ANAホールディングス 過去最大5100億円の赤字見通し
新型コロナウイルスの影響で厳しい経営が続く、航空大手のANAホールディングスは、来年3月までの1年間の業績予想を公表し、グループ全体の最終的な損益が、過去最大の5100億円の赤字に陥る見通しを明らかにしました。
ANAホールディングスが27日に発表した、先月までの半年間の中間決算は、
▽売り上げが去年の同じ時期より72%減って2918億円、
▽最終的な損益は、過去最大の1884億円の赤字となりました。
これは、新型コロナウイルスの影響で、傘下の「全日空」の利用客が去年の同じ時期と比べて
▽国際線で96%、
▽国内線で79%、減ったことが主な要因です。
併せて公表した来年3月までの1年間の業績予想では、最終的な損益が過去最大の5100億円の赤字に陥る見通しだとしています。
このため株主への配当は、無配にすることを明らかにしました。
ANAは金融機関からの借り入れなどで、1兆350億円の資金を確保し、今後1年程度の運転資金はめどがついているとしています。
しかし、需要の低迷が長期化する事態に備えて、今月中に金融機関から資本性の資金である「劣後ローン」で、4000億円の融資を受けることを正式に明らかにしました。
また、コストを削減するため、
▽役職員の報酬や賃金、一時金の削減や休業や休職制度の拡充を労働組合に提案しているほか、
▽航空機の数を30機余り減らすことなどを発表しました。
ANAは、
▽希望退職の退職金の割り増しや、
▽一般職の社員を対象に、平均で年収の3割を減額する方向で、労働組合と交渉しています。
一方で、収益を確保する具体策も併せて発表しました。
この中では
▽航続距離が長いボーイング787型機を活用して、東南アジアやオーストラリアと結ぶ新しい格安航空のブランドを2022年度をめどに立ち上げるほか、
▽自社のマイレージサービスなどで集めた顧客データを生かした旅行事業や物販事業など、航空以外の分野を強化するとしています。
会見で片野坂真哉社長は「来年度の確実な黒字化と“アフターコロナ”を見据え、単なる止血策やコスト削減にとどまらず、ビジネスモデルを劇的に変化していく」と述べました。
ANA片野坂社長「公募増資 決めてない」

人件費の削減進める

今回、発表した構造改革では、すでに行っている役員報酬や管理職の賃金の減額に加えて、一般職の従業員も対象に賃金や一時金の削減などを労働組合に提案しているとしています。
正式には発表していませんが、月例賃金の一律5%カットや、冬の一時金の支給のとりやめなどで、平均で年収の3割を減額する方向で労働組合と交渉しています。
このほか、希望退職に応じる従業員の退職金を増やしたり、最長で2年間、給与なしで休み、キャリアアップに向けた活動に使える新たな休暇制度を設けたりして、人件費を削減する方針です。
さらに、従業員の雇用を維持するため、来年春までに400人以上の従業員を、外部のホテルやコールセンターなどに一時的に出向させるほか、これまで海外の企業に委託していた、航空機やエンジンの整備などを自社の従業員で行うとしています。
また、来年春に卒業する大学生などを対象にした採用活動を、パイロットと障害者を除いて中止を決めているほか、従業員を月に数日程度、休ませる一時帰休を継続することにしています。
航空各社は新たな収益源確立を目指す

このうち、ANAホールディングスは自社で展開する、マイレージサービスなどで集めた顧客のデータを生かしたサービスに力を入れます。
グループにあるマイレージサービスの運営会社と旅行会社を統合し、顧客のデータを分析して旅行や物販、それに広告といった事業を強化する方針です。
一方、日本航空は来月、「地域事業本部」という部署を創設して、地方を舞台にした新しい分野の事業の拡大を目指します。
地方で休暇を楽しみながら、テレワークで働く「ワーケーション」など、新たな需要をもとにした旅行商品の開発や、ホテルや観光施設向けに、接客マナーなどを教える研修事業などを行います。
さらに、離島や山間部でのドローンを使った物流や、人が乗れる「空飛ぶ車」の運航などの事業化も目指します。
こうした事業の強化に向けて乗務の機会が減っている客室乗務員を地方に派遣することにしていて、全国各地の営業所などに専従のスタッフとして20人を配置するほか、およそ1000人は、乗務を続けながら各地で新しい事業の業務にあたります。
機材の削減や路線の見直しも
まず、航空機の数は、ボーイング777など、大型機を中心におよそ30機を削減する方針です。
そして、運航の再開は国際線は羽田空港を優先し、国内線は機材を小型化して、羽田空港や大阪空港など需要が高い路線を中心に進めることで採算性を高める方針です。
また、グループ内の路線分担を見直し、「全日空」の運航規模を減らす一方、低価格が売りのLCC=格安航空会社の「ピーチ・アビエーション」の活用を推し進めます。
新たに中部空港に乗り入れて路線を増やしたり、全日空が引き受けた貨物の輸送にピーチの機体を活用したりします。
さらに航続距離が長いボーイング787型機を活用して、東南アジアやオーストラリアと結ぶ、新しい格安航空のブランドを2022年度をねどに立ち上げるとしています。
こうした取り組みによって「航空事業の規模を一時的に小さくすることでコロナのトンネルを抜ける」としています。
航空各社 コスト削減に採用とりやめなど

対応の一つが採用のとりやめです。
来年春に卒業を予定している大学生などの採用は、「日本航空」も「ANA」と同じように、パイロットと障害者を除いて採用活動を中止したほか、「スカイマーク」は、IT部門など一部の職種を除いて採用活動を中止しました。
賃金の削減では「日本航空」は、従業員の夏のボーナスを例年の半分の水準に減額し、経営陣は夏のボーナスを総額で3分の1に減らし、会長と社長の2人はゼロとしたほか、12月末までの役員報酬の1割を自主返納する措置をとっています。
今回、ANAが劣後ローンの形で4000億円の融資を受けるように、金融機関などから出資や融資を受けて財務基盤を強化する動きは、今後、地方の航空会社などにも広がることが予想されます。
航空機の需要がいつ、どの程度まで戻るのか、依然として不透明な状況が続いています。
航空各社は足元の危機をしのぎながら、経営の合理化や新たな収益源の育成を進め、利益を出せる姿を早期に確立することが課題となっています。