介護報酬 来年4月の改定へ議論始まる コロナ禍の経営改善焦点

介護サービスを行った事業所に支払われる介護報酬。その3年に1度の改定に向けた議論が厚生労働省の審議会で本格的に始まりました。新型コロナウイルスの影響によって、半数近くの事業所で収支が悪化したこともわかり、経営の改善をどこまで図っていくかが焦点となります。

介護サービスを行った事業所に自治体から支払われる介護報酬は、3年に1度改定され、30日から厚生労働省の審議会で、来年4月の改定に向けた本格的な議論が始まりました。

まず、厚生労働省が全国およそ4万の介護事業所を対象に、新型コロナウイルスの影響を聞いた調査結果を公表しました。ことし5月の時点でウイルスの流行前より収支が悪化したと答えたのは47.5%と全体の半数近く、10月の時点では32.7%とおよそ3分の1に上りました。

厚生労働省は高齢者が感染をおそれて介護サービスの利用を控えたり、事業所が感染リスクを減らすために人数を制限したりする動きが相次いでいることが背景にあると分析しています。

実際に5月時点の1事業所当たりの利用者は、前の年の同じ時期と比べて、ショートステイなどの「短期入所生活介護」が20%、デイサービスなどの「通所介護」が10.9%、それぞれ減少しています。

改定の議論が始まった「介護報酬」は事業所の収入の大半を占めます。もともとの経営の厳しさに、新型コロナによる利用控えや利用制限が拍車をかける中、報酬の改定で経営の改善をどこまで図っていくのかが焦点となります。

「しっかりと増額を」

介護現場に詳しい東洋大学の早坂聡久准教授は「介護報酬は過去のマイナス改定があまりにも大きく、前回は小幅なプラス改定となったものの、焼け石に水の状態だった。そこにコロナの影響が加わり、利用控えなどによって介護サービスがうまく回らず事業所の経営をさらに悪化させている」と指摘しています。

そのうえで「これからの介護をどう支えるかいま本気で考えなければ、介護制度はあってもサービスがない時代になってしまう。今回の報酬改定では、これまでのマイナス改定分を下支えする意味でも、しっかりと増額をして人材の流出を防ぎ、事業者を支えていくべきだと思う」と話しています。

コロナで収支悪化 全体の半数近くに

厚生労働省は、3年に1度の介護報酬の改定議論に向け、事業所の経営状況を把握するため、今回初めて新型コロナウイルスの影響について調査しました。

調査は10月に、全国およそ4万の事業所を対象に行われました。

それによりますと、ことし5月の時点で、ウイルスの流行前より収支が悪化したと答えたのは47.5%と、全体の半数近くに上りました。

サービス別では、
▽「通所リハビリテーション」が80.9%
▽デイサービスなどの「通所介護」が72.6%と、通所系が特に多くなっています。

また、10月の時点でも、流行前より収支が悪化したのは、全体の32.7%と、およそ3分の1に上り、依然として高い水準です。

背景には、感染リスクを恐れる高齢者の利用控えや、事業所による利用の制限があると見られています。

1事業所当たりの利用者数をみると、ことし5月の時点で、前の年の同じ時期と比べて、全体で1.7%減少し、サービス別では、
▽ショートステイなどの「短期入所生活介護」が20%、
▽「通所介護」が10.9%、それぞれ減少しています。

また今回、厚生労働省は、昨年度の経営状況についても全国1万4000余りの介護事業所を対象に調査しました。

それによりますと、「利益率」は、すべてのサービスの平均で2.4%の黒字となりましたが、前回3年前の調査と比べると0.9ポイント下がりました。

サービス別にみても、ほとんどで利益率が縮小し、介護業界全体で厳しさが増しています。

もともとの経営の厳しさに、新型コロナによる利用控えや、利用制限が拍車をかけている状況が浮き彫りになりました。

審議会では慎重な意見も

介護報酬の改定をめぐって30日の審議会では、委員から「新型コロナの影響で経営が悪化し、このままでは赤字に転じかねない」または「今後もコロナの影響が続くなら対応が必要だ」などとして、報酬を引き上げるべきだという意見が出ていました。

一方で「介護保険制度の支え手である現役世代は、コロナの影響で収入が減っている。これ以上、保険料の負担が増えないよう、例えば感染予防にかかる費用は介護報酬の引き上げではなく、国の補助金で賄うなどメリハリをつけた対応が必要だ」などと、慎重な意見も出ていました。