「求人が1年で約70万人減」の衝撃 企業の現場から見えたものは

ことし9月の有効求人倍率は1.03倍と9か月連続で低下し、2013年12月以来の水準となりました。ハローワークの求人数は去年の同じ月より70万人近く減少しています。

中小企業からは、新型コロナウイルスの影響で経済の先行きが不透明だとして新たな求人を出せないという声が聞かれる一方で、新たな事業に乗り出して活路を見いだそうとする動きもみられます。

静岡の中小企業「売り上げ確保の見通しないと雇用増やせない」

静岡県磐田市にある自動車部品メーカーは、従業員は46人で平均年齢は44歳と年々、高くなっていて、事業を続けるうえで若い人材の採用が大きな課題となっています。

このため地元のハローワークに設計や配送など、4つの職種の求人を出して高校生などの採用を続けてきました。しかし、新型コロナウイルスの影響で状況は大きく変わり、取り引きのある複数の大手自動車メーカーで、生産計画を縮小したり大幅に延期したりする動きが出てきました。

この部品メーカーでも、ことし2月ころから海外からの材料の調達が難しくなったり大手メーカーからの受注がキャンセルになったりするなどの影響が出てきて、ことし8月の売り上げは前年比のおよそ半分にまで減りました。

この10年間、年間10億円以上の売り上げを維持してきましたが、今期は30%ほど落ち込むとみています。

このため従業員の雇用を維持することを最優先にすべきだと判断し、ハローワークに出す求人は従業員が定年退職でやめてしまう1つの職種だけにしています。

先月から大手メーカーの生産量が回復してきたため、この会社でも受注が増え仕事量が戻りつつあります。しかし、新型コロナウイルスの影響がさらに長期化すれば、今後、受注量や売り上げがどうなるのか見通すことが難しいとして人件費の増加につながる新たな雇用はちゅうちょせざるをえないということです。

部品メーカー「オーミ」の大平晃裕社長は、「高齢の職人が多いので、会社の将来を考えると、こういう厳しい時にこそ求人を積極的に出して若い人材を採用することも有効だとも思います。しかし雇用を増やすためには売り上げをきちんと確保できる見通しがなければ厳しいのが現状です」と話していました。

新事業に「活路」見いだそうとする企業も

厳しい雇用情勢が続くなか、工場の従業員の勤務時間を半分近くに短縮するなどして雇用を維持しながら、新たな事業に活路を見いだそうしている中小企業が東京・墨田区にあります。

墨田区で昭和25年から財布などの革小物を製造している会社は、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で小売店などでの販売が低迷し、売り上げは今も、去年の同じ時期の6割程度にとどまっています。このため会社では墨田区の本社工場の稼働時間を従来の1日7時間半から4時間に短縮して「時短操業」を続けています。

工場以外も含め全体でおよそ40人いる従業員については休業日を設けたり、勤務時間を短縮したりしたうえで雇用調整助成金を活用して雇用と給与の水準を維持しています。
需要の回復が見通せない中、なんとか自力で売り上げを伸ばしたいと、会社は、新たな事業に乗り出しました。

ネットを通じて直接、注文を受け、写真やイラストをプリントしたオリジナルの革製品を製造、販売するのです。

まずはスマートフォンのケースから始め来月からは名刺入れやキーケースなどの製品にも拡大する計画です。

パート従業員の50代の女性は「ほかの場所で働く知人でも雇用を切られた人もいる中、働き続けることができてありがたい。新商品の開発も始まってモチベーションも上がっています」と話していました。

「駒屋」の西村剛史取締役は「雇用調整助成金を続けていただいてなんとか雇用を守りながら経済の回復を待ちたいと思っていますが、助成金に頼らなくてもうまく仕事が回る仕組み作りをこのタイミングで強力に推進していきたい」と話していました。

外食産業でアルバイトなど応募者増加

この数年、人手不足が続いていた外食産業でもアルバイトなどの応募が増えています。

このうち、ファミリーレストラン最大手の「すかいらーくホールディングス」では、以前はアルバイトやパートを募集しても、予定の人員を採用できないケースもありましたが、このところ応募者は増加傾向で、グループ全体のことし8月の応募者は、去年の同じ時期より2割程度増えたということです。

川崎市の店舗では、9月の応募者が去年に比べて6割程度増えました。この店舗では、最近強化している宅配事業の人員として、ことし3月以降、新たに10人のアルバイトを採用したということです。

ただグループ全体で見ると、採用を増やすかどうかは地域や店舗の事情によって異なるということです。

すかいらーくホールディングス人財採用グループの後藤憲一ディレクターは「地域によって異なるものの、これまで採用が難しかった店舗も少しずつ改善している。ただ、少子高齢化の問題もあり、いずれ、再び採用は難しくなると思うので、長期的な視野に立った人材確保に取り組みたい」と話しています。

「輸出伸びず業績に影響」求人減らす愛知の金型メーカー

愛知県江南市の自動車部品の金型メーカー、「KTX」は、大学の新卒者を毎年5人から10人ほど採用してきましたが、ことしの春は2人に抑えました。

例年、1月以降に追加の求人を出していましたが、中国で新型コロナウイルスの感染が拡大し始めたことを受けて、求人を取りやめたためです。

春以降、海外への輸出が減少し業務量が減っているため、会社では代わりに水害対策として水が浸入するのを防ぐ「止水板」の生産量を増やしていますが、まだ大きな収益源には育っていません。

この会社では、先行きが不透明な状況は今後も続くとして来年春の採用人数も2人ほどに抑える予定だということです。

野田太一社長は「輸出が伸びず、業績にも影響が出ている。少し前までは働き手が取り合いで、今はせっかく若い働き手がたくさんいるのに採用できる状況ではなく、残念だ」と話していました。