コロナ 川久保玲が語ったこと

コロナ 川久保玲が語ったこと
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この秋、パリや東京など世界中で開かれたファッションショー。これまでのランウェイで見せるショーに代わって、多くのブランドがオンラインで作品を発表するなど、新型コロナウイルスの影響で様変わりしました。未曽有の厄災の中で作品作りにあたった日本のデザイナーたちは、どう試行錯誤し、何に挑戦したのか。そして、作品にはどんな思いを込めたのか。世界のファッション界をリードしてきた日本のブランド「コム デ ギャルソン」のデザイナーの川久保玲さん、そして日本の若きデザイナーたちに思いを聞きました。
(科学文化部 記者 富田良/NHKチーフ・プロデューサー 小川徹)

※上の画像のPLAYボタンから、10月21日の「ニュースウオッチ9」で放送した、川久保玲さんのインタビューの動画を見ることができます。

コロナ禍で開かれたファッションショー

10月19日、都内のビルの一角でひっそりと開かれたファッションショー。

新型コロナウイルスの感染防止のため、会場に入れるのは招待された20人ほどの関係者のみ。

従来のファッションショーとは全く違う光景ながらも、会場には期待と緊張が入り交じった雰囲気が漂っていました。

ショーを主催したのは、日本を代表するファッションブランド「コム デ ギャルソン」。世界のファッション界をリードする存在として、およそ40年にわたって毎年パリコレクションで新作を発表してきましたが、ことしは新型コロナウイルスの影響で参加を断念。その代わりに東京で開いたのが今回のショーでした。
赤く照らされたライトの下、ノイズ音とともにランウェイにモデルたちが姿を現しました。

身にまとっていたのは、目のモチーフがランダムにプリントされたドレスや、透明な素材をベースに使った独特のかたちのドレス。

15分間のショーで発表された20点の新作に見られたのは、伝統的なスタイルやテクニックに、ディズニーやベアブリックといったキャラクターを組み合わせるなど、アンバランスとも言えるデザインでした。

ショーのあとに明らかにされた、今回の作品のテーマ、それは「不協和音」でした。
拍手とともにショーが終わると、ステージ袖に1人の女性が姿を現しました。

作品のデザイナーであり、「コム デ ギャルソン」の社長を務める、川久保玲さん(78)です。

1969年にブランドを立ち上げ、1981年には世界で最も有名なファッションの祭典、パリコレクションに初めて参加。当時のファッション界ではタブーとされていた黒色を基調とし、穴があいてぼろぼろにも見える服を発表して世界を驚かせ、「黒の衝撃」と呼ばれました。

その後も、腰や肩にこぶのようなものがついたデザインのドレスなど、これまでの美の概念を超え、新たな価値観を提示する川久保さんのデザインは、その革新性が世界から高く評価されてきました。

「不協和音」をテーマに選んだ理由

常に新しいものを生み出してきた川久保さんが、コロナ禍の今、作品を通じて何を伝えようとしたのか。

テレビメディアの取材にほとんど応じることのなかった川久保さんに、今回、ショーの合間の10分間、取材に応じてもらうことができました。
Q. テーマに「不協和音」を選んだ理由は?
川久保さん
「シルエットなりデザインの方向としてはクラシックなんですね。シルクとか刺しゅう、レースとかきれいなものに対して、コミックやディズニーなど相反するものを材料としてぶつけることで、不協和音を生むことをねらいました。不協和音が生じる時は普通ネガティブに考えますが、今回はそれとは逆で、ぶつかった時にパワーやエネルギーが生まれる、それをテーマとしました」
川久保さんが語った“不協和音”で生み出すパワー。新型コロナウイルスの感染拡大で不安や混乱が広がる現代社会に投げかける強いメッセージがありました。
川久保さん
「問題提起というか、こういう状況の中で、萎縮したり何もしなかったり諦めたりするのではなくて、こういう時だからこそ新しいものづくりをしたいと思うし、見ていただきたいと思います。やはりクリエーションは大事だと思います。それが前へ一歩進むためのエネルギーになって、状況をいい方向にもっていけるんじゃないかと思います。ハングリー精神とよく言いますよね。今、厳しい立場におかれているのはハングリーなんですが、思うようにできないことを乗り越えることが、パワーや力を生むと思います」

世界をリードし続けるために

川久保さんはデザイナーとしてだけでなく、およそ1000人の従業員を抱えるブランドの社長として、経営面にも力を入れています。

各店舗のレイアウトや商品の配置などにも川久保さんの意見が反映されているといいます。

店舗を訪れた客に話を聞くと、誰もが、川久保さんの作品からさまざまな力を受け取っていると話しました。
30代男性
「ファッションの力を感じとれるというか、川久保さんのデザインってすごいなって心から思います」

50代女性
「私にとっては、よろいじゃないけど、着させてもらって自分が強くなる。仕事の時の戦闘服のような時もあった」
ファッション誌編集長
「このクリエーションをまとうことによって新しい自分になるというか、すべてのクリエーションの源みたいなものです」

