58歳の挑戦 アーチェリー 山本博

10月31日、愛知県で行われたアーチェリーの全日本選手権。この日58歳の誕生日を迎えたオリンピックメダリストの山本博選手は、90人中72位に沈み、まさかの予選敗退となりました。
試合後、「こんな最悪な誕生日ないでしょう」と悔しさをにじませた山本選手。オリンピックに5回出場し、2大会でメダルを獲得するなどアーチェリー界をけん引してきた「中年の星」は、いま苦しみながらも弓を引き続けています。

まさかの予選敗退

全部で72本の矢を放つ全日本選手権の予選ラウンド。山本選手は、的に刺さった最後の矢を悔しそうな表情で抜きました。
そして苦笑いを浮かべながらこう言いました。

「ああ、はじめての予選落ち。決勝に進めないとはね」
結果は、90人中72位。上位32人で行われる決勝トーナメントの進出ラインには遠く及びませんでした。

初めて全日本選手権に出場したのは、いまから40年以上前、中学3年生のときです。それ以来はじめての予選敗退といいます。皮肉にも初めての予選落ちが58歳の誕生日と重なった山本選手は、こう話しました。

(山本博選手)
「こんな最悪な誕生日ないでしょう。最も苦しい結果が誕生日に訪れたというのは逆に一生忘れない日になりました」

必死に前を向こうとしていましたが、悔しさは隠しきれません。その姿に、41歳のときアテネオリンピックで銀メダルを獲得し「中年の星」として注目されたときの勢いはありませんでした。

手術の決断けがとの戦い

低迷の原因は明らかでした。
実はことし8月、腕や指のしびれをとるためろっ骨の一部を切除する手術をしていました。

何度も同じ動作を繰り返すアーチェリー。同じ部位に負荷がかかるため、腕や指には夜中に目覚めるほどのしびれが来るようになっていました。

医師からは長期のリハビリで治す方法も提示されましたが、「トップの舞台に戻るために」と少しでも早く復帰できるよう手術に踏み切りました。

手術は無事成功。しびれはなくなりましたが、思わぬところにダメージが残りました。手術前後の弓を触れない期間に、筋力が大きく低下してしまったのです。
(山本博選手)
「手術後に練習を再開したときに筋肉がすっかりなくなってしまったんです。高齢者の皆さんが寝たきりになると急激に衰えてしまうという話を耳にしていましたが、自分も高齢者の領域に入っているのかなと思いましたね」

手術からおよそ2か月後に行われた全日本選手権。短期間で万全の状態に戻れるはずもなく、結果は惨敗に終わったのです。

58歳 なぜ競技を続けるのか

試合後「こんなに悔しい思いをしたのは久しぶり」と悔しさをにじませた山本選手。ボロボロの体での惨敗に“引退”のふた文字が近づいたようにも感じました。

しかし、山本選手は、あくまで現役にこだわる姿勢を崩しませんでした。その理由についてこう話しました。
(山本博選手)
「こういう状況が嫌で、よいときにやめるっていう選手もいますけど、僕はズタズタになっても続けている。体はきつくなっていますが、応援してくださっている同世代の皆さんがいるし、『僕の記事を見て勇気をもらえた』という声が届くこともあるんです。そういう皆さんに影響が及ぶ間は自分から引退せずに頑張りたいなと思いますね」

秋晴れの空の中、汗をかきながらインタビューに応じてくれた山本選手。去り際にひとこと「頑張ります」と力強く宣言した58歳の挑戦は、まだまだここからのように感じられました。