社会

新型コロナ クラスター最多に 札幌と仙台のケースから学ぶこと

11月2日までの1週間に全国で確認された新型コロナウイルスの感染者の集団=クラスターは、合わせて100件余りに上ることが厚生労働省のまとめで分かりました。9月以降の集計で最も多くなっていて、地方都市の歓楽街、それに会食や職場、さらには外国人のコミュニティーでも発生するなど、多様化や地域の広がりが懸念されています。
厚生労働省は、自治体が公表したデータや報道をもとに、毎週、全国のクラスターの発生件数をまとめています。

それによりますと、11月2日までの1週間に全国で確認されたクラスターは合わせて103件で、前の週のおよそ1.6倍に増加しました。

▽最も多かったのは「企業や官公庁など」で29件、
次いで
▽「飲食店」が20件、
▽高齢者施設などの「福祉施設」が18件、
▽「学校・教育施設」が11件
▽「医療機関」が9件などとなっています。

また、10月5日から11月2日までのおよそ1か月間に確認されたクラスターは合わせて341件で、これまでに確認されたクラスター全体の2割近くを占めるということです。

クラスターは感染拡大の原因になることから、政府の分科会が国に対策の強化を求めていて、厚生労働省も自治体による封じ込めを支援するためクラスター対策の専門家を保健所などに派遣しています。

確認されたクラスター 9月以降で最多に

厚生労働省によりますと、全国で確認された週ごとのクラスターの数は、
▽ことし9月7日までの1週間が94件、
▽9月14日までが83件、
▽9月23日までが85件、
▽9月28日までが53件、
▽先月5日までが57件、
▽先月12日までが78件、
▽先月19日までが95件、
▽先月26日までが65件、
そして
▽今月2日までが、9月以降の集計で最も多い103件でした。

クラスター対策の鍵は“検査”

クラスター対策で鍵を握るとされるのが検査です。

検査対象を広げたことで感染の拡大を最小限に食い止められたというケースも出てきています。

横浜市にあるデイサービスの施設ではことし9月、利用していた80代の女性の感染が判明。

女性は施設を訪れた後の検温で38度台の発熱があったためすぐに帰宅し、3日後に病院を受診しPCR検査を受けたところ陽性となりました。

施設は保健所に対し、女性の濃厚接触者だけでなく利用者と職員全員を検査するよう求め、2日後には25人全員のPCR検査が実施されました。

その結果、新たに利用者3人と職員1人の合わせて4人の感染が判明しました。

4人のうち3人は、濃厚接触者には当たらない人たちでした。

そのうちの1人で50代の男性職員は発熱などの症状も全く無かったといいます。

しかし、検査の結果は陽性。

すぐに自宅での療養に入りました。

職員は、ほとんど毎日、利用者の送迎や入浴の介助などを行っていて、感染に気付かないまま仕事を続けていれば、ウイルスを広げていた可能性もあると考えています。

職員は「症状も無いのに陽性で、周りの人たちにうつす可能性があったのでとても恐怖を感じました。知らず知らずにうつしてしまう脅威、これを防ぐために検査対象を広げていくべきだと強く実感しました」と話していました。

また、デイサービスの施設長は「無症状の感染者もいるのでもし保健所が全員検査を認めてくれなければ、事業所の費用で検査を行うつもりでした。今回の経験で、感染者が出てしまった後にどう拡大を防ぐのか、その対応が非常に大事だと感じました。早めに感染者を特定し、行動を制限できたのが非常に大きかったです」と話していました。

専門家「地方でも検査体制 拡充を」

地方でクラスターが相次いでいることについて、日本感染症学会の理事長で東邦大学の舘田一博教授は「都会はそれなりにクラスターの経験をして、注意深く行動することがある程度、徹底できていると思うが、これまであまり経験のない地方では、まだ対策が十分でないところもあるのではないか。また、GOTOトラベルなど人の動きを促進する政策も影響していると思われる」と指摘しています。

舘田教授は、全国各地でクラスターが発生し市中感染が新たな段階に移ってきているとしたうえで、「誰が誰にウイルスをうつしていてもおかしくない状況となり、今後もさまざまな場所でクラスターが発生する可能性がある。できるだけ早期に発見し、抑え込んでいくことが重要だ」と指摘しています。

