討していることが分かりました。

「お水取り」の名で知られる東大寺二月堂の「修二会(しゅにえ)」は、「練行衆(れんぎょうしゅう)」と呼ばれる僧侶たちがおよそ1か月にわたって国の安泰を願う法要などを行う伝統行事で、奈良時代から一度も絶えることなく、来年、1270回を迎えます。

中でも、3月1日から14日まで毎晩燃え盛るたいまつを二月堂の欄干から突き出して振る「お松明」には多くの参拝者が訪れることから、寺は感染症の専門家の助言を受け、来年の公開方法などを検討しています。

現在考えているのは、大きなたいまつが使われ、特に多くの人が訪れる3月12日と、その後の13日と14日は、「お松明」を非公開とする案です。

そのうえで、ほかの日も参拝を控えるよう呼びかけ、それでも密集が避けられないと判断した場合は、人数の制限も検討するとしています。

寺は今後の感染状況などを踏まえたうえで、今月中旬にも対応を公表する方針です。

過去に何度も練行衆を務めた東大寺の橋村公英執事長は「修二会の行はできるだけ例年どおり行うが、参拝については新型コロナの流行状況によっては控えていただく必要があるかもしれない。非常に悩ましい判断になるが、ご理解とご協力をお願いしたい」と話しています。

感染症専門家の協力で対策検討

今回、東大寺は奈良県立医科大学附属病院感染症センターの笠原敬センター長らの協力を得て、来年の修二会の感染対策を検討してきました。

まず議論したのは、3月1日から2週間、連日、午後7時前後から行われる「お松明」の公開方法についてです。

現在、国は祭りなどを開催する際の目安として、人と人との間隔を1メートル以上空けることなどを示していますが、お松明に訪れる人は多い日は1万人以上。二月堂周辺はスペースが限られているため、制限を設けないと、限られた場所に多くの人が集まる「密」状態を回避するのが困難だということです。

この対応策として、「お松明」の最後の3日間を非公開とするなどの案が検討されています。

また参拝者への公開方法とともに、関係者たちを悩ませているのが僧侶らの感染対策です。

練行衆に選ばれた11人の僧侶はおよそ1か月間、寝食をともにする合宿生活を行います。

笠原センター長によりますと、1人でも感染者が出てしまうと、ほかの僧侶も濃厚接触者として隔離が求められ、修二会を中断しなければならなくなる可能性があるということです。

寺は笠原センター長らとともに、境内のお堂や僧侶の宿舎となる施設などを細かく点検しましたが、法要の中には所作の一つ一つや、建物の中での僧侶の立ち位置まで細かく決まっているものもあり、互いに距離をとったりマスクの着用を徹底したりするのが難しい場面もあるということです。

寺では僧侶たちがウイルスを持ち込まないように対策を徹底する必要があるとして、修二会が始まる前に練行衆となる僧侶全員を自宅で隔離して、2週間ほど健康観察する期間を設けたうえで、事前にPCR検査を受けてもらうなどの対策も検討しています。

笠原センター長は「1か月間、合宿形式で寝食をともにするとなると、感染対策をしながら行をするのは難しく、ウイルスをできるだけ持ち込まないことが大切だ。関係者が守ってきた伝統を次につなげられるよう支援したい」と話しています。

過去にも中断の危機

東大寺の修二会は奈良時代から一度も絶えることなく行われ、「不退の行法(ふたいのぎょうぼう)」と呼ばれています。

また春の訪れを告げる伝統行事として古くから親しまれ、江戸時代の絵図にはたいまつを眺める庶民の姿が描かれています。

しかし過去には何度か中断の危機があり、江戸時代の1667年には修二会の行が終わる前日に二月堂が火事で全焼し、ほかのお堂などに場所を移して最後まで行われたと伝えられています。

また昭和20年、終戦の年の練行衆の日記には、灯火管制が行われる中、目立たないよう二月堂に上がるのを1時間早めたうえで、夜間のたいまつを中止したなどとする記述もあります。

東大寺の橋村公英執事長は「修二会は、あり続けてほしいと願う、さまざまな人の支えによって続いてきているので、そうした時代を超えた人々の思いを絶やさず受け継いでいきたいというのが、われわれの願いです」と話しています。