救急搬送の子ども 4割近く減少 医師“緊急時はためらわずに”

新型コロナウイルスの感染が拡大してから、病院に救急搬送される子どもの数が4割近く減っていることが分かりました。感染をおそれた受診控えや、対策による感染症自体の減少が理由とみられますが、中には病院に行くのを控えて症状が悪化するケースもあり、医師は「緊急時にはためらわずに病院へ連れてきてほしい」と呼びかけています。

ウイルスの感染が拡大したことし2月から先月末までに病院に救急搬送された人数について、NHKは、東京消防庁と全国の主な6都市の消防を取材しました。

その結果、ことしは73万4656人と、去年の同じ時期と比べて12万2617人、率にして14%減っていました。

連日の猛暑の影響で熱中症で搬送された人の数が過去最多となった8月でも、1万2254人減っています。

年代別に見ると、特に14歳以下の子どもについては、ことしは3万8471人と、去年に比べて2万3345人、率にして38%も減少していました。

月別にみると、緊急事態宣言が発表されていた4月と5月は47%の減少で、その後やや増加したものの、6月以降は41%の減少と0歳から5歳の乳幼児を中心に少ない状態が続いています。

全国の救急搬送者数は毎年増加し、去年も過去最多を更新していましたが、こうした中でも異例の少なさになっています。

減少の理由について、東京 渋谷区にある日本赤十字社医療センターの大石芳久小児科部長は、子どものウイルス感染を懸念した親の「受診控え」のほか、マスクや手洗いなどの対策で感染症自体が減っていることがあげられるとしています。

一方で、病院に行くのを控えて症状が悪化してしまうケースもあるということで、大石部長は「病院は感染対策を徹底しているので、いつもと明らかに様子が違う場合はためらわずに病院へ連れてきてほしい」と話しています。

全国各地の都市で減少広がる

救急搬送者数の減少は、全国各地の都市に広がっています。

NHKは、ことし2月から先月までの救急搬送者の人数を、札幌市、仙台市、東京都、名古屋市、大阪市、広島市、福岡市の合わせて7都市の消防に取材しました。

搬送者数はすべての都市で去年の同じ時期よりも減少していて、東京都ではおよそ7万3000人、大阪市ではおよそ1万8000人、名古屋市ではおよそ9200人と、率としてはおよそ10%から15%少なくなっていました。

14歳以下の子どもの搬送者数が減少する傾向も各地で見られ、率としては大阪市で41%、東京都で38%、名古屋市と札幌市で36%と、各地で去年より40%前後少なくなっていたことが分かりました。

特に緊急事態宣言が出されていた4月と5月は小中学生の搬送者数が大きく減り、各地の減少率は40%から62%と影響が顕著に表れていました。

病院に行くのをためらった母親も

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、幼い子どもを病院に連れて行くのをためらったという女性がいます。都内に住む北畠加奈枝さん(33)は、2歳の娘がいて、現在妊娠9か月です。

今月始めに娘の妃奈乃ちゃんが発熱、39度の熱が断続的に4日続きましたが、病院へは連れて行かず、家で様子を見たということです。

加奈枝さんは「これまでであれば病院へ連れて行ったと思いますが、自分も妊娠していることもあり、感染リスクが怖いという気持ちが大きかったです。それにひっぱくした医療状況の中で救急車を呼ぶのは迷惑ではないかという思いもありました」と話していました。

その後、妃奈乃ちゃんの熱はおさまったということですが、できるかぎり病院に行かなくても済むよう、手洗い・うがいの徹底のほか、家具などのこまめな消毒、外出先にも消毒液を持参するなど、生活スタイルも変化したということです。

それでも、再び病気になった時に病院に行ったほうがいいのか、判断は難しいと考えています。

加奈枝さんは「ぐったりしていたり意識がなくなったりとか命に関わる状況だと分かればすぐに救急車を呼ぶと思いますが、様子見でいけそうであれば呼ばないと思います。病院に行って本当に大丈夫なのかどうか、その線引きは正直難しいところはあります」と話していました。

病院「相談窓口など活用を」

東京 渋谷区の日本赤十字社医療センターでも、新型コロナウイルスの感染拡大以降、救急車の搬送を含む小児救急を受診する子どもの数は大きく減っています。

ことし2月から先月までの間にこの病院の小児救急を受診した子どもの数は1213人で、去年の3分の1にまで減りました。

中でも緊急事態宣言が出た4月は38人と去年の449人の10分の1以下になり、先月も去年のおよそ3分の1と少ない状態が続いています。

大石芳久小児科部長は、過去にこれほど救急患者が少なかったことはないとしていて、理由としては、新型コロナウイルスへの感染をおそれた受診控えや、対策による感染症自体の減少をあげています。

一方で病院では、発熱などの症状が悪化してから受診する子どもも増えたということです。

大石部長は、小さな子どもの場合、いったん具合が悪くなると急に状態が悪化することがあり、緊急時は迷わず病院へ連れて行くことが大切だとしています。

そのうえで、迷った場合には「#7119」など、行政が運用している相談窓口を活用することや、かかりつけ医などあらかじめ相談先を調べておいてほしいとしています。

《迷った場合の相談窓口》。
▽小児救急の相談ダイヤル「#8000」。
▽小児に限らず救急相談を受け付けるダイヤル「#7119」。
※「#7119」は東京や大阪など一部地域の運用。