川久保玲さん 仕事への原動力は

78歳になった川久保さん。新型コロナウイルスの感染拡大で外出の自粛が言われた中でも、1日も手を休めず、毎日、早朝から夜まで創作に取り組んでいます。
川久保さん
「自分の日々毎日を、新しいことを探すことで、それだけですね。何もできない。ただ、自分の毎日を一生懸命新しいことを探すことで結果につながるといいなと思っています。満足することはないです、だから前へ行くことになると思います」
新型コロナウイルスの影響で厳しい状況に置かれる人も多くいる中、前向きに生きるためにはどうすればいいのか聞くと。
川久保さん
「自分自身で前を向くこと。それが結果、いいほうに向かうことになると思う。1人1人がそういう気持ちになればね。皆さんがそれぞれ希望を持てば、それが大きな希望になるんではないでしょうか」
どんな状況でも決して立ち止まらない、諦めてはいけない。妥協を許さず、常に前へ進み続けてきた川久保さんのメッセージです。

若い世代のデザイナー 試行錯誤と挑戦

ことし、川久保さんとともに長年世界で活躍してきた、山本寛斎さんや高田賢三さんという日本のトップデザイナーが相次いで亡くなりました。

川久保さんのショーが行われた10月中旬、次の世代を担う日本の若手デザイナーが「ファッションウィーク東京」で作品を発表していました。
多くの作品の制作期間は、ちょうど4、5月の緊急事態宣言下。若手デザイナーたちは、ファッションという自分たちの仕事の意味を見つめ直しながら挑戦を続けていました。

デジタルとリアルの融合

目立ったのが、オンラインでの作品発表の特徴を生かしたものでした。
「ダブレット」は、ごく少人数の観客を招いたショー会場から、事前に撮影したゾンビの短編映像を配信、映像終了後に特殊メイクでゾンビにふんしたモデルが会場に現れ、新作の服を披露しました。

「デジタル」と「リアル」を融合するコンセプトです。

新たなシーズン感

新たなシーズンの考え方を提案したのは、「タクタク」のデザイナーの島瀬敬章さん(35)です。
これまでショーでは、秋には翌年の春夏の服を発表することが前提でしたが、今回のテーマは、ウィンターとサマーの両方。

春夏の服なのに、コートやマフラーなど秋冬に多く見られるアイテムも発表され、それをショートパンツやタンクトップと合わせる提案を行いました。
春夏物の服が店頭に並ぶ1月には、まだその服が着られないという現状に対して違和感を感じていた島瀬さん。

「服を着たくても着られないという気持ちが、外に出たくても出られない。人と会いたくても会えないという緊急事態宣言下での気持ちと重なり合い、今回の発想につながった」と話しています。

持続可能なファッション

また、「サステイナブル」という言葉を使って表現するデザイナーも数多くいました。

服を大量生産、大量販売し、大量に廃棄するという現在の服作りの常識を変えようという試みで、コロナ禍で大量の売れ残った服を前に、これまで当たり前とされてきた業界の慣習を問い直す動きが加速しています。
「リト」は、服を1シーズンで終わらせるのではなく、前のシーズンや次のシーズンのアイテムとつなげて着られるシリーズを発表。

ボタンとひもを使って、シャツにキャミソールを重ね着したり、自由にポケットを付けたりするなど、流行やシーズンに合わせるのではなく、過去の服を着ても色あせることなく、長く着てもらうためのデザインと素材開発に取り組みました。
背景には、デザイナーの嶋川美也子さんの緊急事態宣言下での思いがありました。

「洋服は常に新しいデザインばかりを生み出し、流行の波に乗っていないといけないのだろうか…そもそも、コロナがずっと続けば、流行の定義がなくなるのではないか…」

嶋川さんはこうした取り組みをさらに進め、今後は、衣類に使った繊維を土として再利用するなど、循環型のものづくりを目指したいとしています。

人間の手作業を見直す

「ドレスドアンドレスド」のデザイナーの北澤武志さん(38)は、緊急事態宣言下で仕事がストップし、「自分たちの仕事は不要不急なのか」という不安にさいなまれながら、「今できることは何か」を必死に考えたといいます。
彼がスタッフとともに始めたのは、みずからの手を動かし、前シーズンに発表した服に糸やボタンで装飾することでした。

1着のジャケットを仕上げるのに240時間。1点1点、憑かれたように装飾を施していきました。

できあがった服はオンラインで発表され、好評を得ました。
ブランド設立から11年間、これまでシンプルな服を中心に発表してきた北澤さんですが、そこに緻密な手仕事が加わることで、自分たちの作り出す服の新たな魅力が見つかったと言います。

取材を通して

半年ごとに大量のコレクションを作り出すという、ものすごいスピードで動いてきたファッションの世界。

近年はそれぞれのシーズンの前にプレコレクションを発表するブランドも増え、そのスピードはさらに加速していました。

そこに冷や水を浴びせたのが、新型コロナでした。

ちょうど社会が消費社会へと大きな転換を遂げようとしていた1980年代に、日本からファッションの革命をもたらし、その後も世界の一線を走り続けている川久保さんがコロナ禍で発した「もの作りのパワー」という言葉。

そして、コロナ後という大きな転換期に向かってさまざまな模索を続ける若いデザイナーたちの言葉。

その中に日本のファッションの未来への手がかりがあるように感じました。
科学文化部 記者
富田 良
NHK チーフ・プロデューサー
小川 徹
2007年にファッション番組を立ち上げ、その後もファッションを継続して取材。