「長男だからって我慢できない」~子どもをその気にさせる方法

「長男だからって我慢できない」~子どもをその気にさせる方法
「俺は長男だから我慢できた」

人気漫画「鬼滅の刃」の主人公が戦いの場面で発したこのせりふ、「うるっときた」「すごく好き」などと大きな反響を呼んでいます。
でも、こんなふうに言われたこと、言ってしまったこと、ありませんか?
「お兄ちゃんなんだから我慢しなさい」
「お姉ちゃんでしょ、しっかりしてよ」

育児に追われ、家事に追われ、仕事に追われ、ついつい口にしてしまうこんなことば。実は、子どもには逆効果になるようです。うまく言いかえて、子どもにちょっと頑張ってもらえる方法はないのでしょうか。
〈ネットワーク報道部 記者 成田大輔(長男・2児の父)/國仲真一郎(長男)〉

本人が言うのはいいけれど…

話題のせりふが登場するのは、「鬼滅の刃」の原作の漫画と、テレビアニメです。

鬼になってしまった妹を救うべく戦う主人公の少年、炭治郎。けがの痛みに耐えながら、みずからを奮い立たせるために発したことばです。
映画のヒットもあって、最近になってもSNS上でさまざまなコメントが寄せられています。
「痛いほどによくわかる」
「責任感が強いんだな」
「炭治郎の強さを表してる」
一方で、こんな指摘も。
「次男だって我慢出来る」
「違和感がある」
「謎理論…」
全国の「お兄ちゃん」の思いを代弁するようなこんな投稿もありました。
「長男本人が言うからいいのであって、『お兄ちゃんだから我慢できるよね』は、全国のお兄ちゃんが我慢ならないほど聞き飽きたことばだ」
大人からは言われたくないことばのようですね。

でも、親の立場ではつい口にしがち。下の子どもが生まれて上の子にきつくあたったり、これまでのようにかまってあげられなくなったりしたことを反省する人も多いようです。

SNSには、こんな投稿が。
「毎日毎日、ワンオペで末っ子の世話もあるから長男長女には我慢させてばかり…」
「次男が生まれて、長男を叱ることが増えた。ちょっと待ってねも増えた。我慢させちゃってるんだろうなぁ」
「うちも長男に我慢させてばかりで毎晩寝顔見て後悔です」
筆者(成田)には娘と息子がいますが、たまにきょうだいげんかを見かけると、ついつい上の娘のほうを止めてしまいます。

(父親=筆者)「弟は小さいんだし、お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」
(娘)「弟が悪いのに、どうして私にばかり言うの!好きでお姉ちゃんになったわけじゃない」

こんなふうに言われ、どきっとすることもありました。

「お姉ちゃんになっておめでとう」

何かいい方法はないものでしょうか。解決の糸口になりそうな投稿が、今、注目されています。

書き込んだ女性は、自分が小学生だったとき、弟ができたころのことを振り返っています。
うちの母は私に弟が産まれる際に「産まれた赤ん坊はお祝いを貰っても覚えてないから、頂けるのなら先の子に『お姉ちゃんになっておめでとう』お祝いを」と根回ししてたそうで、私の元には『お姉ちゃんおめでとう贈呈品』が届きまくり、有頂天鼻高々からの姉人生スタートでした

単純なわたくし「はっはっは、何でも我慢してしんぜよう!なぜなら私お姉ちゃんだから!お姉ちゃんだから!!!ドヤァ!!!」
母「さすがお姉ちゃんになると違うわね、凄いわね」
単純なわたくし「はーっはっはっは!!」
一連の投稿は、取材した時点でリツイートが合わせて4万以上に上っています。

投稿した女性に話を聞くことができました。

この女性に弟ができたのは、8歳の時だったそうです。「出産祝いを贈ろう」と言ってくれた親戚や周りの人たちに、母親はせっせと根回しをして、弟へのお祝いでなく、お姉ちゃんになる私にプレゼントを贈るようしむけてくれたのです。

その結果、お姉ちゃんとなった自分のもとには、当時大好きだったキャラクターのグッズなどが次々と届いたそうです。
女性
「弟が生まれたばかりでそちらに手がかかったと思いますが、寂しさを感じないくらい、とにかく周りから『おめでとう』って言われて、目いっぱいかわいがってもらった記憶があります。弟が生まれても『お母さんを取られた…』という気持ちはまったくありませんでした。むしろ『弟ができるってこんなにいいことなんだ!』と思っていました」