そのための対策として『迅速な検査』を挙げ、「都会では検査のキャパシティーが増えてきているが地方では、まだ不十分なところもある。地方でも検査体制を拡充し、濃厚接触者だけでなくその周りの人たちも広く検査を行うべきだ」と話しています。

さらに現場での感染対策については「3密の回避なり、マスクの着用なり、行うべきことはわかっていても、緩んでしまうケースもある。私たち一人一人が油断をせずに想像力を働かせて対策を続けることが必要だ」としています。

北海道 先月以降で40件 全体の半数が1か月余に集中

北海道によりますと、道内では4日までに79件の感染者の集団=クラスターが発生し、このうち先月以降の発生は40件と、全体の半数がこの1か月あまりに集中しています。

この40件のうち、先月発生したのは32件で、半数近い15件は接待を伴う飲食店に関連したものだったほか、このうち11件は、札幌市の繁華街・ススキノの接待を伴う飲食店で発生していました。

さらに今月に入っても、4日までにススキノの3件を含む4件がいずれも札幌市内の接待を伴う飲食店で発生するなど、わずか4日間で8件の発生が確認されています。

地域別に見ると、札幌市ではこのほかにも、芸能事務所で所属タレントやイベントに参加した人が相次いで感染したほか、市内で行われた冠婚葬祭に伴う会食でもクラスターが発生するなど、先月以降の道内全体の発生数の半分以上にあたる26件を札幌市が占めています。

札幌 ススキノ 人出激減も再び増加

札幌市の繁華街・ススキノの人出はどのように推移しているのか。

IT関連企業の「Agoop(アグープ)」が携帯電話の利用者の許可を得て個人が特定されない形で集めた位置情報のビッグデータをNHKが分析しました。

ススキノの人出はことし2月ごろから減少傾向が続き、全国に緊急事態宣言が出た4月16日以降は、激減しました。

4月最後の土曜日は、感染が拡大する前の1月最後の土曜日と比べて90%近く減少しました。

しかし、緊急事態宣言が解除された5月下旬からは一転して増加傾向となり、5月最後の土曜日は4月の2.4倍に、6月最後の土曜日は4月の4.4倍に増加しました。

7月中旬から一度、減少に転じましたが、8月中旬から再び増え始め、9月最後の土曜日は緊急事態宣言の解除後で最も多くなり、4月の4.5倍となりました。

そして10月に入ってからも9月と変わらない状態が続いています。

ススキノ 予約キャンセルなどの影響出始めている

4日夜、ススキノで、新型コロナウイルスの感染が急速に広がる現状への受け止めを聞きました。

飲食店を経営する内海光博さんは、緊急事態宣言が解除されたあと、客足が一時回復したものの、このところの感染拡大で東京の客からの予約がキャンセルになるなど、影響が出始めているといいます。

内海さんは、「自粛を続けてきたお客さんが来るようになり、元に戻った気がしましたが、ススキノでクラスターが発生し始めて以降は、売り上げは以前の半分です。客の入りに大きな影響はなく、ススキノの人出が増えているという実感はありません」と嘆いていました。

そして、北海道と札幌市が酒を提供する飲食店などへの営業時間短縮の要請などを検討していることについて、「感染拡大を防止するためなら協力するつもりではいますが、ここ半年以上、経営が厳しい状態が続いているので、せめて補償はきちんとしてもらいたい」とため息まじりに訴えていました。

専門家「社会活動を停止するか いま瀬戸際の状況」

札幌医科大学の横田伸一教授は、北海道内で新型コロナウイルスの感染が広がっていることについて、「人の動きが活発化したのはよいが、それに伴って密な接触の機会が増えてきている」と指摘し、社会経済活動の活発化に伴って感染対策が徹底されない場面が増えていることが一因との見方を示しました。

そのうえで、「高齢者や基礎疾患のある人のいる環境にウイルスがはびこってしまうと、第一波、第二波のようなことが起きかねない」と述べ、感染拡大が高齢者などの間に飛び火すれば多くの重症者や死者が出るおそれがあると警鐘を鳴らしています。

北海道内では、PCR検査を受けた人のうち陽性になった人の割合を示す「陽性率」も徐々に上がっていて、先月上旬は1日当たり3%台が中心でしたが、最近は最も高い日で8%を超えています。

横田教授は、本格的な冬を迎えると、体温が下がって免疫力が落ち、空気が乾燥して鼻やのどの粘膜が弱まり、寒さから換気がおろそかになるなど、感染リスクが高まりやすいと指摘しています。

