“コロナで人生が変わりました” 高校生 就活の苦悩

“コロナで人生が変わりました” 高校生 就活の苦悩
ずっと憧れていた仕事がありました。
しかし、高校3年のこの夏、進路の変更を迫られました。
「コロナで人生が変わりました」
「求人をぎりぎりまで探しました」
それでも生徒たちは力強く、前に進んでいます。
(青森放送局 記者 吉元明訓)

夢は結婚式を支える仕事

ブライダル業への就職を希望していた女子生徒は青森県十和田市の県立高校に通っています。
十和田市には県内有数の観光地、奥入瀬渓流があり、女子生徒が在籍する学科は観光科です。

2年生の時には観光客にボランティアでガイドをするなど、働きたい業種を少しずつイメージし始めました。

気になっていたのは「ブライダル業」です。インターネットの動画を偶然見て笑顔の新郎新婦を舞台袖でそっと祝い支える仕事に魅力を感じました。
女子生徒
「働くことで親も助かると思い、最初から就職を希望していました。早く独り立ちするために、青森県内から出て、関東に出て働きたいと思っていました」

ぎりぎりまで求人を探す

状況が大きく変わったのは、3年生になったことしの春でした。新型コロナウイルスの感染が拡大したのです。

東京などで感染者が相次ぎ、親とも相談して、就職先は青森県内にすることにしました。

県内でも去年はブライダル業の求人がありましたが、ことしはほとんどありませんでした。

「残念だけどしかたない」
ブライダル業は諦め、宿泊業も新たに視野に入れました。結婚式に関わる機会が比較的多いと考えたからです。でも、求人はほとんどありませんでした。

ことしの採用試験は例年より1か月遅い10月16日から。それでも志望が固まらず、迫ってくる時間に焦りが募っていました。
女子生徒
「焦って探して、親に求人票を見せてもっと探したほうがよいと言われて。ぎりぎりまで探していました」

人生の大事な場面に立ち会う仕事を

そんな時に目にとまったのが、葬祭業の求人でした。

曾祖父の葬儀でお世話になったことを思い出しました。
「人生の大事な場面に立ち会う仕事だ」
夏休みが終わるころ、葬祭業を目指すことを決めました。
9月の下旬、女子生徒に取材をした私は、どうしても気になっていた質問をしました。

「コロナさえなければと思うことはありますか?」

「コロナは…」一呼吸置いてこう続けました。
女子生徒
「自分でどうにかできるものではないです。納得のいく決断はできたと思います。整理はついています。今は内定をもらうことに集中して学校生活を送りたい」

就職から進学に変更も

「就職を断念し、進学に進路を変えた生徒が多い学校がある」
8月から始めた取材の中で気になる話を聞き、青森市の青森商業高校に向かいました。

対応してくれた進路指導部の谷村学教諭は、最初に求人票を束ねたファイルの一部を見せてくれました。ファイルの厚さは去年の半分ほど。高校生が直面する厳しさを物語っていました。
ことしはコロナウイルスの影響もあり、就職を志望していた生徒のうち2割が就職から進学に進路を変更したということです。

その1人、商業科の工藤龍星さんが話を聞かせてくれました。工藤さんは商業科に入った時から卒業後は就職すると決めていました。
憧れていた職業はホテルマンです。中学生の時、修学旅行で泊まったホテルで生徒相手にも臨機応変に対応するホテルマンを見て、憧れを抱いていました。

期待を膨らませながら、前の年の求人を見て試験を受ける会社の目星もつけていました。しかし、新型コロナウイルスで状況は一変しました。
工藤さん
「求人が県内にも県外にもぜんぜんなくて、自分の理想とするものが見つからなくて、とても残念でした」
ほかの業種も探してみましたが、しっくりきませんでした。

希望しない職業に就くより、もっと勉強して経営の知識を深めてから働いたほうがいいのではないか。親に相談しました。最初は就職を勧められましたが、最終的にお互い納得して、大学への進学を決めました。7月ごろでした。

週5日のアルバイトで学費を

一方で、学費をどう工面するかの不安が出てきました。

工藤さんは学校に許可をもらって夏休みにアルバイトをすることにしました。1週間に5日、倉庫で仕分けを行う仕事をしてお金をためました。奨学金も給付型と貸与型の両方を申し込むことにしました。

すべての学費は難しいかもしれませんが、できるだけ自分の力でまかないたいと思っています。5人兄弟の次男として下の兄弟3人に苦労をかけたくないからです。

工藤さんは今、11月に青森市内で行われる大学の指定校推薦の試験に向けて小論文の練習などに取り組んでいます。慣れない小論文に苦戦しながら新たな目標へ歩みを進めています。
工藤さん
「自分の人生は新型コロナウイルスの影響で変わってしまいました。不安もあります。大学生としてちゃんと勉強をして、自分の夢を追いかけられるような人になりたいと思っています」

高校生の求人 大幅に減少

高校生の求人はどこまで減少したのか。

厚生労働省によると、来年の春に卒業し就職を希望する高校生の求人倍率は、7月末時点で全国平均で2.08倍。去年の同じ時期を0.44ポイント下回りました。リーマンショックの影響が続いていた2010年以来の低下となっています。

特に青森県は1.13倍と沖縄県に次いで全国で2番目に低くなっています。
青森県内の企業からの求人数はことし8月末時点で3470人と、去年の同じ時期より4分の1近く減少していました。

影響が深刻な「宿泊業」では8割余りも落ち込みました。「飲食サービス業」では6割余りの減少、「製造業」ではおよそ4割減少と厳しい数字が並んでいます。

志望する業種を変えたり進学に切り替えたりした生徒の人数は、調査が行われていないため分かっていませんが、今回の取材を通して、そうした生徒は少なくないと感じました。

笑顔の報告

10月23日。今回、取材をさせていただいた十和田市の女子生徒の進路指導担当の先生からメールが届きました。

女子生徒が試験を受けた葬祭業者から内定をもらったという内容でした。

生徒は張り詰めていた気持ちがすっかり解け、笑顔で「受かりました」と先生に報告したということです。心からほっとする知らせでした。

取材を通じて…

人生の大きな分岐点。生徒のことばの端々からは進路の変更を迫られた苦悩が伝わってきました。
来年の春に就職を希望する高校生は全国でおよそ16万人。高校生の就職活動では2次募集、3次募集もあります。大学などの入試も始まります。

しっかり準備をして思いを実現してほしい。今後も取材を続けていきたいと思います。
青森放送局 記者
吉元明訓
平成24年入局 熊本局、三沢支局などを経て、現在は労働や教育問題などを取材