「お姉ちゃん」への道 弟が生まれる前から

実は「お姉ちゃん」になるための準備は、弟が生まれる少し前から始まっていたようです。こんなエピソードも話していました。
女性
「お祝い作戦と並行して、生まれる前には『最後の一人っ子満喫期間』がありました。母や、母のお腹が大きくなると父が、いろんなところに遊びに連れて行ってくれたのです。両親が力のかぎり私を中心に動いてくれて、『生まれてくる弟にはこんなに楽しい一人っ子の期間がないんだなぁ。その代わり、両親だけじゃない“プラス1人分”として、私が思いきり弟をかわいがろう』と思ったのを覚えています」
いざお姉ちゃんになったあとも、いろんな“仕掛け”があったそうです。
▼「生まれて初めてできた寝返りは特別なことなので、お姉ちゃんが見つけられたらすごいね!」と言われ、ずっと弟の面倒を見ていた。
▼「お姉ちゃん、ミルク作ってみる?」と言われ、やってみると「できたの、すごいね!」と褒められた。こんな調子で、ミルクやおしめの取り替えなどを自分から手伝ってやっていた。
女性
「もしも『お姉ちゃんでしょ、面倒見てよ!』などと言われたら、『好きなことしたい!』と反発していたかもしれません。どこか我慢していることもあったのかもしれませんが、自分でもそれに気づかないよう、うまく誘導してくれたと思います。それどころか、『自分は特別なことをしているのだ』と夢中になって弟の様子を見ていました」
巧みな手ほどきを受けながら立派な「お姉ちゃん」になれたこの女性。振り返れば、「お姉ちゃんだから○○しなさい」とは一度も言われたことがないそうです。

弟さんとも仲がよく、大人になった今も一緒にテーマパークに遊びに行くような関係が続いているそうです。

弟・妹ができると気持ちが不安定に

「このお母さんの発想は非常にすばらしい。あるべき姿だと思います」こう評価するのは、新潟青陵大学の碓井真史教授(心理学)です。

碓井教授によりますと、弟や妹が生まれたとき、上の子は不安定な心理状態になるそうです。
碓井教授
「一番上の子は愛情も何もかもすべて独り占めしていましたが、弟や妹ができると、親の注目も愛情も全部そっちに向いてしまう。独り占めしていたものが奪われて精神的に不安定になり、退行現象、いわゆる『赤ちゃん返り』を見せたり、下の子をいじめたりすることが起きやすいのです」
そんなとき、親が言ってしまいがちな「もう、お兄ちゃん/お姉ちゃんなんだから」。

碓井教授は警鐘を鳴らします。
碓井教授
「上の子が急に甘えんぼになると、親は不安になって『なんとかしなきゃ』『強く立派に育てなきゃ』と、こうしたことばをかけてしまいます。でも、子どもにとっては逆効果です。親の愛情を奪われたと感じている子どもはますます不安が強くなり、悪循環に陥ってしまいます」

子どもの心に余裕を

それでは、上の子にどんなふうに向き合えばいいのでしょうか。

碓井教授は、子どもに「心の余裕」を持たせることが大切だと指摘します。
碓井教授
「何かを我慢してもらうには『心の余裕』という土台が必要です。『我慢しなさい!』とムチで打っても長続きしません。赤ちゃんが生まれても『僕のほうが、私のほうが愛されているんだ。しょうがないから我慢してやろう』と、安心感のある心理状態においてあげることが大事なんです」
そのために必要なことは。
碓井教授
「機を見ておだててあげることです。『さすがお姉ちゃん!』とか『幼稚園生はすごいね』と褒める。そして時には“特別扱い”をしてあげることです。ナイショでお出かけをしたり、上の子にだけこっそりおみやげを渡したり。あめ玉1つでも子どもは“特別感”を受け取ってくれます。それぞれのおうちの状況にあわせてやってみてください」
“特別扱い”をしていいのかと思うかもしれませんが、碓井教授は「子どもにとって平等なんて関係ありません。大きくなれば分かってくれます」と話していました。

なるほど、ちょっとしたことばや贈り物でも、自分のことを大切に思ってくれる気持ちは伝わりますよね。

上の子に限らず

取材を進めていくと、この話、弟や妹ができた上の子だけの問題ではないと感じるようになりました。

「きょうだい児」ということばをご存じでしょうか。障害や病気がある兄弟姉妹のいる子どもたちのことです。いろんな面で我慢を強いられがちで、特有の悩みを抱えることも少なくありません。

きょうだい児の支援を行う公益財団法人「東京YWCA」によりますと、こうした子どもたちは、親の関心が障害や病気のある子どもに向きやすいため、暗黙のうちに、親から期待される役割を果たそうと懸命になりがちだといいます。

面倒見がよく、手伝いを進んでやったり、きょうだいの分まで勉強も運動も頑張ったりする子どもが多いそうです。

実はそれだけ自分にプレッシャーをかけて頑張りすぎているので、注意が必要だと指摘します。
土岐さん
「きょうだい児の気持ちに親が気づいてあげることが大切です。そして1対1で過ごせる時間を作り、障害や病気のある子どもと同じくらい、あなたのことも大事なんだということをきちんと伝えてほしいと思います。そんな心の余裕を持つために、親自身も自分と向き合う時間、リフレッシュする時間が必要です」
この団体では、きょうだい児だけが集まってのびのびと遊べる場を設けているほか、親どうしが悩みや思いを分かち合う場も用意して、親子それぞれへの支援を続けているということです。

少しのことばと工夫で

子どもの心にも、親の側にも、どちらにも「余裕」が必要だという話が印象的でした。

大事なのは、「あなたのことが大切だ」という気持ちを伝えるためのちょっとしたことばと工夫なのかもしれません。