フランス 感染再拡大で全国一律の外出制限 今月30日から

フランスのマクロン大統領は新型コロナウイルスの感染が再び急速に拡大していることを受けて今月30日から1か月余り、ことしの春以来となる全国一律の外出制限を行うと発表しました。

フランスでは新型コロナウイルスの感染が再び急速に広がっていて感染者はヨーロッパで最も多く120万人を超えました。1日の死者の数も27日には500人を超え、医療現場の状況も深刻化しています。

マクロン大統領は日本時間の29日午前4時から国民に向けてテレビ演説を行い「今、感染拡大にブレーキをかけないと病院はすぐにいっぱいになり医師は助ける患者を選ばなければならなくなる」と述べて現状に強い危機感を示しました。

そのうえで今月30日から12月1日までの1か月余り、全国一律で通勤や健康上の理由などを除く外出を制限すると発表しました。

生活必需品を取り扱う店以外は営業ができなくなるほか、飲食店は閉鎖されます。詳細は29日に明らかにするとしています。

外出制限はことしの春以来、5か月半ぶりとなります。ただ、春とは異なり、小学校や中学校は休校にしませんでした。一方で大学などの高等教育機関についてはオンラインの授業しか認めないとしています。

フランスでは2か月近くに及んだ春の外出制限で経済が深刻な打撃を受けていて、マクロン大統領は「経済が止まり崩壊してはいけない」と述べ、外出制限の中でも製造業や農業、建設業などは続くと強調しました。

フランス政府はこれまで経済への影響を少なくするため夜間の外出禁止などより緩やかな措置で乗り切ろうとしてきましたが、感染拡大に歯止めがかからず規制のさらなる強化に踏み切る結果となりました。

パリの飲食店員「本当に厳しい」

パリ南部の飲食店では店員や食事に訪れた人たちがマクロン大統領のテレビ演説を見守り、全国一律の外出制限となることが発表されると、店内からは小さな悲鳴のような声やため息が聞かれました。

店員の男性は「今後どのように収入を得られるのかわからず本当に厳しいです。1回目の外出制限が終わってからも売り上げは50%ぐらいにしか戻っておらず、こんな状況で再び外出制限になるのは最悪です。今後のことは、あす、ほかの店員たちと話し合います」と話していました。

また、客の女性は「また外出制限になるなんて悔しいです。レストランやバーがたくさん潰れてなくなってしまうのではないかと心配です」と話していました。

感染 急速拡大の現状と背景は

フランスでは夏のバカンスの時期にあたることし8月ごろから新型コロナウイルスの感染が再び拡大し始めました。1日当たりの感染者は7月には多くても1000人前後でしたが、今月に入って2万人、3万人と増え、今月25日には5万2000人を超えました。感染者は今月だけで60万人以上増え、ヨーロッパで最も多くなっています。

感染拡大とともに急速に増えているのが重症化して集中治療室に運ばれる人です。集中治療室に占める新型コロナウイルスの患者の割合は一時は10%を切っていましたが、今月27日の時点で60%近くにまで迫り、医療現場への負担が増しています。今月27日にはウイルスへの感染で500人を超える人が死亡し、ことし4月並みの水準となっています。

感染が再び広がった背景の一つとして指摘されているのが、予防策の徹底不足です。フランスでは公共の場でのマスクの着用は広がりましたが、フランス公衆衛生局の意識調査では、厳しい外出制限が終わった直後のことし5月中旬には70%以上が人と集まることを避けていたのに対し、9月中旬にはその割合は32%余りと大幅に低くなりました。中でも18歳から24歳の若者は22%にとどまっています。

仏大統領「このままでは来月中旬に治療能力限界」

マクロン大統領は、28日の演説で「国内のすべての地域が警戒すべき状況にある」と述べ、第2波への強い危機感を示しました。

フランスでは、28日の時点で、新型コロナウイルスの患者3045人が集中治療室で治療を受けており、集中治療室のベッドに占める新型ウイルスの患者の割合は60%となっていて、一部の医療機関ではがんや心臓の手術をとりやめる事態になっているということです。

フランスでは、3月末にも同様に集中治療室で治療を受ける患者が3000人を超えましたが、その後、4月上旬には7000人にまで増え、医療現場がひっ迫しました。

フランス政府によりますと今回の第2波では、都市部以外での感染の広がりによってこのあと重症患者が増加し地方の医療現場がひっ迫することが懸念されています。

マクロン大統領は、「このままでは、来月中旬には9000人が集中治療室に入ることとなり、治療の能力が限界に到達する」と述べ、医療崩壊を避けるためにも、いま厳しい措置が必要だと強調しました。

そのうえで「市民一人一人の責任感が必要だ。制限を守って、できるかぎり自宅にとどまってほしい」と呼びかけ、外出制限への理解を求めました。

次々と対策強化も 感染の勢い止まらず

ことし春以来の2回目となる、全国一律での外出制限に踏み切るフランス。

政府は感染の広がりを抑え込もうと8月以降、次々と対策を強化してきました。

▽8月下旬には、首都パリで屋外でのマスクの着用を義務づけました。

また、
▽9月下旬には、南部のマルセイユなど、感染が特に広がった地域で、飲食店の営業を2週間にわたって禁止しました。

そして、
▽今月17日からは、感染が特に深刻な首都パリと、その周辺の地域など9つの地域で、午後9時以降の夜間の外出を禁止する措置に踏み切りました。

さらに、
▽今月24日には、地域を大幅に増やし、パリなども合わせると、人口の3分の2以上に当たる、およそ4600万人が対象となりました。

こうした対策によっても感染の勢いは止まらず、25日には、1日の感染者が5万2000人を超えました。

春の「第1波」では、感染が一部の地域に集中していたため、比較的、余裕のある地域の病院に患者を移すこともできました。

しかし、マクロン大統領は28日の演説で「ウイルスは国中に広がっていて、今回は多くの患者をほかの地域に移送できない。今、感染拡大にブレーキを掛けないと、病院はすぐにいっぱいになる」と述べ、「フランスは、第1波よりも、厳しく多くの死をもたらしかねない第2波に圧倒されている」と訴えて、危機感をあらわにしました。