【データで読む】有効求人倍率1.03倍 その歴史を振り返ると…

ことし9月の有効求人倍率は1.03倍と9か月連続で低下し、2013年12月以来の水準となりました。ハローワークの求人数は去年の同じ月より70万人近く減少していて、厚生労働省は「一部で持ち直しの動きはあるものの、今後の見通しは不透明だ」と話しています。

1年間で0.55ポイント下落

厚生労働省によりますと、仕事を求めている人1人に対して企業から何人の求人があるかを示す、ことし9月の有効求人倍率は1.03倍となり、前の月を0.01ポイント下回り9か月連続で前の月より低くなりました。

有効求人倍率が1.03倍となったのは、6年9か月前の2013年12月以来です。

有効求人倍率は去年9月からの1年間で0.55ポイント下がり、厚生労働省によりますと、年間の下げ幅としてはオイルショックの影響を受けた1975年7月の0.62ポイントに次ぐものとなっています。

有効求人倍率 「下落」の歴史とその後の「回復」

【オイルショック】。
1970年代のオイルショックの際には、1973年11月に1.93倍となったあと、下落傾向が続き1978年1月には0.51倍まで下がりました。その後1988年6月に1.01倍となるまで10年以上にわたって1倍を下回る時期が続きました。

【バブル崩壊】。
バブル経済による好景気で1990年に1.46倍まで上昇しました。しかし「バブル崩壊」の影響で下落が始まり、「就職氷河期」を経て、その後1倍を回復したのは2005年12月でした。

【リーマン・ショック】。
世界的な不況、いわゆる「リーマン・ショック」の際には、アメリカの投資銀行「リーマン・ブラザーズ」が破綻した2008年9月に0.83倍でしたが、1年後の2009年9月には0.43倍まで落ち込みました。その後1倍を回復したのは2013年の11月でした。

【今回の『コロナ禍』の影響はいつから】。
厚生労働省によりますと「有効求人倍率に新型コロナウイルスの影響が出始めた」としているのは1.45倍だったことし2月からで、それ以来今回の発表分までの7か月間で0.4ポイント余り下落しています。

産業別には“まだらに”

全国のハローワークにある企業からの求人、ことし9月の「有効求人数」は200万9091人と、去年の同じ月より68万6214人、率にして25.5%減少しました。

このうち、9月に出された新規の求人は75万8091人と、去年の同じ月より15万9083人、率にして17.3%減りました。
厚生労働省が、企業からの新たな求人数を、主要な11の産業別に、前の年の同じ時期と比較する形でまとめたデータです。

すべての業種の平均はマイナス17.3%でした。
このうち、
▽「建設業」が5.9%増え、11の産業別の中で唯一のプラスでした。
また、
▽「教育・学習支援業」がマイナス0.2%。
▽「医療・福祉」がマイナス7.8%でした。
一方で、
▽「卸売業・小売業」がマイナス28.3%。
▽「宿泊業・飲食サービス業」がマイナス32.2%。
▽「生活関連サービス業・娯楽業」がマイナス32.9%と大きく落ち込みました。

1倍を下回ったのは14道県

有効求人倍率を都道府県別でみると、最も高いのは
▽福井県で1.44倍、
次いで
▽岡山県で1.38倍、
▽島根県で1.30倍、などとなっています。

一方、最も低かったのは
▽沖縄県で0.64倍、
▽神奈川県で0.74倍、
▽滋賀県で0.82倍などとなっています。

有効求人倍率が1倍を下回ったのは、14の道と県になっています。

あなたの地元は

北海道 0.94倍
青森県 0.89倍
岩手県 1.00倍
宮城県 1.14倍
秋田県 1.23倍
山形県 1.03倍
福島県 1.15倍
茨城県 1.19倍
栃木県 0.93倍
群馬県 1.08倍
埼玉県 0.86倍
千葉県 0.85倍
東京都 1.19倍
神奈川県 0.74倍
新潟県 1.18倍
富山県 1.15倍
石川県 1.09倍
福井県 1.44倍
山梨県 0.91倍
長野県 1.00倍
岐阜県 1.20倍
静岡県 0.90倍
愛知県 1.01倍
三重県 1.01倍
滋賀県 0.82倍
京都府 1.01倍
大阪府 1.12倍
兵庫県 0.93倍
奈良県 1.09倍
和歌山県 0.96倍
鳥取県 1.19倍
島根県 1.30倍
岡山県 1.38倍
広島県 1.19倍
山口県 1.20倍
徳島県 1.05倍
香川県 1.25倍
愛媛県 1.23倍
高知県 0.93倍
福岡県 1.00倍
佐賀県 1.02倍
長崎県 0.88倍
熊本県 1.10倍
大分県 1.08倍
宮崎県 1.11倍
鹿児島県 1.08倍
沖縄県 0.64倍
【岡山県「新規求人が大幅に減る傾向 就職活動が長期化」】
有効求人倍率が1.38倍となり、前の年の同じ月と比べるとマイナス15.7%と、厳しい状況の岡山県。岡山労働局は「新規の求人が大幅に減る傾向が続いており、就職活動が長期化していると見られる。仕事を求めている人それぞれの状況に応じたきめこまかな相談を行いたい」としています。

