「無人航空機」 その目は何を…

「無人航空機」 その目は何を…
いま、日本周辺をパイロットが乗っていない航空機が飛んでいるのをご存じでしょうか。長い航行時間に、機体にはカメラにレーダー、電波探知機…。いったい誰が、何のために?その目は何を捉えているのか?取材しました。
(社会部 記者 須田唯嗣)

機体はアメリカ製「シーガーディアン」

日本周辺を飛んでいる機体。それは、アメリカの防衛企業「ジェネラル・アトミクス社」が開発した「シーガーディアン」です。

一切窓がない頭部。その下には高画質のカメラ。胴体には膨らんだレーダーと、24メートルに及ぶ細長い翼。全長は12メートルで、大型バスほどの大きさです。
この機体がことし10月15日から、
▽東北の三陸沖の太平洋、
▽小笠原諸島の周辺、
▽外国漁船による違法操業が相次いでいる「大和堆」を含む西日本から北日本にかけての日本海側の沖合、
▽新潟県の佐渡市の沿岸、
▽石川県の能登半島沿岸を飛行しています。
この『無人航空機』。飛ばしているのは、海の警察、海上保安庁です。業務に活用できるか、およそ1か月間、実証実験を行っているのです。
実証実験の拠点となっているのは、自衛隊の八戸航空基地。

陸上を極力飛ばないように、海に近く、民間の航空機との接近リスクが少ない場所を探していた海上保安庁に、海上自衛隊が協力しました。
開始から2週間。海上保安庁は実証実験の状況を説明する報道公開を実施しました。

案内のとおりに八戸航空基地を訪れると、真っ白で新しい「シーガーディアン」がありました。

早速離陸をするというので、その様子を間近で見てみることに。

白い機体は、後方のプロペラ1つが動力です。

これだけで本当に飛ぶのかという記者の疑問をよそに、1キロほど滑走するとふわりと浮かび上がり、海上に向かっていきました。
海上保安庁は騒音について、120メートルの高さでも、75デシベル=街路脇の住宅街で聞こえる騒音程度だと説明していて、確かに、航空基地に所属するP3C哨戒機の離着陸と比べると静かな印象でした。

無人航空機は何ができる?

報道公開では、海上保安庁の担当者が操縦の仕組みや、実証実験の中身について説明しました。

無人航空機は、自動のプログラミングに沿って飛行するほか、地上にあるコントロール施設から衛星を介して操縦します。

そして、撮影された映像などの情報も、衛星で日本周辺海域のどんな場所であっても、情報処理センターに送られてきます。
上の写真がコントロール施設と情報処理センターです。

中はどんな様子なのか…。この目で確かめようとしましたが、何度依頼しても海上保安庁の答えはNG。機密上の問題があるというのです。

その代わりに、情報処理センター内部の映像が示されました。
外国人男性の脇にモニターが3つ。最も大きいモニターには、三陸沖が映し出されて、何やら紫色の線が航空基地から引かれています。この線が、プログラミングされた飛行経路です。

情報処理センターは、情報を受けるところであると同時に、機体のコントロールの指示を出す「指揮所」でもあるといいます。
この6つ並んだモニターが、受けた情報を映し出すものです。

公開された映像では、モニターのほとんどが切られていますが、実際は無人航空機から撮影された映像、船舶の存在を示すレーダー画面、高度や位置情報、速度などが示されます。

こうした情報をもとに、例えば不審な船が見つかった場合は、指揮所からコントロール施設に経路変更の指示を出すのです。

海上保安庁では実証実験で、▽海難救助、▽災害対応、▽犯罪取り締まり、▽海洋調査などに使えるかを確かめています。

このうち取り締まりなどに必要な、船を上空から確認する能力を検証する実験内容について、実際に撮影された映像を使って説明がありました。
撮影されたのは、長さ95メートルの巡視船「ひだ」。

無人航空機は、雲の上、上空3000メートル以上を飛んでいます。巡視船の位置をレーダーで捉え、カメラを向ける流れで撮影されました。

映像では、画面左から右に向かって船が航行していて、形が分かります。

そして、倍率を上げると、おおまかな船の構造も見てとることができます。

大きさは画面上分かりませんが、パイロットなどの経験則で補うということで、担当者は「具体的な視認精度は言えないが、富士山の頂上から車を識別できる程度の能力はあった」と評価していました。
さらにこのカメラは、赤外線を使った撮影に切り替えることもできます。

同じ巡視船を、夜間に撮影した映像です。
温度が高いところが白く映るため、船のエンジン室の場所や、人の数がはっきり分かります。映像では甲板にいる11人の船員があちこちに動き回るのを詳細に捉えていました。