そのうえで、「このまま拡大が進んでいけば、社会経済活動をいったん停止する状況にもなりえ、今はその瀬戸際の状況だ。市民がどれだけ感染防止への意識をあげられるかだ」と話し、改めて基本的な感染対策を徹底するよう呼びかけています。

仙台 留学生多く生活する学生寮でも

仙台市青葉区にある「花壇自動車大学校」では、感染した可能性のある留学生と職員など合わせて402人を検査した結果、今月4日までに113人の感染が確認されました。

仙台市によりますと、この学校ではネパールやスリランカ、それにベトナムなどの出身の留学生335人が学んでいます。

今回はおよそ3割に上る108人の陽性が確認されました。

感染が判明した留学生108人のうち、半数を超える64人は学生寮で生活していました。

寮で生活するおよそ7割の学生が感染したことから、仙台市は寮の中での接触が感染が広がった要因の1つではないかと見て、詳しく調べています。

学校によりますと、寮は5階建てで、留学生たちは基本、6畳の部屋にそれぞれ2人で過ごしていました。

1階には自炊をするための共用のキッチンやホールがあり、留学生たちは一緒に飲食し、交流することもあったということです。

学校では留学生に対してマスクの着用や手洗いやうがいの徹底を指導していたほか、教室のこまめな換気などの感染防止の対策を取っていたということです。

しかし、プライベートな寮の中での生活までは把握しきれなかったといいます。

「花壇自動車大学校」の※エビ名満校長代理はNHKのインタビューの中で「寮での感染は懸念していたが、ここまで多くの感染者が出ることは想像していなかった。プライベートな場所では一人一人のすべての行動を確認できない」と述べ、プライベートな空間での感染対策に難しさがあるという認識を示しました。

仙台市のこれまでの聞き取りで、感染した留学生は少しぐらいの症状では病院にいかない傾向があることが分かってきました。

留学生の感染者の大半は発熱などの症状があったものの、コールセンターへの相談や医療機関を受診したというケースはほとんどなかったということです。

※エビ名校長代理は「国や民族ごとに生活習慣や宗教も異なり、そうしたことを尊重しながら注意できることは何か考えていかなければならない」と述べ、留学生たちの事情なども考慮しながら、感染拡大防止の対策に取り組む考えを示しました。

(※エビは「魚」へんに「老」)

専門家「寮生活での完全な感染予防難しい」

仙台市の専門学校で、寮生活を送る留学生などのクラスターが発生したことについて、厚生労働省クラスター対策班のメンバーで、東北大学の小坂健教授は、「生活をともにする中で、1人感染者が出るとどうしても広がりやすく、完全な予防対策はかなり難しい」と指摘しています。

寮生活を送る上での感染リスクとして、共有スペースでマスクを外して話しながら食事をしたり、誰かの部屋に集まって食事や飲酒したりするなど、長時間にわたって接触する機会がどうしても増えてしまうことをあげています。

そのうえで、感染を広げないためには「マスク着用や換気など基本的な予防策も重要だが、体調が悪い人が出た場合にどう対応するかルールを決めておくことも大事だ」としています。

外国人留学生の間で感染が広がったことについて、「日本のように症状があったらすぐに医療機関に行けるという国のほうが珍しい。少し症状があっても我慢するなど国によって違いがあり、それを理解したうえで繰り返し情報を伝えていくことが重要だ」として外国人特有の事情を考慮して対策をとる必要があるという考えを示しました。

感染者数「横ばい」から「微増傾向」に

国内では先月以降、新型コロナウイルスの感染者がそれまでの「横ばい」から「微増傾向」に変わりました。

その背景について、厚生労働省の専門家会合は先月28日の会議で、首都圏で新規感染者が減少傾向にならないこと、そして地方でクラスターが発生するなどして、感染者が増加する地域が出てきていることなどを挙げています。

クラスターは地方都市の歓楽街、それに会食や職場、さらには外国人のコミュニティーでも発生するなど、多様化や地域の広がりがみられるということです。

専門家会合は「積極的な検査によって大規模クラスターやクラスターの連鎖が発生しないよう早期に対応するほか、今後、飲食や会食の機会の増加が見込まれることから、国や自治体は感染リスクを下げる工夫を広く周知すべきだ」と指摘しています。

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