【愛知県 8年10か月ぶりの低さに「先行きは不透明」】
有効求人倍率が1.01倍となり平成23年11月以来、8年10か月ぶりの低さだという愛知県。愛知労働局は、「新型コロナウイルスの影響下でも経済活動が少しずつ回復しつつあるが、先行きは不透明だ」としています。仕事を雇い止めにあったという40代の男性は、「数か月前に仕事を失いました。これまでやっていなかった営業の仕事にも広げて幅広く面接も受けていますが、かなり厳しいです」と話していました。

【北海道 5か月連続で1倍を下回る】
北海道労働局が行った調査によりますと、10月23日までの8か月余りで、解雇された人は283の事務所で1489人に上っているということです。また休業している人は、1万379の事業所で16万2686人に上っていて、新型ウイルスの感染拡大によって雇用情勢の悪化が続いています。北海道労働局の上田国士局長は、実際の数字はこれよりも明らかに多いと見られるとしたうえで、「宿泊業や観光業などは感染拡大の影響が特に大きく、労働者が事業主都合で辞めているケースも増えてきている」としています。

【高知県 5か月連続で1倍下回る】
有効求人倍率が0.93倍と、四国で最も低い高知県では、5か月連続で1倍を下回っています。新規の求人は、主要13業種のうち9業種で去年の同じ月と比べて減少していますが、GoToキャンペーンなどの効果もあり「宿泊業・飲食サービス業」などでは減少幅が縮小しています。

【滋賀県 自粛で宿泊業、飲食サービス業はマイナス61%に】
有効求人倍率が沖縄県の0.64倍、神奈川県の0.74倍に次いで0.82倍と全国で3番目に低くなった滋賀県。新規の求人を産業別で去年の同じ月と比べると、主要11業種のうち8業種が減少していて、このうち新型コロナウイルスによるさまざまな自粛の影響で、「宿泊業、飲食サービス業」がマイナス61%、「卸売業、小売業」がマイナス41%と、減少が目立っています。

専門家「人が足りない業態と逆に余ってしまう業態」

有効求人倍率が9か月連続で低下したことについて第一生命経済研究所の星野卓也副主任エコノミストは「経済活動が再開される動きに合わせて企業からの求人は一部では持ち直してきている」としています。

そのうえで「雇用調整助成金などの国の政策で下支えをされている企業は多いが、今後も売り上げが戻らなければ倒産や廃業で仕事を失う人が増えるおそれがある。新型コロナウイルスの影響がとくに大きい業種を中心に雇用が悪化して年末年始のタイミングで有効求人倍率は1倍を下回る可能性がある」と指摘します。

また「新型コロナウイルスの影響が長期化する中で人が足りない業態と逆に人が余ってしまう業態が出てきてしまっている。働く人が人手不足の企業にうつりやすくする、新たな場所で働きやすくする『労働力移動』の環境を整えることが重要だ。政府は働く人が新たな知識やスキルを身につけるための支援など積極的な施策を打ち出すことが求められる」と話しています。

企業による求人の減少

有効求人倍率が低下している背景には、企業による求人の減少もあります。

求人情報誌などでつくる「全国求人情報協会」のまとめでは、全国の情報誌やサイトに掲載された求人広告の件数は、新型コロナウイルスの感染が広がる前の、ことし2月には164万件余りありました。

しかし、3月以降は減少し始め、
▽4月は去年の同じ月に比べて、マイナス37.4%、
▽6月はマイナス58.2%まで落ち込み、
▽9月も68万件余り、マイナス55.5%にとどまっています。

求人情報に詳しい、リクルートジョブズジョブズリサーチセンターの宇佐川邦子センター長は、現在の状況について「人材採用の需要自体が減っているケースもあるが、企業側が採用活動をする余裕がなく、求人を止めているケースもある。求人がないからといって、必ずしも人手が足りている訳ではない」としています。

そのうえで「今は在宅勤務や時短の増加で、フルタイム以外に副業として働きたい人たちの応募も増えているため、採用側にとっては人材確保のチャンスではないか」と話しています。

厚生労働相「雇用調整助成金の対応検討」

田村厚生労働大臣は、閣議のあと記者団に対し、「コロナ前と比べ、よい状況ではないのは確かであり、これからも雇用は非常に厳しい状況も予想されるので、雇用調整助成金の特例措置について、どう対応をしていくか検討したい」と述べました。