こうした映像は、ほぼリアルタイムに届くといいます。

例えば船が転覆する海難事故があった場合でも、投げ出された人が救命胴衣で漂流していたとすれば、体温に反応して位置を把握できます。位置情報を救助艇に連絡する役割なども想定されます。

また、取り締まりに必要な、相手に存在を認識させない「隠密性」も検証し、音が小さいため、有人ジェット機よりも気づかれにくいことも分かったということです。

一方、視野は画面上に限られるため、複数人で周辺を見渡せる有人機と比べれば劣ります。しかし、海上保安庁の担当者は「具体的には言えないが、有人機以上の能力がある部分もある。『無人』であっても、業務に活用できる手応えを感じている」と話していました。

なぜいま、実証実験を? 1. 日本周辺海域の緊迫化

では、なぜそもそもいま、海上保安庁は無人航空機の導入を検討しているんでしょうか。

背景にあるのは、日本の周辺海域の「情勢の緊迫化」です。
政府は、沖縄県の尖閣諸島周辺で中国公船による領海侵入が繰り返されていることなどを踏まえて、平成28年に「海上保安体制強化に関する方針」を定めました。方針に基づいて、大型巡視船や航空機の増強や人員確保などを進め、今回の実証実験もその一環ですが、中国側も活動を活発化させています。

ことしもこの原稿を書いている10月30日までに領海侵入は19件。領海のすぐ外側にある「接続水域」を航行した日数で見ると280日で、年間の過去最多の282日にすでに迫っています。

尖閣諸島だけではありません。能登半島沖の大和堆周辺では、近年、北朝鮮や中国の漁船が違法操業を繰り返しています。

2. 航空部門の負担軽減

さらに相次ぐ大規模な災害でも、海上保安庁は頻繁に出動しています。白と青のヘリコプターに孤立した住民がつり上げられて救助される映像を見た人もいるのではないでしょうか。

しかし、「空」を担う航空業務に携わる職員は、実は海上保安庁全体の1割にも満たないおよそ1000人。特にパイロットは常に緊張感がある中での操縦を担い、負担が大きいといいます。

そこで、検討のもう1つの背景となるのが「負担の軽減」です。

遠方海域の監視を行うジェット機では最低でも5人が同乗して警戒にあたる必要がありますが、無人航空機はコントロール施設などで操作にあたる2人の要員で足ります。

さらに、この機体、連続航行時間は35時間。有人機の場合はパイロットの負担から、1度の飛行は8時間までと制限があるので、4倍以上です。

有人機は活動の海域が遠方だと十分な活動時間が確保できない場合もありますが、無人航空機は要員の交代に合わせた離着陸を必要としないため、業務の効率性も高まるとされています。

メリットばかりのようだけど

無人航空機は、海外ではすでに導入が進み、アメリカでは国境の警備などに活用されています。

気になるのは安全性ですが、メーカーは、対策として民間機との衝突回避装置があるとしていて、実証実験でも今後、無人航空機の近くをプロペラ機に飛行させ、実際に回避ができるのか試すことにしています。

また、無線通信が途絶えると、自動で離陸地点近くに戻り、衛星を介さない通信ができるようになる機能もあるうえ、万が一通信ができない場合は、周辺の船を待避させたうえで海に着水させる仕組みになっています。

しかし、実際に実証実験の離着陸が行われている八戸市で住民に聞くと、期待の一方で「パイロットがいないのは不安」という声も聞かれました。

無線通信がほかの帯域に影響を与えたり、通信が妨害を受けたりするリスクもないとは言えません。
航空工学が専門で、東京大学未来ビジョン研究センターの鈴木真二特任教授は、徹底した安全の確認のほかに、ルール作りも同時に行っていく必要があると指摘します。
鈴木特任教授
「実際の運航の中で衝突防止装置がどのように機能するのか、どのような安全上の注意が必要か、きちんと確認する必要がある」
「大型の無人機に関しては制度上の整備が進んでいない。電波に関しても新しいルールを作っていく必要がある。環境の整備というのを並行してやっていかないといけない」

関心が高い、だからこそ

最新の技術が詰まった無人航空機。
その目は上空から海上の船や甲板にいる船員の姿まで鮮明に捉えていました。

その驚くべき能力を試す実験は、国内ではどの機関も導入していないだけに、多くの関係者の関心を集めています。

ただ、新たな技術の導入にあたっては、安全性、有効性、目的、コスト、安全保障上の問題…さまざまな観点での議論が不可欠です。

無人航空機は軍事目的で作られた機体も多く、その点でも丁寧な説明が求められます。

今回の実証実験に、海上保安庁は9億円余りをかけています。実証実験で得た情報はできるかぎり公開し、オープンな議論を導いてほしいと思います。
社会部 記者
須田 唯嗣
初任地は松江局。現在、海上保安庁担当。